解き明かされる過去30
「何かあったの?」
「いや、なにも」
「嘘でしょ?」
勘が鋭いってのは時に厄介である。自分としては最高のポーカーフェイスを決めていたのに、原色が目に毒なミニカラーコーンを片していた奈緒にとっ捕まった。
「嘘じゃないし、女子はそろそろ下校時間だから、それは僕が片しておくから先に帰っていいぞ」
「なんでよ、みやびはまだそれ洗うんでしょ? なら、私も手伝うわよ」
「いいって、決まりなんだよ。女子は危険だから先に帰りなさい」
ムスッとしたのは奈緒である。見るからに不機嫌そうに頬を膨らませている。
「春香に気を使うならまだしも、あたしにまで気を使うなんて気に入らないわ! 絶対に帰らないんだから!」
何と張り合っているんだこの子は。僕は君の身を案じて先に帰れと言っているんだ。このわからず屋さんめ!
「雅君、私たちは友達なんだよ? どうして、一人で抱えようとするの?」
「春香、君までそんなこと言うのかよ」
まったく困ったものだ。ここは男の心意気を汲んでいただきたい。
「だめ、みやびをこれ以上苦しませるのは、あたしも春香も嫌なの」
「なんでだよ」
「雅君、私たちが一番近くで雅君を見守っているのを忘れちゃった? 拓哉君が来なくなってから全部自分でしょい込んで、こんなにたくさんの仕事をこなして、大丈夫な訳ないよ」
友達思いも度を超すと破滅を呼ぶだけよ、あたしや春香だけは信用しなさい。
奈緒が僕から臭い籠を強奪した。
「わ、私も三人に協力したいです! 力になれるかはわかりませんが、たーくんのことは私が一番理解しています! 他の四人だって――」
優香さんか二人をこの時間まで残していたのは。先輩マネージャーならしっかりこの縦社会のルールを後輩に指導して頂きたいものだ。でも、心配かけてい僕が悪いのか。もっと逞しくならないとダメだな。
そう思ったのも無理もない。筋骨隆々スポーツバカ共の中に混じっていると、自分がとても非力な男だと言うことを痛烈に実感させられる。長時間の運動を経験したこともないし、実力でスタメンを勝ち取るための努力を惜しまない男気もない。
「じゃあ、手伝ってもらおうかな」
結局、僕は三人に助けてもらうことを選んだ。惨めでならない。自分で決めた過酷な道に、早くも挫折してしまったのだ。
「雅君、本当に大丈夫? なにかあったの? 顔色悪いよ」
春香の小鳥の囀りの様な優しい声が耳元を撫でる。ダメだ、耐えろ。春香の前で弱みを見せるな。こんな激痛大したことない。ただの青タンと打撲だ。少し我慢すればすぐに良くなる。
僕を心配する春香に極力笑顔を振りまきその日はどうにか帰宅した。拓哉から僕の安否を気に掛けるラインが入っていたが返信することも出来ず、泥の様に眠った。




