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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去15

「そこは言ってしまえば将来Jリーグで活躍することを夢見るジュニア選手を育てる、日本でもトップクラスの強豪チーム。拓哉と四人の出会いはそこからであり、寺嶋君と拓哉の私達では想像もつかない友情が芽生えたのもそれからだよ」


 同時期にチームに参加した拓哉と寺嶋は、その日のうちに意気投合を通り越した速さで仲良くなり、よきライバルにもなった。


 寺嶋家は真田家と比べて決して裕福ではないが、寺嶋は恵まれたその体格と男四兄弟の末っ子として鍛え上げられた雑草魂でメキメキと上達し拓哉を良い意味で刺激した。プロサッカー選手になったらクラブの会費を倍にして返すと、子供ながらに宣言していたのだ。練習への情熱が異常だった。そのかいあって当時のエースは寺嶋である。


 しかし、女姉妹の子分として育った拓哉にも、実は競争心が備えられていたのは彼が昼夜練習したいと言い出したことから伺える。現に、ここから見えるグランドは拓哉が初めて我儘を言って幸久さんに作らせたものだ。


 大好きなサッカーで負けたくない。とても拓哉らしい理由に幸久さんは快諾したのは言うまでもない。


 その日から誰から指示されるでもなく、自分から早起きしては自主練し、学校から帰ってきたら寺嶋やそのほかのチームメイトを呼び込んで紅白戦を毎夕繰り広げたのは、まぎれもなく拓哉その人なのだ。正真正銘のサッカー小僧に自他共に認めることになったのはそう遅くはなかった。


「寺嶋君も、他の三人も拓哉のことを本当に信頼していてね。真田家が金持ちとかそんなこと子供には関係ないんだよ。純粋に毎日暗くなってもサッカーが出来る環境を提供する拓哉が本当に好きだったんだと思うよ。親バカだと思うが、拓哉は人に恨まれるような子供ではないからさ」

「それは僕でもわかります」


 思いのほか大きな声が出てしまったのも無理はない。真田家の絶えない笑顔に思わず僕も上機嫌になってしまっているのだ。拓哉の知られざる過去を聞け、僕だって嬉しいんだ。


「だから、どうしても信じられんのだ。あの四人が拓哉や君にそんなことをしたとは……」

「寺坊なんて私たちにとても紳士的で、何かあるとすぐに飛んできて部屋の掃除とか手伝ってくれたしね?」

「ヌードデッサン頼まれた時はさすがに顔引き攣ってたよ?」

「だって、ダビデ像みたいでそそられたんだもの。寺坊なら受け入れてくれることは分かってたわ」

「セクハラも体外にしないとだめよ千鶴姉。でも、寺坊もハッシーもノッチもアッキーも、みんな良い子なのは間違いない」


 昔から知る者が言うのだから、本当なのだろう。それぞれにしっかりとしたあだ名があるのであるなら、真田家から好印象を頂く四人があのような蛮行に出た理由がどこかにあるはずだ。


「でも、本当なんです。裏切者を絶対に許さないって言ってました寺嶋は……」


 誰も好き好んで真田家を沈痛な面持ちで言葉を飲み込ませる事態に陥らせたくない。


 だが、明確な悪意を持って春香の弁当を踏みにじり、拓哉に暴言を吐いたのは覆りようもない事実である。それだけは、僕も拓哉の友達として、拓哉を大切思う気持ちがある人間として、しっかりと打ち明けないといけないのだ。


「……、去年の秋、拓哉がケガをしたことがある。原因はさっき初めて知った。あいつ、練習中に転んでぶつけたとしか私に言わなかったからね」

「大事なことはいつも言わないのよねあの子。ホント、誰に似たのやら」


 範子さんの言葉に女性陣の視線が一家の大黒柱に集まり、その大黒柱が苦笑いを浮かべ咳ばらいをした。


「つまり、拓哉は今も、そのケガのことで悩んでいるのだね? そして、寺坊もまだ故障を抱えており、チームも危機に瀕していると言うことかい?」


 総括するとそうなるのである。まったく、沈鬱な気分になる。


「拓哉はいまどこにいるんですか? 会えないんでしょうか? お願いです、拓哉に会わせてください」


 この気持ちは拓哉に会わないと解消されない。


 だから、僕は幸久さんに歩み寄り、また頭を下げた。


「しかし、私も会えていないのが現状でね。母さんはどうかね?」

「膝が痛いから長期入院したい、学校休む。と言ってから部屋に籠りっきりでなんの音沙汰もないのが現状です。入院したいのならば、すればいいのに。でも、夜中にご飯は食べてる様子があるから、病気ではないかと」


 GWから誰も拓哉とまともに会話していない。それが真田家の答えであった。


「部屋に案内してもらえませんか?」

「私が案内するわ」


 長女であり一番拓哉を何かと遊び道具にしてきた千鶴姉がソファーから立ち上がると、僕に手招きをした。何かとヌードデッサンで男を脱がす癖がるようだが、今は至って普通の女子大生らしく大人びて見えるくらいだ。


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