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初めての恋  作者: 神寺雅文
第三章--交錯する恋ごろ
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交錯する恋心30

「それ、にゃーたんだよね?」

「そう! “ママと一緒”に出てくるにゃーたん!」

「かわいいよねにゃーたん」

「うん」


 リュックにしがみつく様にぶら下がっているトラ柄の猫のキャラクターは「にゃーたん」と言うらしい。確かに、そのフォルムからして幼児に受けそうな愛嬌がある。


 女の子が言った「ママと一緒」ってのは、一種の教育テレビ番組である。昔から続く長寿番組であり、登場人物やマスコットキャラクターは世代交代するものの、番組の内容は一切変わっていない。春香がいま行ったように、手遊びをしたり童謡を読んだりする番組だ。園児が「ママと一緒」、小学生が「天才テレビっこ」と言った具合でその年齢にあった一般教養の向上を狙った番組がその時代に合わせて改編されてきた。


 春香はその流れに合った子供受けする遊びを女の子の様相から瞬時に選出し、この手遊びを思いついたのだろう。まことに、凄い洞察力だ。


「お姉ちゃんもっと一緒にやろうよ!」

「じゃあ、次は何がいい?」

「ひげ爺さん!」


 その番組の出演者である歌のお姉さんと子供がするような掛け合いを目の当たりにして僕はとても暖かいモノを感じている。泣いていたこともすっかり忘れて無邪気に春香と手遊びをする女の子と、そんな女の子に負けないくらい大きな声で歌う春香。


 そんな二人の陽気な歌声に薄暗いクラゲコーナーが昼下がりの公園の様に明るくなる。


「トントントントン、ひげじいさん」

「トントントントン、ひげじいしゃん」


 ひげじいさんのところで顎に握りこぶしを当てて女の子と笑い合う春香は、とても可愛くて僕は卒倒してしまいそうだ。


「トントントントン、こぶじいさん」

「トントントントン、こぶじいしゃん」


 楽しそうに歌う二人はまるで保育士と園児そのものである。ここが水族館ってのを忘れさせるくらいに楽しそうな雰囲気を放出している。


 気がつけば、僕らの周囲にはちょっとした人だかりが出来ていて、一人、二人と子供が集まってきては同じように手遊びを始めている。


「トントントントン、うさぎさん」

「「トントントントン、うさぎしゃん」」


 もはやここは保育園である。春香先生を中心に園児たちが輪になり「ひげじいさん」と言う手遊びで和気あいあいと遊んでいる。これは、春香だからこそなせる業なのかもしれない。僕は春香の楽しげにする横顔を盗みしつつ関心してしまった。


「メイ! こんなところにいたの? 探したんだから!」

「あ、ママ!」


 ウサギの真似をしてから手を膝の上に置く。その動作が通り終わったところで、三十代前半くらいの小奇麗な女性が血相を変えて迷子の女の子を抱きしめた。遅れてパパらしき男性が周囲の目を気にしつつオロオロと二人の脇に立つ。


「このお姉ちゃんが一緒の遊んでくれたの」

「ありがとうございます、なんてお礼を言ったらいいか」

「え、いえ、お礼なんて滅相もございません」


 すっかり泣き止み、むしろご満悦の表情を見せるメイと呼ばれる女の子が春香の手を握る。また、一段と良い笑みを浮かべて、ママに「私ちっとも寂しくなかったんだから」って言いたげに春香へ一歩近寄って、春香に好意を示す。


 もちろん、それに春香も答えるべく微笑み返すと母親は一層の感謝を込めて頭を下げるのだ。見ていて悪い気はしない光景である。


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