私、負けず嫌いなの!
役者は揃った。
勝負する二人。実況する一人。
「さあここからは仕切り直しとなります。まず第一レーン。我らが誇るギルドのエース、流星!!」
「よろしく頼む」
やっぱりこの人が流星ね。
名前だけ紹介されても、訳わからないけど。
「そして対するは第二レーン。空をここまで速く翔ける魔法少女はいたか? 謎の少女!! ……失礼ですが、プレイヤー名は何と言うのでしょうか?」
「タカマチよ!!」
今更だが、決闘するといった手前、私だけ名乗らないわけにはいかない。
まあ勝っても負けても何もないなら、名乗っても問題ないはずよね?
「そして実況はこの私、久我でお送りいたします。なおこの実況はメガホンで周辺フィールドに伝達されますので、不要な方は通知を切るかチャンネル変更をおすすめします」
「え、何それ聞いていないけど?」
「いつものことだ」
流星と呼ばれた男性はそう言うけど、全然安心できない。
これって内容が放送されるってこと?
「ね、ねぇ……その放送ナシにできない?」
「さあこの少女の速さは我々にもわかりません。我らのエースが認めた相手であることは確かですが、果たして追いつけるのか? 人員不足は解消したいところでもありますが、速さが足りないメンバーは不必要! 彼女は時速50kmの壁を破れるのかどうか!!」
ダメだこの人、実況に夢中で話を聞いていない。
時速って何よ。
「おい」
「……何よ」
「最初に言っておくが、俺のAGIは500を越えている」
「それが?」
私だってAGIは300ある。
空を飛んでも問題ないことは確認済みなので、障害物がない分ちょうど良いハンデだろう。
「AGI500ということは、時速50kmということだ」
「……だから、何よ」
「俺がスキルを使えば、時速70kmまで到達する」
「なっ!?」
つまり、AGI700まで到達するってこと?
慌てて自分のステータスを確認する。
名前:タカマチ 職業:魔法少女
Lv:22
HP:420 MP:670
ATK:25(+70)
DEF:25
AGI:340(+20)
INT:130
MND:50(+20)
残 SP:40
うん、無理ね。
まあ負けても何もないし、そもそもレースをする理由なんて――。
「ちょっとまって。どうしてレースしなきゃいけないの?」
「理由なんてない」
「だったら――」
「スピードキングは、この俺だ」
あっ、はい。
……あれ、私何のゲームやっているんだっけ?
ここアヴァロン・トラジティよね? サーキットとかないし。
「さあ両者とも準備は良いか! アイテムは回復薬のみ使用可能! コースはこのフィールド、平原の丘の端から端まで一周だぁー!!」
その言葉に、流星はブォンブォンブォン!! と再度エンジンを吹かせる。
彼はやる気だ。
私? 飛ぶだけなら準備も要らないけど、カッコよく飛び乗る練習の成果、見せてあげる!
「ではカウントダウン開始! スリー……ツー……ワン……GO!!」
飛び出す流星。
それに少し遅れて、私も助走をつけてジャンプ!
ホウキに飛び乗る。
「先にロケットスタートを決めたのは流星だぁー!! いつものようにこの差を維持できるか! そして挑戦者タカマチ、彼女はこの差を覆すことが出来るのかぁー!!」
ああもうっ!
実況が追いかけてくるのは仕方ないけど、うるさい声が隣から聞こえてくるので気が散る。
「ちょっと貴方! 黙ることはできないの!!」
「おおーっと! ここで挑戦者の八つ当たりだぁー!! 力の差に呆然として、ついに周囲へと当たり始めたぁー!!」
「うるさいわね!!」
こっちも全速力で翔けているというのに、何でこの久我さんは付いてこれるわけ?
やっぱり私じゃなくて、この人が走ったほうが良かったのではないのかしら。
流星の背中は私の50mほど先に見える。
しかし、その差もだんだんと縮まっているようだ。
いくら平原の丘といっても、多少の起伏は存在する。
平原なのに丘? とも思ったけど、フィールドの端っこともなるとその言葉の適応範囲外になるらしい。
なので崖があれば飛び降り、そびえる壁があれば迂回する流星。
……ちょっと待って。そのバイクって壁も登れるの?
それに対し、私は上空からひとっ飛びだ。
そんなフィールドの利点を活かしつつ、いつしかAGIの差があるはずの流星に追いつくまでには迫っていた。
「やるじゃないか」
「ええ! これでも私、負けず嫌いだから!!」
いつの間にかうるさい人もいなくなっている。
……さすがに空を飛ぶ私には付いてこれなかったようね。
「AGIの差を埋めたことは褒めてやろう。だが――」
所詮、AGI500だったに過ぎない。
そんな言葉が、彼の背中から聞こえた気がした。
「アクセ、アクセル・ブーストォォォ!!」
「いきなり重ねがけ!?」
その途端、追いついたはずの流星の背中は前方へと遠ざかっていく。
あれがスキルを開放した、彼の真の速さなの?
アクセル・ブースト
必要SP:50
MPを500消費し、10秒の間AGIを100上昇させる。
連続で2回まで使用可能。
――逃げるは恥だが、役に立つこともあるという。
……調べてみたけど、強大な敵からの逃亡スキルみたいね。
消費MPのわりに効果はショボいけど、絶体絶命の場面には重宝しそうだ。
スキル使用後にあるクールタイムを考えると、連続で使っちゃったほうがお買い得感もある。
ま、レースするために使われるとは、運営も思っていなかっただろうけど。
こちらがスキルを調べている間にも、どんどん流星の背中は遠ざかっていく。
ようやく地形の理でここまで追いついたのに、私にはその離れていく背中をどうすることもできない。
とその時、何かが連続で目の前に飛び出してきた。
「きゃっ!! 危ないわね」
どうやらレース中にもかかわらず、平原にいるモンスターは飛び出てくるらしい。
システムメッセージにて、平原ノ猪を4頭倒したことがわかった。
そのモンスターって、推奨レベル25とかじゃなかったかしら? 今の私に倒せるとは思えなかったけど。
そして聞き慣れた効果音が流れる。
――トゥットルー!
――レベルが23に上昇しました。HP・MPを全回復します。
――SPを消費して、マジカル・スキルが取得可能です。
……遠ざかっていく背中を見て諦めていた。
いくらレースとはいえ、いきなり参加させられ、得るものも失うものもないのだから。
けど。
「私って、負けず嫌いなのよね!!」
彼も既にスキルの効果は切れ、クールタイムですぐには使用はできないはずだ。
SPも手に入ったことだし、このレース……受けて立とうじゃないの!
21時か22時に続きを更新します。
……仕事が終われば、ですが。