プロローグ 穴だらけの墓標
新連載だから初投稿です。
生暖かい目で見てくださると幸いです。
深く息をする暇なく引き金は引かれる狙いはそこだそこにいる。隣にいる仲間の息遣いが己が此処にまだいるのだと証明してくれている。
「撃ちまくれ!もうこの状況じゃ前撃ちゃ当たるんだからよ!」
絶え間なく響く機関銃の不協和音。骸を幾重にも重ねながらそれでも敵はやってくる一匹撃ち殺したと思ったらその死骸を盾にして登ってくる。止まらない止められないだがしかし止めなきゃいけない。
ここが彼等に残された唯一生き残ることができる道なのだから。
「くそっ!真下まで入ってきやがったぞ!手榴弾!」
幾重にも張り巡らせれた塹壕に蛸壷。そこから溢れんばかりの火力を惜しみなく投射する。それ故にこのポツンと佇む標高193mの山とは言うには烏滸がましい小山は今や難攻不略な要塞へと姿を変えている。
「第3小隊全滅!第6小隊から救援要請です!」
「予備部隊の第8小隊出せ!第3の残存兵を直ぐに回収しろ。第6にはその場をなんとか持ち堪えさせろ!軽迫部隊に支援させる!」
それでも死傷者は出るし一枚一枚皮を剥がされる様に追い詰められていく。しかしこの四日間持ち堪えているのは奇跡に近い。ただの防衛線を構築しただけでは瞬く間にこの小山は彼等の墓標と変わっていただろう。
「少佐。前面斜面は既に第1線を突破され発破済みです。第2線ですが押され気味ですが何とか保たせています。後面斜面は比較的攻勢が弱く恐らくこちらからの主攻勢はないと思われます」
土嚢で固められた簡易指揮所の中は救援を呼ぶ声と弾薬補給要請。そして敵との戦闘報告が鳴り止まない。
「空はどうなってる?」
「今のところ両軍共にここらを飛んでる航空機はいません。空軍ですが後1分後に軍砲兵の支援砲撃のために退避してます。砲撃終了後にはCASで二機ほど軽攻撃機が来ます。空軍の第6移動警戒隊とパープルヘッド(AWACS)の情報ですが彼方さんもSAMとAAMを恐れてそんなには侵入してきてないそうです」
彼が言い終わった瞬間、外で複数の爆裂音が響き渡った。砲撃が始まったのだ。初めは距離を測る試射、こちらから支持を出し狙いを正確に定めための修正射、そして正確に定めたら始める効力射だ。
ヒューッという風切り音と共に155mm砲弾の信管は砲弾内に収められた約6.6kgのTNT爆薬をキッチリ定められた秒数に爆発させた。
爆発は空中で起きた。地面に着弾してから爆発するよりも飛び散る破片が広範囲かつ効率的に敵に降り注ぐ。
一つ爆ぜる毎に数千の破片が敵に降り注ぎ敵の軍団の中にポッカリと穴が開くあれで百は死んだだろう。しかし足りないその穴は直ぐに無くなってしまう。
「後5斉射ハ支援ス第5砲兵連隊からです」
心の中の舌打ちをなんとか表に出さず無表情のままに小山を駆け上がり砲撃でバラバラにされる醜い異形共の姿を眺める。
後一時間砲撃をしてくれたら今日の攻勢を頓挫できるのにと思うが現実はそうはいかない。彼方もこちらも武器弾薬は不足中、支援を求める部隊はそれこそ前線全てだ。
「支援感謝ス第117歩兵連隊長と変電。迫撃砲と軽砲はどうなっている?」
それに答えたのは陣地内を駆け回っていた連隊最上級曹長だった。水筒を投げ渡すと美味そうに飲み口を拭った。
「少佐……いえ連隊長。軽砲は全て六割程弾薬を消耗してます迫の方は今日の集計が終わってませんがこのまま行けば四割程ですかね。貴方が砲弾をしこたま積んで来たおかげでまだ持ちそうです」
「それは結構あと3時間もしたら日が落ちる攻撃は一旦終了するだろう。曹長、弾薬の再分配の手筈を頼むよ。それと軽砲は弾切れないし陣地放棄の際は火薬詰めて爆破させろ」
了解と曹長はまた、職務に戻った。
ジリ貧だなと我ながらに自嘲する。このまま行けばあのクラブ共の餌になるかこの小山が我々の墓標となろう。陣地はまるで玉ねぎの皮のように一枚一枚剥がされていく。
最終的には銃剣にスコップはては石ころを持って近接戦闘。いつの時代も変わらない最後に行き着くのはそこだ。ただ我々の時代ではそれが野蛮と言われているだけのこと。
そうやって悪戦苦闘して最後に死ぬそれだけなのだろうか……
いやまだ我々は負けてはいない。我々は追い込まれているが敵もまた追い込まれているのだ。もう時期この攻防戦も終わる。どちらが勝者か分からないが。
「最悪第2線も放棄し後面部隊も含めて最終防衛ラインの第3線で持久戦だ。3日だ。あと今日も含めて3日耐え凌げば味方が敵前線を食い破りこの包囲も終わるぞそれまでもうひと踏ん張りだ」
味方が来るその一言は皆を明るくさせる。このたった2個中隊と少しの部隊は数千の敵に包囲されているのだ。絶望のなかに希望を見出さなければあっという間に潰されてしまう。
そうだこの男は何も勝算も無しに前線を小部隊で突破しこの取り残された部隊を纏め上げ。更には敵に耐えうる全周陣地を作り上げたのだ。この男に付いて行けば無意味な死はない。
いつの間にか砲撃は止んでいた敵の攻勢がまた始まる。
地獄はまだ道半ばを過ぎたところだった。
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