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どう見てもチャリなの


やる気になっている彼には悪いけど、伝えておくことがある。


「悪いけど、明日も早いから後日でもいい?」

「ハハ。我の姿に恐れをなして逃げ出すか。それも一興であるな!」

「……久我に確認。これ瞬殺しても良い?」

「どうぞどうぞ。ちなみに決闘レース続行不可能と判断した時点で勝利が決定します。なのでダイレクトアタックも許可しましょう」


解説兼、審判がそういうなら間違いないわね。

しかしそれに猛抗議する人物が一人。


「いやいやいや! ちゃんと勝負しましょうよ! それ完全な勝利じゃないけどいいのかい?」

「勝てばいいんでしょ勝てば」

「貴方、それでもレーサーですか!」

「魔法少女よ!」


何でレーサーになっているのか悩むところだけど、そろそろ眠気もやってきたし、速攻でケリをつけたいところだ。


……アレとの遭遇といい、この漆黒のウィードさんといい、今日はやけに疲れる1日だ。




「それでは、移動時間ももったいないので今回はこの町の外を先に一周したほうが勝ちとします。時間は有限、速さがあれば縮めることができますが、それも条件がそろってのこと。故にフィールドへ移動するより、効率を考えたこの周辺のほうが時間も有意義に使えるというものです。そして――」

「私は準備できたけど、雑草さんは?」

「雑草ではない! ウィザードと呼べ!」

「あっそ。ウィードさんの準備は?」


まだ喋っている久我はほっといて、隣に立つウィードを確認する。

今までのギルメンは何か準備があったけど……。


流星はバイクに跨がりエンジンを吹かす。

デス子ちゃんはクラウチングスタート? の姿勢を取る。

久我は……よくわからないや。


同様にこのウィードにも走り出す準備があったらしく、何もない空間から流星のバイクのような形をしたものを取り出した。

それは一見バイクにも見えるけど、漆黒に染まり、詳しい輪郭まではわからない。

しかし、闇で作られたと思われし前輪。そして後輪。そしてハンドルがあり……ウィードはハンドルを握って、そのサドル・・・に跨った。


「フフ。こちらの準備は既に完了している……どうした、その目は?」

「えーと……それ、チャリ?」


流星の例があったからバイクにも見えた。

けど、それと決定的に違うのは……彼の足がペダルのようなものにかけられていることだ。

すなわち、それは人力で動くということに他ならない。

スキルがあるこの世界で、闇で作られた自転車なの?


「フッ……できればあの流星さんのようにバイクが欲しかったのだか。我のスキルレベルで再現するにはこれが限界だったようだ。それでも、速さは保証できる」

「ちなみに彼は、エレメンタルマスターでありながら闇属性以外は取得しないという変わり者でしてね。その代わり闇に関するスキルなら一流でもありますよ。夜限定ですが」


このアヴァロン・トラジティでは昼と夜の概念もある。

ゲーム内の時間でいう4時間毎に入れ替わっているみたいだから、こういった夜用のスキルとかがあってもおかしくはない。

現にモンスターの出現も、強さも変わる場合があるらしいし。


「そうだ。そして時刻はもうすぐ夜に切り替わる。我の力は闇の中でこそ真の力を――」

「久我、準備はできているわ。早く始めましょ」

「そうですね。じゃあ、よーいドンで」




ドン!

その言葉が聞こえたと同時に私は飛び出す。

後ろで「あれフライングだよね!」というウィードの叫びが聞こえたけど、久我が追いかけてこないからセーフみたいだ。


ある程度走って、もうすぐ町の半周に差し掛かるところ……だというのに。


「追いかけて……来ないわね」


ウィードの姿は見えない。

さっきも息切れしていたみたいだし、ウィードはそこまで速くないのかも?

辺りが暗くなる。あと数秒でゲーム内は夜に切り替わるけど、だからって彼がすぐ追いつくわけが――。


「もう半周したけど、このまま勝っていいのかしら? いえ、いいわよね」

「そいつはどうかな?」

「なっ!?」


すぐに決闘レースを終わらせるつもりで駆けていたけど、さっきまで見えなかった姿が今は手が届く位置まで追いついていた。

どうやら夜に速くなるというのは嘘じゃなかったらしい。


「これが我のスピードスキル。シャドウを走れ! だ!」



 影を走れ

 必要SP:100

 前提条件:闇精霊の加護Lv5


 MPを100消費し、5秒間AGIを50上昇させる。

 なお、夜限定でクールタイムが無くなる。

 ――若者よ、シャドウを走れ……。



驚愕したのは、全力で回されるペダルにではない。

クールタイムがない。それはMPがある限り重ねがけ可能だということを意味する。

いや、待って。


「まずスピードスキルって何なのよ!」

「あれっ! 妹様みたいに物理ならともかく、アジシャンの前提として持っているものかと思ったけど!」


もしかしてマジカル・フルバーストのこと?

そういえば流星もアクセル・ブーストを持っていたし、久我や姫様も持っているのかもしれない。

それに気になることはもう一つ。


「……そんなにペダルを漕いで疲れないの?」

「MPをっ! 回復するためにっ! 必要なことだッ!」


そんなことを言いながら、私を追い抜いて徐々に引き離されていく。

……てっきり飾りの自転車かと思っていたけど、ちゃんとMP回復という意味があってやっているのね。


あと少しで町を一周する。

ウィードとの距離は開いたままだけど、ゴールが見えれば私も。


……見えた!


「じゃあ私も――マジカル・フルバースト!」

「なっ!!」


今度は彼が驚く番になったけど、スピードスキルなら私も持っている。

ただ動けなくなるから使わなかっただけであって、直線を突っ走るだけなら使用しても問題はない。


……こうして、ウィードに勝利した私は、彼を草と呼ぶ権利を手に入れた。



もうすぐ連休ですが、インフルの予兆が怖いですね。

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