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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去22

 五月二十一日土曜日、午後十六時。


 真田家を後にした僕は、その足で小学生低学年の頃から良く奈緒と二人で日が暮れるまで遊んだ、タブノキの巨樹が目印の公園を訪れていた。


 周囲の住宅の軒先を食い散らかしたようにポッカリと空いた空間には、ジャングルジム、ブランコ、像の鼻が滑れる様になった滑り台、鉄棒、シーソー、砂場、雲梯、スプリング遊具など、所狭しと遊び手番の道具が設置されている。なかなか立派な池には、鯉が泳いでるくらいだから、地元では有名な公園である。


 今はブランコで遊びながら二人を待っているところだ。


 斜陽で橙色に染まる公園の一番奥に鎮座するは巨樹。樹高約二十m、根周り約二十七m、幹周り約十二m、樹齢千三百年から千五百年と言われている。高校生になった僕ですら、やはりデカいと思ってしまうくらい、厳かな佇まいは今も健在だ。さすがに、昔の様に意気揚々と登ろうとは思えない。


 本来この巨樹は国の天然記念物に指定されている。幹にはしめ縄が張ってあるし、根元には記念碑が建てられている。常識と教養をある程度身に着けた人間からしてみれば、決して登ろうとも思わないはずの代物だ。


「久しぶりに登るか」と、魔がさしたのは懐かしい感覚を覚えたからだと思う。高校に進級してからは一度も足を運んだことがないから。


 何も変わっていない佇まい、公園との境界線まで伸びた立派な枝を見上げたら登らずにはいられない。確か、ここを登ると巨樹の向こう側に建てられた一軒家の二階まで丸見えだった気がする。


 不確かなのは、久しく登っていないからであるし、最後に登ったのは小学校中学年になるかならないかの年齢だ。奈緒が登りたくないと言ったのはその頃であり、僕も無理には登らなくなったのを覚えている。


 女子としての自覚が芽生えたのかも知れないし、周囲の大人たちの目が気になったのもあるかもしれない。さすがに、巨樹だと言っても子供が登ると痛む。だから、今は立て看板もしっかり設置されている。


「危険! のぼるな!」――、単純明快な注意書きを横目に、樹洞に足を掛け一番近い枝に手を掛けてスルスルと巨樹を登っていく。“体”は覚えているとでも言いたげな軽快な動作である。簡単に落ちたら骨折だけでは済まされない高さまで登ってきた。


 夕方ってのもあり、園内には人がいず注意されることなく簡単に樹幹の最も大きい枝まで到達することができ、久方ぶりの眺めを堪能することに。


 とは言っても、見えるのは何ら変哲もない公園とそこに隣接しているひな形通りの住宅だけだ。2×4工法とかいうんだっけか。どれも当たり障りのない顔をしていて、どれが誰なのかパッと見では分からない程だ。


 一番近い住宅になると、窓に手が届くんじゃないかと思えるほど近い。窓を開ければ住人と会話くらいなら余裕で出来るだろう。で、枝を伝い一番近い住居側へと歩む。


 どうも、そこの部屋は今では人が住んでいないようである。雨戸が閉められており、落ち葉がサッシに山積みになっている。人が住まなくなると住宅は一気に老朽化すると誰かが言っていたのを思い出す。ここから見える庭先は意外と綺麗な芝が生えているが、外壁は雨風に曝されて古ぼけた色をしていた。


 そんな時代の流れを感じること五分、公園に二つの人影が入ってきた。


 遠目からでも分かる。奈緒と春香であった。


 今更だが僕は木登りをしに来たわけじゃない。奈緒や春香をそれに誘うつもりも毛頭ない。そもそも、どう見ても木登りするタイプじゃない春香を呼んでまですることではない。


 要件はもちろん、拓哉のことで奈緒、春香に協力してほしいことがあるからだ。その協力申請をするのが今回の目的だった。


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