このホウキは武器なの?
縦ロールってアレよね?
早速装備してみた。
「……どこぞの悪役令嬢じゃないの」
ステータス画面で見た自分の姿は、ロリータファッションに金髪ドリル。
服と一緒にピンクのリボンもついてきたせいか、西洋人形みたいな見た目になってしまった。
「これで高笑いとかしたら完璧なのかしら? あ、そうだ」
画面には自分の姿の横に、転職ホヤホヤのステータスも表示されていた。
名前:タカマチ 職業:魔法少女
Lv:20
HP:400 MP:600
ATK:20(+60)
DEF:20
AGI:30(+20)
INT:100
MND:30(+20)
残 SP:300
「最初はこんなもんよね」
聞いたことがある。
このゲーム、転職した後のHP・MPと各ステータスに振り分けられる総数は同じだと。
つまり、魔法少女なら200ポイントをこう振り分けられるってわけね。
「ま、どんなステータスでも関係ないんだけどね!」
私がこのゲームをやりたかった理由。
ホウキに乗って空を飛ぶ!
そのためには……。
「関係ありそうなのはコレだけだし、当然AGI一択よね!」
名前:タカマチ 職業:魔法少女
Lv:20
HP:400 MP:600
ATK:20(+60)
DEF:20
AGI:330(+20)
INT:100
MND:30(+20)
残 SP:0
初志貫徹。
だって空を飛びたいだけだもん。
それに初期INTが100もあれば、魔法もそこそこの威力だろうし。
「あ、初期魔法は何が使えるのかな……え?」
そこには、さっきまでアクティブウィンドウだったスキルの覧が全て消滅していた。
見間違いだと思い、一旦消して再度表示しても変わらない。
「ま、まあ? レベルが上がれば大丈夫でしょ」
確かSPもレベルアップと同時にもらえたはずだし。
それよりも、今は早く空を飛ぶためにホウキの調達が必要だ。
そうと決まれば、町の武器屋で調達しなくちゃ!
「はぁ? ホウキなんてもんココには置いてねぇよ」
「でも魔法少女の武器なら……」
「そこの杖で十分だろ」
そういって「ほれ」と指を差されるも、そこにあるのは棒きれだけだ。
……いや、値段も書いてあるし、綺麗に磨いてあるから杖なんだろうけど、なんか地味じゃない?
「私はタダの魔法使いじゃないのよ? 魔法少女なの!」
「じゃあ、これなんかどうだ?」
「どれどれ……って、おもちゃじゃないの!!」
カウンターの下から出てきたのは、先端に安っぽい星がついただけのステッキだった。
どうしてこんなものがおっさんの店に? とも思ったけど、私が欲しいのはソレじゃない。
「ここは武器屋だ。そんなもんは置いていないね」
「もうっ! わかったわよ!」
いくらNPCとはいえ、人を煽るのが上手い店主だ。
私以外にも同じ目にあった人がいるらしく、近くからは「またルーキーが洗礼を受けたらしいな」という話声まで聞こえてきた。
「次は防具、の前に、回復薬も買っておかなきゃ」
自然回復以外では、専門の職業がいないとHPやMPは回復できない。
いつもPTを組めるわけじゃないし、このゲームでは回復手段を用意することは必須とも言われていた。
そのままフラリ、と近くにあった道具屋へ足を踏み入れる。
「すみませーん。薬草をいくつかください」
「どのくらい必要でしょうか?」
「うーん、とりあえず10コ!」
あまり戦闘はしない予定だけど、何があるかわからないし。
あとは効き目の良い回復薬を4つ購入した。
「ありがとうございました」
「うん。じゃあ……これはッ!」
買い物を終え、店を出る……手前で、その品物に気づいた。
壁に立てかけられた様子、先端が細く尾が毛羽立っているそのフォルム。
間違いない。
「店主! このホウキって売り物なの!」
「え? ええ……ここは道具屋ですので」
どうやらホウキは武器ではなく道具に分類されるらしい。
武器マスタリーがあってもこの扱いなの?
いや、本来なら清掃道具が武器扱いされるのがおかしいんだけど。
「お願い! 売って!」
「それなら300Gでいいですよ」
「……………………」
ようやくホウキは手に入れた。
ただ、回復薬を買ったせいでお金が足りなかったので、泣く泣く回復薬を手放す羽目になったのは残念だったけど。
ゴネたけど、この世界は返品できませんでした。
うん、知ってたけどね。
「でもま! これでホウキをゲットね!」
竹ホウキ
分類:武器 種別:コモン
条件:Lv1以上
ATK:+10
まさに初期武器だ。
え? でもということは。
「この縦ロールのほうが強いってこと? 取り外しても?」
ポンッ!
という音と共に、左側の縦ロールが外れる。
……どうみてもホウキのほうが強そうなのに、ゲームの世界って不思議だ。
そのままジッと眺めていると、足を止めてこちらを見てくる周囲の視線が気になった。
どうやら髪型が変わるのが珍しいようで、町中の注目を集めていたようだ。
「っっ! ま、まあ目的は果たしたわ!」
文字通り逃げるように町の外へ出る。
後ろから「あれって取れるのか?」や「呆然としていたけど、本体が分離したのか?」とか聞こえてきたけど全部無視だ!
早速飛んで逃げても良かったのだけど……失敗したら恥ずかしいからね。
飛ぶのは、外で練習してからよ!