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生まれ変わりだからって小学生を江戸に召喚するな。  作者: 相木ナナ
現代っ子、江戸の道場に投げ込まれる鬼修行のスタート
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欠けた月を見かけたら

新キャラ、登場

 隼人が道場にきて、一か月がたとうとしていた。



 相変わらず石津や他の一部門弟とはにらみ合いが続いてはいたが、小塚や泉、沢田が絶えず目を向けていることもあって表面上は問題は起きていなかった。



「おう、久しぶりだな」



 稽古場の入口で大きな声がした。


 隼人は思わず振り向いたが、他の門弟は今まで以上に稽古に集中したようにちらともしなかった。



「兵堂さんだ」


「ひと月ぶりじゃあないのか」


出仕しゅっしが決まったんじゃないのか?」



 ひそひそと声があがる。


 あれが、兵堂直次郎ひょうどうなおじろうか……。


 間近に見たのは初めてだったが、隼人もその名前はよく知っていた。


 五席の泉が、邪剣といい、沢田や森之介は狂犬と云った、強いが自分で編み出した剣を折り込み、ねじ伏せるという男だ。


 小旗本の三男坊だが、婿養子が決まり、道場にはあまり顔をださなくなったと聞いてほっとしていたのだが。


 目が鋭い、というより飢えているようだった。


 兵堂は石津を見ると、口をゆがめた。



「ほうほう、まだ場違いが続けてやがる」


「兵堂、稽古をしないのならば帰れ。ここは道場だ。それとも手前が俺に勝てる算段でも付けてきたか?」



 小塚は来客に対応して奥におり、指揮していた黒宮があからさまな口調で兵堂に敵意を向ける。


 石津の目に怒りがういたが、すぐに兵堂から目をそらした。



「次席と勝負なんて、冗談じゃねえよ。こっちはお家のために大忙しで剣はとんとにぶっちまった」


「なら、帰ることだな」


「しかし、秋良あきらの若様がいるんじゃ黙って帰れねえな」



 隼人は驚いた。いきなり自分の名前がでてくるとは思いもしなかったのだ。



「なんだと?どういうことだ」



 黒宮もいぶかった様子で、稽古をつける手を止めた。



「秋良家といえば、知行三千石、小普請組支配役。御家人に等しい家から俺もようやく無役ながら小普請の仲間入りだ。上役に挨拶もないわけにいかんだろう?」


 不気味な男だ。

 森之介たちに駆け寄らないよう首を振って見せたが、内心は怖かった。



 ――いけないのは弱きをそのままにしてしまうことです。


 ここで、怖がれば森之介たちがまたバカにされる。



 ニヤニヤと近寄ってくる兵堂を見ながら、隼人はできるだけ息を整えて、襟を整えた。



「さあ、秋良隼人殿?稽古を見て進ぜよう」



 さっきまでとは打って変わったような口ぶりだが、舌舐めずりするような口調はそのままだった。


 ――落ちつけ、落ち付け。


 隼人はいつも通りになるよう、丁寧に竹刀をふる。



「今日はもう誰かに稽古をしていただいたかな?」


「先ほど、泉さんに指導していただきました」



 うまく、言えた。



「泉……そう、それはいい。泉の家は五百石程度だが代々勘定組頭をつとめる役方の家だ。お付き合いにふさわしいでしょうな。黒宮とは打ち合いましたか?」


「いえ、私はまだ未熟なので次席と打ち合うにはまだ稽古が足りないので」



 実をいえば黒宮が激しい稽古が好きなので、「家老直々が心配している」体だという隼人に、打ちすえる型の稽古が出来ないのが不満であるらしく、黒宮はたびたび隼人を避けているのを知っていた。



「そうですか、黒宮は二千石の鷹匠頭の跡取りです。石高は秋良家より低いものの代々の役方の家ですからな、仲良くされるとよろしいだろう」


 なんなんだ、この男は。


 隼人は誰がどういう家なのかは無知だったし、役方の意味もあまりわかっていなかったが、兵堂が現代の「ブランド嗜好」なのはわかった。



「では、石津とは?」


「いえ、残念ながら特に話はしていません」



 別に残念ではなかったが、これ以上話していたくない。


 早く、兵堂と離れたかった。



「それはそれはご賢明であらせられる」



 兵堂の唇がまくれあがった。



「あれは、貧乏御家人の子でしてね、神名の道場には似つかわしくないのですよ。慣れ合っては品性が腐ってしまわれる。御家人の、ドブ臭い匂いでね」



「兵堂、口を閉じないと髷ごと刻んでやるぞ」



 黒宮の竹刀が、黒宮の体に吸いつくようにしてある。


 それは剣がまだ使えていない隼人にも、一瞬で頭を狙えるのだとわかる殺気だった。



「放り出すなら、臭い御家人の子をつまみだしてからにしてくれ。俺の足をふくのに丁度いい」


「兵堂、表にでてもらおうか。お前がこの道場の席次を汚してることが我慢ならねえな」



 黒宮と兵堂はたがいに距離を保ちながら、入口に後ずさっていく。


 .

うう、役柄うんぬんはあとで千広が話してくれるんですけど、わからないままのは困るのかな。しかしここで書くと、千広の会話がーー!葛藤。

前にも旗本とはいえ次男三男は婿探しにタイヘンだったというのを書きましたが、なんとか婿入りしたものの、嫁さんが「家もち」であると、現代でもそうでしょうが、嫁さんの実家にいき、名字も嫁さんのものになるので、形見は狭いという方は多かったそうです。大変ですね。商家では跡取り息子の場合、これぞという娘さんを見習いという形で家において、家風と合わない・姑と合わない・などがあると結婚できず追い出されてしまう、”足入れ”というものがあって、合えばいいですが、合わなかった場合娘さん側は大変な無駄と傷を負います。許嫁候補として入っているのはバレバレなんで、名前に傷がつく場合もあるし、手が早い息子に手を出されて傷がつくことも多く。だいたいそういうケースは娘さん側の身分、家の羽振りが低い場合ですので、対等や大きいと、ちゃんと婚礼されるわけですから、そこでも差別はあったわけですよね。そして武士の場合も、婿に入ったものの嫁は偉そう・向こうの親がうるさい、などで家で女中する人に”お手つき”してしまい奥さんに大激怒という、不倫は文化なのでしょうか・・・。

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