私たち、レイドじゃなくてレースなの?
――ユニークレイド『廃墟の教会』
――10人でバトルを開始します。
そんなメッセージが流れてくるけど、私はユニークレイドはもちろんのこと、まともな集団戦闘すら初めてだ。
でも、これだけは言える。
「……あのー、そろそろ触手から解放してくれる?」
流星の後ろに控えている大樹? に懇願するも、私の言うことは聞いてくれないみたい。
「長老、ありがと。たすかったわ」
とう。
デス子ちゃんは早々に解放されて地面に降り立つ。
長老って、このツタのような触手を出してる大木のことかしら?
「この子、ナデナデしてあげると喜ぶの。間に合ったのもあなたのおかげね」
目の前で大樹に抱きつくデス子ちゃん。
同時に、長老と呼ばれた大樹の顔も少し嬉しそうに変化する。
ぶっちゃけ気持ち悪い。
自然とのふれあいは大事ですねーと傍観できるのも、私が縛られて吊るされたままだからかな?
「ほう、間に合いましたか。これで我らが揃ったということは、いつものフォーメンションで大丈夫ということですね。では私は今まで通りにこのレイド戦を実況しておりますので、出番があれば呼んでください。できれば呼ばないでもらえるとありがたいのですが、不測の事態はいついかなる――」
「あんた居たの!!」
何かうるさい人がいると思ったら久我さんだった。
彼はいち早くこの場に駆けつけていたらしく、片手にデバイスを持ってやる気マンマン……この状況で掲示板?
「ユニークレイドなんて面白そうなイベント、我らアジシャンズが逃すはずありません。さらに私には掲示板にてレイド戦を実況するという――」
「ごめん。とにかくコイツから解放して」
制限時間にはなったけど、ボスはまだ出てきていない。
今は作戦タイムかな?
私の知り合いを除く6人で、戦闘について話し合っているみたいだ。
だけど。
流星はバイクに跨ったまま黙っているし、デス子ちゃんは大樹をナデナデしている。
久我さんは掲示板に書き込んでいるみたいだし、私は動けない。
「みんな……話し合いに参加しようよ!」
「フン。決闘で話し合えば十分だ」
「わたしたちの役割はヘイト集めよ。それはいつも変わらないわ」
「戦闘は専門の方に任せましょう。私は実況が専門なので、向こうは任せましたよ。今から集まった人数の報告と、メンバーの職業を――」
ダメだこの人たち。
ちょうど私がへこむと同時に、地面に描かれた魔法陣の光が一層と強くなる。
ここになってようやく、私も大樹の長老さんから解放された。
「ったぁ……ちょっと流星! どういうつもりよ」
「来るぞ。決闘の相手だ」
「来るのはレース相手じゃなくてレイドボスよ!」
全く何をおかしなことを……と思ってデス子ちゃんを見ると、彼女も可愛らしいお尻を突き出して、クラウチングスタートの姿勢をとっていた。
「え?」
「始まるわよ。スタートダッシュに遅れても知らないんだから!」
「あ、うん」
レイド戦のスタートダッシュって、バフがけとかが普通じゃないかしら?
間違ってもクラウチングスタートではなかった気がするけど。
久我さんは……既に周囲を走りながらデバイスを使っていた。
あれはもう無視しよっと。
「再確認だ! 敵が何であれ、俺らに攻撃は集中しない! あいつら暴走族に轢かれないようにだけ注意しろ!!」
「「「おう!!」」」
そういって、彼らの周囲にバフが何重にもかかる音がする。
もちろん、私を含めたアジシャンズにはかからない。
「え? 私ってこっちの仲間なの?」
「決闘範囲はユニークレイドの結界内、この長老がいる場所を目印に周回する。途中妨害が入るだろうが、先に5周先取した奴の勝ちだ。カウント、審判は長老に頼んである」
廃墟の教会の周りといっても、ユニークレイドのための結界は半径200mくらいありそうだ。
他プレイヤーが後から乱入できないようにってことだろうけど、最大20人を想定しているだけあって広範囲ね。
というか……この人たち、本当にボスは無視して走り回る気なの?
「今度はお兄ちゃんに負けないんだから!」
「まって。これレイド戦よね? ここサーキットちゃいますよ?」
地面から、巨大な腕が這い出てきた。
構わずプレイヤーが攻撃するも、肩、頭、翼、胴体と徐々に地面から這い上がってくる。
そしてそれを横目に。
「いただきっ!」
「先攻はくれてやるっ!」
二人も駆け出した。
私? ちょっとついていけないかなー……。
長老さんを見てみるとニッコリと微笑まれた。
やっぱり気持ち悪い。
そうこうしているうちにも、やがて悪魔のような全身が現れ――
これレイド戦ですよ、と主張するかようにユニークボスが登場した。
「決闘開始ィィィ!!」
「久我さん、あんた黙って」
ホウキで翔けだしたら負けた気がする。
けど――
「なんでアイツ、こっちを見てるのよ!!」
見た目が悪魔のレイドボスに……目、つけられたみたいです。
ブックマークしてくださった方、評価してくださった方、
ありがとうございます!
できれば毎日更新したいですが、せめて隔日更新は出来るようにがんばります。




