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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去12

「ちょっとあなた! 子供の悪戯をいつまでも根に持つもんじゃありませんよ。ほら、今度の子はしっかりまだいるじゃないですか」

「おお、ホントだ。すまんすまん、何用かね? うちに?」


 マダム口調と言えばわかり易いのかも知れない。声の質からしてどこか世間から一段上の世界に住んでいる利発そうな女性の声が、無暗に子供を不安にさせる声を持つ男を律する。


 二度目の問いに、拓哉と同じ声色を感じて肩の力が抜けた僕は、噛まずに自分の身分と名前を告げた。


「おお、やはり組のものじゃないか! 謀ったなワレ! 福田組の者が何用か?」

「も~ふざけるのも体外にしないと晩ご飯抜きにしますからね」

「そりゃないよ母さん! ほら、雅君も思わず噴出しているじゃないか!」


 声だけでここまで愉快な小芝居を演じられては、抱腹絶倒するのも無理はない。間違いなくここは拓哉の実家で間違いはない。


「ささ、うちの旦那が愉快を通り越してバカなのが、露見する前にどうぞ中にお入りください」


 声と同時に門扉が自動にその口を開けて、僕を迎え入れた。そして勝手に閉まっていく。


 なるほど、確かに豪邸である。青々とした芝生が敷き詰められた園庭に、季節の花が所狭しと咲き乱れ良く手入れされているのが分かるほど艶々とした花弁を天に向けて広げている。他にも、点々とビーナス像やらイエスを抱く聖母マリア像などのインテリアが広い敷地に鎮座している。


 個人宅にある理由が不明な噴水を丁度過ぎて、兎に角窓がデカく、玄関が体育館の入口ほどの立派な観音開き式のドアを備える母屋に近づくと、園庭が途切れ立派なサッカーグランドが姿を現した。


 簡易的であるが照明も完備されたグランドには誰もいないが、そこで誰が昼夜問わず練習に明け暮れていたのかは容易に想像がつく。少し、心中が穏やかじゃなくなりつつあるのを感じ、足早に玄関前に立つとまた勝手にドアが開いた。


「あら、この子がたっくんが言ってたお友達? 可愛い!」

「千鶴姉~ずるい私も抱きしめる!」

「まってまって、ここは私から触らせてよ!」


 自動ではなく、三人の女性の手によって開閉した扉の内に吸い込まれたのは、僕の意志ではなく。頗る弾力の良い女性らしい体に抱きしめられたからである。良く分からないが、三人の女性が僕を取り合ってキャッキャウフフとしている。


「たっくんも可愛いけど、この子も可愛い~」

「まるで女の子に触れるの初めてって言いたげなこの赤い顔がたまらないよね」

「母性本能が暴走しそう」


 一通り弄ばれた挙句の子供扱いである。良い気持ちはしないが、感触的には気持ちが良くて男としては満足したのでここは我慢することに。


「も~、三人ともお客さんをからかうのはよしなさいとあれほど言ってるじゃないの。特に、たっくんのお友達にはあなた達は刺激が強いんだからなおさら大人しくしなさい」

「え~でも、いいじゃん、このあどけない表情が私は好きなんだから」

「千鶴はもう二十歳を超えたのだから、もう少しお淑やかに男性と付き合うことを覚えなさい」


 千鶴と呼ばれる女子大学生くらいの年齢の女性が悪びれる様子もなく肩を竦めると、先ほどインタホン越して聞いた声の持ち主が、三人の女性を背景に、当惑を隠せない僕に一礼して朗らかに笑った。


「ようこそ、真田家へ。拓哉の母、真田(さなだ)範子(のりこ)と申します」


 特筆するほど、美人であり豪華な風体をしているわけでもない。四十歳中ごろの細身の女性が拓哉の母である。後ろの女性達一同も世間的にも標準的な外見であり、どうやら礼服を着てこなくても怒られる心配はなさそうだ。


「こちらから、一女の千鶴(ちづる)、次女の()()、三女の由紀乃(ゆきの)です。それぞれ、みんな専門の女子大に通っています」


 美大、音大、映(画)大に在籍していることをそれぞれ順に自分の口から付け加える女性達。もしかして、と思う前に範子さんが言う。


「たっくんは四番目になるんです。女三人に囲まれてさぞ苦心したとは思いますが」

「え~そんなことないよ、私たちが毎日遊んであげたんだから、喜んでるに違いない」

「デッサンを口実に全裸にされて喜ぶような変態ではないと思うけど」

「なによ、芽衣だって作詞のためって言いながらたっくんの恋愛観を無理やり聞き出して、まだ女の子と付き合ったことないって言わせたのは、あれはセクハラよ」

「まあまあ、二人ともそこまでにしなよ」

「あんただって映画作るって言ってたっくんに濡れ場を強要したじゃないの」


 まことに賑やかである。歳が近い女性が三人集まるとこうも場の空気が明るくなり華やかになるのか。普段おちゃらけてそんなことおくびにも出さない拓哉も家では大変な思いをしていたんだと、嫌味ではない苦笑いが出てしまう。


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