困惑
幸いというものは重なるものなのかもしれない。
先ほどの拉致犯達をどうにか見つけて締め上げねばと考えていた矢先、公園のすぐ近くの交差点に窓ガラスの割れた黒いバンが停まった。
バンの横に行き、運転席から男を引きずり出した。
「なんで!なんで、またなの!」
男が己の不遇に嘆く。
確かに彼らからしたら災いだろう。
これもバタフライエフェクトの一環と言えるのかもしれない。
男たちを締め上げた結果、郊外の廃工場に拉致した女性を集めていることがわかった。
男たちの内、二人を無力化し、目と手足をガムテープでぐるぐる巻きにした。口は最低限息ができるように、脱がした服を噛ませて後頭部で結んだ。
そうして、公園の木にくくりつけた。
その際、残ったもうひとりの男に協力してもらった。
その男に今度は道案内を頼んだ。運転してもらい、後部座席から見守る。
「安全運転で行ってくれ。そうすれば、すべてが安全に終わるから」
バックミラー越しに言うと、男は黙って頷いて、従った。
女性には今更ながら顔バレを防ぐために、持ってきていた予備のマスクをしてもらい、手足にガムテープの残骸を貼り付けた。力を入れればすぐにはずれる。そうして、気絶しているふりをしてもらう。彼女を拉致した体でアジトに忍び込む作戦だ。
彼女は素直に従った。
従ったというより、信じたという感じだった。
今更ながら、彼女は若かった。
まだ十代中頃だろうか。
「ただの疑問なんですが」
クルスは言った。
「こんなにあっさり他人を信じて、大丈夫ですか?」
他意はない。思ったことを言っただけだった。
彼女は目を開けて、クルスを見つめた。
「確かに、初対面ですしね。けど、あなたは助けてくれたし、今だって助けてくれています。あっ、あまりの事態にお礼を言うのを忘れていました」
彼女は花開く瞬間のようにたおやかに笑って、ありがとうございます、と言った。
クルスは何故かはわからないが衝撃を受けた。
「はぁ、どういたしまして」
だから、そう反射的に返すしかなかった。
「心配してくれたんですね。あなたは優しい人です。だから、大丈夫だと思います」
自分は心配していたのか。
優しいなんて初めて言われた。
だから、大丈夫って何?
彼女はまだ笑顔を向けている。
様々な衝撃が続けざまにクルスを襲った。