交錯する恋心24
「小鳥遊春香さんだ。二丁目に住んでる子だよ」
「な、なんだよ?」
「そんな、……そんなことあっていいものなの?」
「どうした二人とも」
お互いの顔を見合わせて手を取り身を寄せ合い震える夫婦。僕の前では決して夫婦の仲を見せない二人が初めて手を取り合い見つめ合っている。と言っても、どう見ても情緒不安定であるし、見つめ合うって言っても恐怖で慄いてお互いを求めあっていると言った方が正しいかも知れない。
「雅、一つ聞くが、その子のこといつから好きなんだ?」
「初めて会ったのは新学期の四月、クラス替えがあったその日かな」
生まれて初めて見た父親の真面目な表情に圧倒され素直に答える。
「今年初めて会った? 間違いないわね?」
「ああ、そうだ。どこかで会ったことがあるなら、あんな可愛い子を忘れるわけないだろ」
「確かに、雅はオレの自慢の息子だからな」
そこは断言できる。親父もうんうんと頷く。しかし、母親だけは能面みたいな強張った表情を崩さない。
「……。奈緒ちゃんはなんて言ってるの?」
「応援してくれるって。友だちになったのも奈緒がきっかけだし」
「そう、ならもういいわ。三人の問題に親がどうこう言う資格はないもの」
ただ、と母親は言いいつまでしがみついている親父を引っぺがしお玉を僕にかざし言い放った。
「本当に大切なものを今度は手放すんじゃないわよ。いいかい、その目で確かな愛を見つけるんだよ? 分かった?」
「うん」
「これも運命なのか。雅、本当に愛している子だけを選べよ。お父さんは、どんなことが会ってもお前の味方だ」
息子の恋愛にここまで突っ込んできて、熱いメッセージを送ってくれるのは親として当たり前なのであろうか。今まで僕の恋愛に口を出すことの無かった両親が、本日春香とデートすることになっている僕を鼓舞した。
これが何を意味しているのか、僕には分からないけども、本当に愛している子を選べと言われたことだけが引っかかる。本当に愛する子は一人しかいない。そう、僕の好きな子は――。
「もしもし、どした?」
「おはよう、起きてた?」
「待ち合わせ場所の変更よ、みやびは春香を迎えにいくこと。そして、そのまま二人で出かけなさい」
それは、まさに恋のキューピットからの指令であり、恋の女神様からのプレゼントであった。拓哉か奈緒のどちらかが、僕の恋路を手助けする為に、この提案をして押し通したのであろう。




