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この男性、どうして性格イケメンなの?

 

 カランカラン。

 心地よい音のベルが鳴り響く。

 同時に、酒場にいた人々の視線が私へと集中する。


「っっ!!」

「……おい、あれって魔法少女か?」

「あの格好、初期だから間違いない。だとすると?」

「……ああ」

「てことは、昨日の……」


 皆こっちに集中しているせいか、さっきまで喧騒が聞こえてきた酒場も静寂に包まれている。

 だからヒソヒソ話しても、こっちに丸聞こえですよ?


 ここに立っていても仕方ないので、とりあえずカウンターへ。

 ……何この椅子。私の胸くらいまであるじゃない。


「よっと、ほい」

「きゃっ!」

「勝手に触って悪いな。余計なお世話だったか?」

「いえ……助かったわ」


 隣にいた男性が、親切にも持ち上げて座らせてくれた。

 彼はジロジロとこっちを見るわけでもなく、一人でお酒を楽しんでいるようだ。


「マスター、このエールを一つちょうだい」

「お嬢ちゃんにはまだ早いだろ」

「いいのよ。どうせ少し酔うだけでしょ? ログアウトされるようなヘマはしないわ」


 このゲームは15歳以上という制限はあるけど、ゲーム内での飲酒については自由だ。

 だって現実で飲むわけでもないし、あくまで気分が味わえるだけだもん。


 それに未成年でもお酒が飲める。

 また雰囲気だけでも味わえ、お酒の弱い人にはバッドステータスが現れることからパッチテストとしても使われるみたい。


「前払いだ。200G払いな」

「う……」


 忘れていたけど、今の私にはお金がない。

 クエストでも受けていれば、モンスターを倒してその報酬がもらえたんだけど……しまったな。


「マスター、彼女には俺が奢る。200Gだ」

「え?」

「はいよ。ほら、エールだ」


 隣の男性はこちらを見ようともしない。

 何この人、イケメンじゃない?


 すぐに届いたエールと、隣の男性の顔を見比べる。


「あの、本当によろしいのでしょうか?」

「ああ。良いことでもあったんだろ? 俺にも祝わせてくれ」

「ありがとうございます。それと……」

「ん? ああ……乾杯」

「乾杯!」


 コンッ!

 と、グラスを当てる音が響く。


 どうやら酒場の喧騒も戻りつつあるようで、視線は感じるけど話しかけてくる人はいない。

 一口、二口……結構イケるじゃないの、これ。


「美味しい」

「それはよかった」

「あの、どうして私に優しくしてくれるんですか?」


 いくら女性プレイヤーが4割いるからって、それは図書館サーバーも含めての話だ。

 時間を二倍に引き伸ばすことを勉強やら仕事やらに使う人々は、このゲームサーバーとは別に隔離されるようになっている。

 なのでゲームサーバーにいる女性は2割くらいかな?


 だから下心アリで近づく男性も多いのだけど……この人、優しくするだけでこっちを見ようとしない。

 つまり、私に興味がないってことだ。


「困っている人を助けるのは当然だ」

「きゅん」

「何か言ったか?」

「い、いえ! 何も!」


 思わず口に出てしまった。

 ……恥ずかしい。


「あ、あの! ご職業は何をなさっているのでしょうか?」

「俺か? クルセイダーだ」


 パーティの回復役で、バフの達人。

 この職業がいるかいないかで攻略難易度が一段階変わるとも言われている、パーティの要だ。

 ……でも、一人?


「困っているパーティを助けるのが俺の仕事だ。傭兵と思ってくれたら良い」

「そ、そうなんですね! あの、お聞きしたいことがあるのですが」

「俺にわかることなら何でも聞いてくれ」


 酒場のマスターはNPCだし、どうせならプレイヤーに情報を聞きたい。

 自らを傭兵と名乗る彼なら、流星や久我さんのことも知っていそうだし。


「私、昨日レースというものを挑まれたのだけど、その後ログアウトしちゃったの。できれば、関わった人に連絡を取りたいのだけど……方法って何かご存知で?」


 それを聞いていた周りからは「やっぱり彼女が……」やら「あのドリルが推進力なのか?」やらの話し声が聞こえてくる。


 ……ちょっと待って。ドリルは関係ないじゃないの!


「やはりか。確証は持てなかったが……あんたは昨日の連中に連絡を取りたい。それでいいのか?」

「ええ」


 何かよくわからないうちに巻き込まれはしたけど、あのまま会わないというのもモヤモヤする。

 それに、私が勝ったなら何かもらわないとね!


 ……負けていたら、会わなくてもいいかなー、とは思っていたけど。


「わかった。心配せずとも、そのエールを飲み干す頃には来るさ」

「そうなの? わかったわ」


 ここにいる誰かが、連絡を取ってくれたのだろうか?

 ま、来てくれるっていうなら到着を待とうじゃないの。


「あの、よかったらフレンド登録してくれませんか? また会えますよね」

「ん? ああ。変わった子だな。俺なんかと会いたいだなんて」


 そうは言うけど、彼みたいな男性は珍しいことだろう。

 それに、クルセイダーのお力も魅力的だし……いつか、一緒にパーティ組んでもらいたいのは事実だ。


 フレンド登録も完了し、エールを飲み干す。

 と同時に、酒場の扉を突き破って何かが飛んできた!




「うわあああああああっ!!」

「なんだなんだ!」

「俺の酒がぁ!!」

「ぶはぁぁあ!」

「こっち来んな!!」


 酒場は一瞬で阿鼻叫喚と化す。


「何、何!? なにが起こったの?」

「……どうやら、お迎えのようだぞ」


 男性の言葉の意味は、状況を理解してわかった。

 酒場に突っ込んできた一台のバイク。

 どこかで見たことのある赤いバイクに跨がり、ゆっくりとヘルメットを取る。


 ――忘れもしない、その髪型。

 ――ヒトデのような、蟹のような、斬新な髪型。


「乗れ」

「……え?」


 いきなり投げられたヘルメットを受け取ったけど、この状況で?

 彼……流星はそれ以上何も言わない。


「行って来い」

「え? えええええっ!」


 気づけば隣りにいた男性が、私を流星の後ろに乗せてくれた。

 ご親切に、ヘルメットまで被せて。


「掴まれ」


ブォン! ブォン! ブォン!! 


 エンジンが吹くけど、ここ酒場の中よね?

 煙がモクモクして、周囲が見えなくなっているんだけど。

 同時に周りの騒ぎも大きくなる。


「ちょ、ちょっと」

「いくぞ」

「ま、待って! 嫌ぁぁぁぁああ!!」


 いつのまにか腰にはベルトが巻かれ、流星と連結されていた。

 これもさっきの男性が?


 疑問に答えてくれる人は、誰もいない。


 ――こうして、私は誘拐された。



定時帰りってすごいですね。

半年ぶりかもしれないですが、執筆時間が2.5倍も取れるなんて。

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