欠けた月を見かけたら06
亀裂。
隼人が顔をあげると、喉に包帯をあてて帰ろうとしている石津の姿があった。
「待ちやがれ、矢之。おい、逃げようってのか」
森之介が侍言葉を忘れてべらんめえ口調になっているのを、隼人は袖をひいた。
「森之介、森之介。キャラ変わってるから」
キャラを、どういえばいいのか悩んでると冬二郎も殺気だって、隼人をうしろに庇って立つ。
「月のない夜を歩けると思うなよ、石津」
(ヤバい、石津が殺される!!)
多勢に無勢の上、石津は隼人に喉を突かれた痛みがよみがえったのだろう、喉に手をあてて後ずさる。
「へ、呆れがお礼だ。てめえらみてえなやつらに怖がってちゃ生きてられるか」
石津の声はしゃがれて老婆のようだった。
森之介の顔にまた血がのぼった。
「なんだと、このサンピン侍が!!武家の風上にもおけねえ泥侍のくせに!」
町人言葉で半分はなにを言っているのかわからない隼人だったが、石津がさらに色を失ったのを見た。
「森之介、やめろ」
森之介の言葉が、石津の痛いところをついたのだ。
「だまし撃ちする卑怯者が、侍語るんじゃねえ!内職で忙しいんだろう、さっさと家へけえんな!!」
「やめろって言ってるのがわからないのか!!!」
隼人は絶叫した。
その剣幕に押されたように、よろよろした石津はすぐに自分の荷を持つと慌てて走り去った。
こんなに大きな声をだしたのは初めてだった。
黒宮と戦ったときとは違う、胸の震えに声まで震えた。
「どうして、そんなこと言う?どうしてそんな考え方しかできない?どうしてそうやって人を区別するんだ、おんなじ人間なのに武士だとか武士じゃないとか、差別をするんだ」
なによりも、ここにきて一番の親友だと思っていた森之介の言葉なのが、隼人には悲しかった。
「そ、んなのをするために家が大事だとか、名誉がいるのか?ひとを傷つけないと俺の立場は守られないのか?」
石津より真っ白になった森之介が立ちすくんでいる。
それでも、言ってしまった。
「俺はそうやって、人を踏みにじっていくのなら若様なんてうんざりだ」
――隼人、ふぁいと。
――どんまい!
――えす、というのはどういう意味ですか隼人様!
――俺も友達になりたいよ、隼人。
いつだって心配してくれる友なのに。
隼人の涙で、森之介の姿が見えなくなった。
森之介と隼人の喧嘩となりました。まあ、森之介としてみれば友人であっても最年長で、若君を任されてるわけであって(しかも禁忌の力でもって呼び出したワケありも理由)過保護で当たり前というか、主君けなされれば苛立つわけです。サンピン侍についてものちに千広がまとめて説明してくれるのでハショりますが、まあ武士の中でも低給階級が低い武士の子として石津を怒鳴ったわけです。本来なら頭さげて話すべき立場なので、隼人は。隼人はしかして、この辺まだ現代感覚というか。まあ、そのもやもやについても語られますが、偉いからってえばりちらしていいわけではないんじゃないのか、という感じですね。
また一番仲良しだった二人だけに、尾を引きます。