もう一人の隼人01
「もうひとりの隼人」01
「お兄様には初めてお目にかかります、妹の夕維です。佐枝には我が侭を申して兄様にお会いしたいとお願いしたんですの」
大体五歳、と隼人は少女に当たりをつけた。
ここへ来て初めて出会う自分より年下の人間である。
「佐枝から兄様のお話、聞きました。ですから今度、お兄様とご一緒にお月見や花火船に行きたい、ってお父様にお願いしてみます」
夕維の兄様という言葉は語尾が未だ柔らかく、にいたまに聞こえる。
無邪気に輝かせる目が、隼人を見上げていた。
「前の兄様は、夕維の生まれた頃に亡くなってしまわれたから、夕維は兄様にお会いできて嬉しいです」
「前の…………?」
――妹………。
隼人は、一人っ子だったから兄弟はいない。
「ご存知なかったのですか?」
「何も……聞いてない」
そうですか、と夕維は俯いた。
小さいながらに、自分の知っている事実の意味の重みにぐらついたようだった。
「どういうこと?夕維、知ってること全部教えて」
超能力があるわけでもない。
凄い才能があるわけでもない。
そんな隼人がどうしてこの江戸へ呼ばれたのか。
その、理由を。
「夕維が生まれる頃、隼人兄様は生まれ付いての蒲柳の質からずっと病床から起きられずに、お父様は跡目届けを出せずにいたそうです……」
「ほりゅうのしつ………」
「お体が、弱かったそうです。どこの屋敷でも必ずやることですけど、跡目が継げると判断するまでに生まれてすぐに届出を出さなかったそうです」
突然に、隼人は佐枝の行動の意味を悟った。
佐枝もこのことは知っているのだろう。だが、多分千広か兵庫に厳重に口止めをされていた。
だから、夕維に話して、夕維の口から隼人に教えようというのだ。
――小夜島殿にもお考えがあるのでしょうが……隼人様に公平でないと思って………
初めて出会った日の、佐枝の言葉を思い出した。
「でも、兄様は亡くなってしまわれました。それでも父上は、破鏡の黒蝶を使って転生した兄様を探し出してお呼びしたんです………………ごめんなさい」
隼人を見上げていた黒い瞳に涙がたまっていた。
隼人より小さい手のひらにぽつりぽつりと涙の雨が降る。
「夕維は物知らずで、隼人兄様がもう知っているのかと思って勝手にお話してしまいました………泣かないで下さい、兄様。夕維が早合点して会いにきてしまってごめんなさい………」
「泣かないで………」
夕維の涙をぬぐおうとして、隼人は自分も涙ぐんでいたことに気づいた。
――そうか……生まれ変わり……。
秋良兵庫にとって、隼人は代理にすぎない。
同じ隼人という年頃の、同じ名前をした子どもの。
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タイトル回収!短いですね・・・ほんと当時の区切りが逆に変なテンポなので、区切りが難しいです・・・
女子率たかい!!(っていうか千広が留守w)