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初めての恋  作者: 神寺雅文
第三章--交錯する恋ごろ
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交錯する恋心08

「わ~正解! なんで分かったの?」


 僕に手渡された特定の銘柄の紙パック式ココアを春香は嬉しそうに眺める。


「え、なんでって言われても、……なんでだろ?」――、一瞬、視界が歪んだ。

「どうかした?」


 頭が痛い。なぜか分からないが、片頭痛に見舞われて頭を押さえてしまう。

 こちらも昔から変わらないパッケージの定番中の定番であるココアだ。別に、他意はないのだがなぜ僕がこれを選んだのか分からないのだ。春香がこれを呑んでいたのを見たことがないのに、僕はどうしてこれを迷うことなく買ったのか自分でも分からないのだ。


「いや、ごめん何でもない。ほら、奈緒から聞いたんだよ」

「奈緒から? そっか、そうだよね奈緒なら知ってるもんね」


 拓哉と談笑している奈緒に視線を向け、何かを納得した春香は変に追及することなく、昔から変わらないマグカップに注がれたココアがいい香りを放ちそうなパッケージを施されたココアにストローを通してご満悦な表情をする。

 駐輪場でのことが嘘かのような天使スマイルに癒される僕。しかし、いまだに頭には鈍い痛みが走っており、大好物である命の水を飲む気にもなれないでいた。


「そんじゃ、そろそろ時間だし行こうぜ~」

「そうだね~、拓哉君昨日話してたことなんだけどさ~」

「あ、そうだねどうしようか?」


 拓哉の号令に習い奥の二人から順に来た道を戻るべく歩き出す。拓哉が先に僕を追い越し教室に戻っていき、その少し後に奈緒が僕の脇を通過する間際、


「上手く誤魔化しておいたから」


 ってウインクした。たぶん、僕が元気がないのは春香に変な誤解を与えてしまったのを気に病んでいると思ったからに違いない。


「さ、雅君もいこ? それとも保健室に行く?」

「いや! いい! 絶対に保健室にはいかない!」

「ご、ごめんなさい……、何か気に障ること言ったかな私……?」


 保健室と聞いて思わず大声を出してしまった。


「あ、ごめん大丈夫。気にしないで、あんまり保健室が得意じゃなくてさ昔から」

「そうなんだ……。あ、奈緒大丈夫だから先に行ってて」


 僕の大声に驚いた春香であったが、遅れている僕たちの状況を察して先に行く奈緒達が振り返って戻ってこようとしたからそれを僕の代わりに制してくれた。


「どうかしたの? 本当に大丈夫?」

「うん大丈夫。ごめん大きな声だしちゃって」

「ううん、ちょっとびっくりしたけど、誰にも苦手なモノあるから。どうして保健室嫌いなの?」


 脂汗が出て変に汗ばむ右手の震えが収まらない。なんでこうなったのか理解が出来ない。生まれて初めてだこんな感覚になるのは。それを見て春香はもう一度僕の隣に寄り添うように立ち僕の顔を覗き込む。


「何故かはわからないけど、昔からあの消毒液くさい匂いと真っ白な空間が嫌いなんだ」

「……昔から?」

「うん、物心ついて記憶がある小学二年生くらいからずっとね」


 人によるかもしれないことであるが、僕が幼少期の事で記憶しているのは小学二年生の春からである。保育園の記憶はほとんど残っていないし、小一の記憶もないに等しい。写真だってほとんどないのだ。その理由を聞いたら父親が「うっかり捨てちまってな~」って昼行燈よろしく言い放ちやがった。

 まあ、その辺は特に気にしてもいないし、物心つくころなんてのは人それぞれだし、奈緒もあまりその頃の記憶はないと言っている。写真だって別に二年生の頃のがある。だから、別段記憶の始まる時期を気にしたこともない。


「何も覚えてないの? 一年生の頃のこと?」


 けど、春香は気になる様だ。


「全然。春香はあるの?」

「うん、私は絶対に忘れたりなんかしない。忘れたら私はもうここにはいられないもん」


 それはどう言う意味だろうか? 質問しようとしたが、予鈴が鳴ってしまって僕は無理やり命の水の蓋を開けるとそれを一気に飲み干した。


「さあ、行こうもう大丈夫だよ」

「うん、無理はやめてね、雅くん?」

「ライフガードは僕の命! 元気満タンさ!」


 酷く心配したような表情をする春香に、僕はできる限りの強がりでそれに答えた。本当は今にでもベッドで寝たいけども、唯一ベッドがあり急病人が休める保健室が、僕は大嫌いなんだ。だから、そこに行くくらいなら空元気でもいいから教室で春香の笑顔を盗み見ている方がよほど体に良かった。


 今のが予鈴後ということもあり、まばらになった生徒達の流れに僕と春香は乗っかり教室へと向かった。


 その日、僕は一日中、体調がそんな感じでろくに春香と話せないで一日が終わってしまった。


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