私って地雷なの?
練習のために外へきたのはいい。
いいけど……。
「これ、どうやって飛ぶのよ?」
てっきり手に持って念じるだけで飛べるかと思っていたけど、私の身体はウンともスンとも動かない。
魔法を使おうにもスキルは何も取れなかったし、ホウキをブンブン振ってみても何も起きない。
「掲示板では『飛ぼうと思えば飛べる』って見たけど、全然ダメじゃない!」
武器がダメなのかな? とも思ったけど、これ以外にホウキは見つからなかったし……何よりお金がない。
もう今日は諦めて、ログアウトかな。
「ん? こんな場所に水たまりなんてあったかしら?」
私が飛ぶ練習をしてた間に、雨でも降ったのかと思うくらい近くのフィールドが水浸しになっていた。
ゲーム内の世界なら、自然の雨なんか降らないはずなんだけど。
「あちゃー……泥がハネるし、こんなとき飛べたらな。ヒョイっと……え?」
ごく自然に、水たまりを避けようと跳んだ時だった。
軽くタメをつけてジャンプ。そして私は、宙に浮いていた。
「え? これもしかして浮いてる? これで飛べているの?」
誰も疑問に答えてはくれないけど、現に今……私は空に浮いている!
何だかよくわからないけど、空を飛べた!
「やった! これでホウキに跨がれば完璧ね! あっ……」
姿勢を変えようとホウキから、一瞬手を放す。
その一瞬……いきなり重力に引っ張られて私は下に落ちる。
下にはもちろん、泥が溜まっているわけで。
ベチャン!
……と、泥がはねた。
「…………ログアウトしたら綺麗になるけど、あと何時間も待てないよ」
どうせ空には誰もいないからいいよね?
――その日、奇声をあげながら泥まみれで空を飛ぶ『モンスター』が各所で目撃されたらしいが、その正体は本人も首を傾げるだけだったという。
「あー、昨日は楽しかった!」
空を飛ぶのがあんなに楽しいだなんて。
ゲームの世界だけど、全速力で空を自由に駆けて、地上にいた人に手を振って、歌いながら世界を旅する。
残念ながら3時間のプレイ制限がきてしまったけど、今日も飛んで遊ぼうかな!
「あれ? レベルが上がっている……何で?」
名前:タカマチ 職業:魔法少女
Lv:21
HP:410 MP:630
ATK:25(+70)
DEF:25
AGI:330(+20)
INT:120
MND:40(+20)
残 SP:20
ステータスはほとんど変わっていないけど、多少の変化はあったみたい。
飛んでる途中、何度か鳥にぶつかったからかな?
どこかにふっとんでいったけど。
「まあいいよね! それよりもSPが増えたってことは……やっぱりスキルウィンドウが復活してる!」
SPが増えたことによって、魔法も選べるようになったみたい。
てっきりSPかと思ったけど、ここではSPも兼ねているようだ。
不親切な仕様だけど、長いと思ってチュートリアルをスキップした自分にも否はあるわけだし……ま、いっか!
「いくつか使ってみたい魔法はあるけど……一番欲しい魔法はSPが足りないようだし」
マジカル・イリュージョン
必要SP:50
初期魔法は今すぐでも取得できるけど、どうせなら好きな魔法から使いたいし。
レベルも上げる方法はあるから、SPが溜まるまで待てば良いよね。
あとは戦闘をするなら、パーティを組んで回復を節約したいところだけど。
ダンジョン前のフィールドには、私と同じような転職したばかりのユーザーが集っていた。
さすがアクティブユーザー数1位を誇るだけあって、この時間帯はパーティを募集する声も大きいらしい。
「残り二人! こちらはランチャーとグラップラーです! 誰かいませんかー?」
「クルセイダー募集します! 手の空いている方、手伝って下さーい!」
何とも賑やかだけど、魔法少女の募集はなかった。
なかったけど、魔法少女が珍しいのかチラチラと視線は向けられる。
……甘ロリという服装のせいだとは思いたくないけど。
「ねぇそこの君、魔法少女でしょ? よかったらパーティ組まないかな?」
「え、ほんと?」
話しかけてきたのはいかにも剣士って感じの男性だった。
他にレンジャー、バーサーカーと、男性ばかりの火力パーティっぽい。
「うん。君は後ろで援護してくれるだけでいいからさ」
「いるだけで士気が上がるんだよ。頼む」
「いいけど、援護なんてできないけど」
「え? 魔法使いでしょ?」
「何なら、マジックミサイル連発だけでもいいからさ」
「……見て?」
私はスキルを何も覚えていない、AGIに振っただけのステータスを開示する。
お互いの了承があればステータスを開示することは可能だ。
「はああああああ!?」
「まじか……マジ、か」
「とんだ地雷じゃねえかよ!」
「ちょ、そこまで言わなくても!!」
何で他人にそこまで言われなくちゃいけないのよ!
と反論はしたけど、魔法使いならせめてINT極振りやら、紙防御ワロタやら、逃げ足だけの魔法少女などと散々言われた。
ちょっと泣きそうになったけど、こいつらが悪いだけかと思って他のパーティに……。
「……聞いたか? AGI極フリだってよ」
「……もしかしてあのギルドの新メンバーか? にしては、AGIが足りないだろ」
「……まて、新メンバーになろうとして失敗した奴かもしれない」
遠巻きに見られて、誰も近づいてくる人はいなかった。
話しかけても「ごめん、寄生は困る」といわれて誰も入れてくれないし……一つだけ入れてくれるというパーティはあったけど、その後お茶のお誘いとか下心丸見えなんですけど!
野良パーティなんて、ろくなもんじゃない!
……一番ろくでもないのは、こんなステ振りにした私なんだろうけど、それでも否定されるのは傷つくなー。
そんな傷心だったけど、まだ今日のプレイ時間はたっぷりと残っている。
ダンジョンまでは行かないけど、昨日と同じように空で遊んでレベルをあげようっと!
「あっ、レベルが上がった」
飛んでいる最中に何か当たったけど、その何かはものすごい勢いで吹っ飛んでいった。
同時に、トゥットルー! という音と共にレベルアップする。
「……気にしない。気にしない。やっぱりSPが増えている」
残 SP:40
予想はできたけど、SPは1レベルごとに20ずつ増えていくみたいだ。
一回地上に降りて確認するも、マジカル・イリュージョンの必要SPは50から変化はない。
「なら、あと1レベルであのスキルね! ……何アレ?」
今日中にレベルをあげようと思っていたけど、前方から何か近づいてくる?
その何かは、私の目の前でキィィィィーーーー!! と耳障りな音を出すと、砂埃だけをこちらへ被せてきた。
呆然と立っているだけの私は、その全てを全身に受ける。
「……………………」
「……………………」
ようやく砂埃が晴れて姿を現したのは、一人の男性。
何故かバイクに跨がり、こちらを睨んできている。
「…………何かいいなさいよ」
「おい、決闘しろよ」
違う、そうじゃない。