それ、取り外し可能なの?
最初はやはり、22時14分です。
世間を騒がせたフルダイブ型VRMMO。
そのゲーム、アヴァロン・トラジティも、サービスを開始してから半年が経過していた。
半年も経てば、当初は生産数に限りがありプレイ出来なかった人々も、ようやく手を伸ばすことができるようになる。
再販に続く再販。
ようやくインターネットでの注文が確定し、我が家にも届いた荷物。
「やっと届いた! じゃあ早速……」
「ちょっと小町。遊ぶならご飯食べてからにしなさい!」
何を隠そうこの私も、半年間プレイを待ち望んだ一人だ。
けど、どうせやるなら邪魔されずにプレイしたいよね。
外部から衝撃を加えられたりすると、強制ログアウトとかするらしいし。
「わかった! けど説明書くらいは読ませて!」
発売日は受験に専念するために買ってもらえなかったけど、代わりとして合格祝いに買ってもらえたので嬉しかった。
まあ、それでも説得はしたんだけど。
このゲームには「体感時間を二倍に引き伸ばす」という売り文句の通り、ゲームで過ごした二時間は現実で一時間しか経っていない。
安全性も保障されている現在、このゲーム機は「勉強時間を確保できる」や「仕事が捗る」などといった、本来とは別の用途でも使用されているのをニュースで見たからね。
乗るしかない! このビッグウェーブにッ!!
……私と同じように、その有用性を説いて親を説得する子供も多いとかなんとか。
でもま、とにかくこうして手に入った。ということは。
「ようやく、ようやく遊べるんだ…………アクセス!」
ピピッ。
――新規ユーザー、高木小町様。生体情報を登録します。
――プレイヤーネーム、タカマチ。
――登録完了。
ピピッ。
――ようこそ。
――偽りの理想、アヴァロン・トラジティへ。
………………………………
……………………
…………
「ふぅ、疲れた。でも、これでようやく20レベル。転職できるわ!」
このゲームでは、転職するまでがチュートリアルと言われていた。
個性の出しにくい一次職。
私の選択した魔法使いも、その一次職だ。
そして、そこから派生する二次職。
ソレを目当てに始めたようなものだから、情報通りにそのジョブがあって欲しいんだけど……。
「えっと……魔法使いで、女性のみの職業で……あった! 『魔法少女』だ!」
職業:魔法少女
――条件――
レベル20以下の魔法使い。女性のみ選択可能。
魔法のステッキは皆に笑顔を届ける。
その愛らしい笑顔は戦闘を中断させる事も可能だという。
また、ホウキを装備することで空を飛べ、ポコポコと打撃を得意とする。
ジョブスキル:武器マスタリー(杖)(ホウキ)、ラブ&ピース
「魔法少女、だよね? 何か思っていたのと違うけど」
ユニークジョブというのも存在するみたいだけど、魔法少女は一般知名度も高い職業だ。
だから間違ってはいない、はず。
「ま、空を飛べるのは間違いないし、これ一択よね!」
知名度はあるけど、人気はない。
なぜなら、このアヴァロン・トラジティでは性別、体格の自由が効かないようになっているから。
キャラクリエイトでは自分自身をベースに、プチ整形程度には弄れるけど……女性プレイヤー自体が四割程度しかいないし。
さらに、とある理由から女性(少女)のみ推奨とか言われるし。
あげくには魔法の説明ナシで、打撃推奨だよ? 強そうには見えない。
――ポン。
――職業:魔法少女に転職完了しました。
ま、私はなるんだけどね!
同時に、服装も淡いピンクをしたヒラヒラのロリータファッションへと変化する。
まさかの甘ロリ……確かに女性(少女)のみだわ。ちょっと恥ずかしい。
「ま、まあ? これで念願の魔法少女ね。この空を感じられるなんて……さぞ気持ちいいんだろうなー」
――10万ユーザー突破キャンペーン! 転職した際、一回だけ有償ガチャのチャンスが!?
「有償ガチャ? それってアレのことだよね」
課金。
私みたいな学生には厳しいけど、可愛いアバターは欲しいし……ゲームマネーで購入することもできるので、今は我慢する予定だけども。
「でも一回だけキャンペーンで回せるならオトクじゃないの! レア装備とかでないかなー」
こういうのはパーツだけ出して、さらに課金させようとする心理だと思うけど、私はそんなエサに釣られないんだから!
……ポチっとな。
――ガラガラガラガラガラ…………。
――ポンポーン!
――テッテレレー、テッテッテッテッテッテレレー!
「長いよ!」
演出スキップ!
VRだと手でサッと払えばできるから楽ね。
最初からすれば良かったとちょっと後悔。
――デデン! 貴族令嬢の縦ロール、を手に入れました!
貴族令嬢の縦ロール(取り外し可能)
分類:頭部 種別:Sレア
ATK:+60
AGI:+20
MND:+20
「……なあに、コレ?」