自分との戦い 03
喧嘩の結果……しかして、このままでは終わらない。
「竹刀をとれ。今すぐ思い知らせてやる、この野郎――!」
「何をしている、有馬」
「何の騒ぎだ、森之介」
森之介の大声は道場の端々まで通ったらしい、向こうで試合をしていた沢田もおっとり刀で走ってきた。
「金魚のフンが」
泉に立たされた石津がまたすかさず言って、森之介は躍りかかった。
「貴様、今すぐつるしあげてやる!!」
「いい加減にしろ」
後ろから手が伸びて森之介を引きはがす。
黒宮だった。
「天瀬、有馬を抑えておけ」
「・・・・・・はい」
黒宮の鋭い眼光が隼人にも飛んできた。
「それで、なにがあった秋良。見たところ石津とおまえの間に有馬が入ったようだったが」
「森之介は、悪くないです」
なんと説明したら良いのだろう。
道場中の注目を浴びている中、隼人は口ごもった。
「あの・・・・・・私、が稽古をしていたら石津が話しかけてきました。稽古中だといったのに、森之介と冬二郎がなんと言われてるか知っているか・・・・・・と言ってきて、そこにきた森之介に金魚のフンとか言ったんです」
「あとの下りは私も聞きました」
泉がすぐに隼人の言葉に口をそえてくれて、隼人はほっとした。
森之介は冬二郎に抑えられたまま、足を踏みならした。
「違う――あいつは隼人様に向かってもっと失礼なことを――」
「それを己の口で広めるか?俺は感心せんがな」
黒宮に言われて森之介は黙ったが、爆発しそうな表情で言いたいことはこれだけじゃない!というのがありありと見えた。
「道場の中でもめ事は許さん。石津も有馬も一週間は試合は禁止だ。稽古のあと床掃除と全員の防具みがきを行え」
小塚が口を開くと、道場が水をうったように静かになった。
「それとも全員稽古はもう終わりか?」
たちまち道場に熱気が戻った。
各自自分の練習に戻る。
「石津、くだらないことをするな」
小塚師範代の声は大きいわけではなかったが、石津はしゅんとした。
「まあ、そう気を落とすな。俺も居残ってやるから。小塚もいるぞ」
沢田がそういって森之介の背中をバンッと叩いた。
「大丈夫でしたか?」
森之介が罰則をくらってしまった――。
「うん」
冬二郎に顔を覗きこまれたが、隼人は元気なく嘘の返事をするしかなかった。
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今回みじか!すいません。まあ血気盛んな若者がいればああいうぶつかり合いも多々あります。石津にも色々ありまして、このあとちょいちょいと出てきます。小塚も思慮深い人なのでいたずらに罰則を出したわけではないのです。黒宮も俺様な人ですがああいう言い方でうまく収めています。隼人からすると石津の行為はいじめに近いですが、いじめというよりはっきりした言い分というか、石津からしたら立派な旗本の跡継ぎが臣下に頼りっきりでふにゃふにゃした態度でいるのが侍として情けないぜ!って憤りと、自分の境遇とくらべて嫉妬もあったりします。その辺は未だ隼人も覚悟が浅すぎたというか未だ現代感覚が抜けておりません。