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生まれ変わりだからって小学生を江戸に召喚するな。  作者: 相木ナナ
現代っ子、江戸の道場に投げ込まれる鬼修行のスタート
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自分との戦い 04

千広の気遣い。


 森之介しんのすけが罰則をくらってしまった。



 ――俺のせいだ・・・・・・



 なんで石津がつっかかってくるのか――きっと見るからに隼人が弱いからだ。

 弱いものいじめはきっといつだってあるんだ。



「お夕餉が進みになりませんでしたね」


「うん・・・・・・」


「何かお気にかかることがございましたか?」



 佐枝さえが、箸のすすまない隼人を見かねて、魚の身をほぐして茶漬けにしてくれたのだが、隼人は気が重くて半分残してしまった。



「森之介に会いたいんだけど」


「明日会えますよ」



 もし罰則でひどい目にあって、隼人に怒ってたらどうしよう。

 そう思うと、明日まで待つのは怖かった。



「明日じゃなくて、今がいいんだ」



「それでは縁側まで出て頂きましょうか」



 スタスタと千広が入ってくると、唐紙からかみをがらっとあけた。



「まあ、兄上まで」



 佐枝が声をあげる。


 庭にいたのは、鋭馬えいまと森之介だった。



「若様が気に病むかもしれんというから、付き添ってきた」


「鋭馬、ありがとう!」



 夜着に着替えていたが、そのまま縁側に走り寄る。佐枝が慌てて隼人の背中にあわせの着物をかけた。



「温かい飴湯あめゆでも持って参りますね」


「おお、俺のも頼もうか。しょうがをたくさんのっけてくれ」



 家と変わらぬ態度で鋭馬が言うのに、佐枝は袖で口元を隠したまま笑って出て行った。


 千広と言えば、綺麗な眉根にしわをよせている。



「千広、今日屋敷に卸しのものは来たか?」


「そういうものは明日にせんか、不調法者が」



 鋭馬は右腰にぶらさげている袋を千広に投げた。


 キャッチして、不機嫌そうなまま千広も部屋を出ていく。



「あれ、なあに?」


「煙管入れですよ。屋敷に煙草を置いてくあきんどがいるので、頼んだのです。ちなみに武士は右に煙管入れを下げますが、町人は左に下げます。何故か」


「・・・・・・刀があるから?」


「大いによろしい」



 言って、鋭馬が声をひそめた。



「森之介を呼んだのは、千広です」


「どういうこと?」


「若が元気がないのを心配して、冬二郎とうじろうから道場の話を聞くと、気に病むだろうと俺に森之介を連れてくるよう、さっき下屋敷しもやしきまで千広がきたのです」


 隼人がえー!という前に、千広が戻ってきた。

 お盆に飴湯を三つ乗せた佐枝を先に部屋にいれると、障子戸を閉めて煙管入れを鋭馬に渡す。



「それでね、あの、罰則はどうだった?」



 森之介はいつものように縁側に座っていいものか、しかし千広がいるので所在なげな顔で飴湯を受け取ったが、「座ってよ、ね、話しにくいから」

 隼人に促されて、そっと端に腰かける。


 森之介が抑えても抑えきれない笑顔がちらついているので、気が大きくなった隼人は、現代でみた時代劇のシーンを思い出す。

 江戸で暮らしてみると、当てにならないことが多いテレビドラマだが、これは大丈夫だろう。


 しかつめらしく、手まねきした。



「くるしゅうない、近う寄れ」


「では失礼して」



 落ちそうなくらいぎりぎりに座っていた森之介は、隼人に顔を向けたまま、ねじった体勢でしっかり座る。



(あれ、ウケなかった・・・・・・)



「いつもそう武士らしくお話いただければ」


 厭味ったらしく千広にため息つかれただけだった。



「隼人様の心配に及びません。罰則といいましたが、師範代と沢田さんも一緒にいらっしゃいましたし、防具みがきなどは師範代が毎日やられていることですから。掃除しながら、沢田さんが師範代の昔のお話などされて、大変有意義でございました」


「沢田さんと小塚師範代って、ずっと一緒なの?」



 ムードメーカーといっていい沢田と、無口な小塚が一緒にいるイメージがわかない。



「幼馴染でいらっしゃるようですよ。沢田さんいわく、『寝しょんべんしてるときからの仲』だそうです」


「へぇぇぇ・・・・・・」



 意外な話を聞いた。



「お二人で柿を取りに行って、師範代はお小さいときは木登りが苦手で木から落ちて大泣きしたとか、それはもう面白い話をしてくれて」


「小塚さん、怒らなかった?」


「あの師範代ですからね。いつものように静かにただ聞いてるだけなんですが、時折思い出し笑いをなさって、『なつかしい』と」



 それなら、罰則というよりちょっとした居残りだ。

 案外、ああ見えてあの師範代は優しいようだ。



「勿論、石津には説教つきですよ。無用な喧嘩をするなとか、非礼を詫びなければ剣の道もまた誤るということを注意されておりました」


 隼人は話に夢中になって、飴湯を冷ましてしまったが森之介はがぶがぶ飲んだ。


.

下屋敷について語ったかどうか怪しいので、ここで。大名・旗本はだいたい、上屋敷・中屋敷・下屋敷がありますが、中屋敷がない方々も多いです。ズバリお金がかかるから!お金の実入りがいい役職についている人は中屋敷があることが多いです。身分が高くても中屋敷まで手が届かかない方も。上屋敷は旗本や家族が住む場所、千広のような用人たちもこちらです。鋭馬や森之介たちは下屋敷ですね。最初の頃は隼人のために特別に上屋敷にいることもありましたが。

隼人が将軍ごっこしてましたが、”将軍ごっこ”だと千広に知れたらめちゃ怒られておりますね。テレビでしか知らないネタをやったので、ウケを狙ったのですが身分的にはああいった発言はおかしくないので、むしろ江戸の人間からしたら隼人のフランクさが問題だったので、その辺はギャグとして滑っております。

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