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初めての恋  作者: 神寺雅文
第二章--友達
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友達09

「そうだ、一つだけ提案があります」


 そんな彼女がまたしても小動物のような小さな動きで人差し指を顔の前で立たせた。


「私のこと春香って呼んでほしいです」

「え……、急にどうしたの?」

「だって奈緒は呼び捨てなのに私にはさんをつけるなんてずるいです。私、すごく寂しいです」


 桜色をした唇を尖らせる春香さん。間違いなく僕を萌え死にさせにきている。


「わ、分かった。その、は、春香」

「え、なんですか? 小さくて聞こえませんよ」


 奈緒の真似でもしているかのように小悪魔的に微笑む春香。色白な右耳に右手を当てて僕に一歩近寄ってきたもんだから、とてつもなく良い香りが鼻先数センチ先で放出されている。


「春香! 小鳥遊春香! これでいい?」

「はい、満足です」


 満足した春香は軽くスキップすると僕を追い抜き手招きする。


「じゃあ、学校に行きましょう」

「あ、ちょっと待って!」

「待ちませんよ~」


 勇気を振り絞ったから垣間見ることが出来た春香の知られざる一面。学校ではお嬢様キャラが定着しており、僕も今日までは春香が奈緒を彷彿させるようないたずらっ子の表情をするとは思わなかった。なにより、自分のことを呼び捨てで呼ばせたい願望を持っているなんてこれっぽっち思わなかった。どうして奈緒に対抗するのか分からないけど、少なからず僕意外にも春香をさんやちゃんで呼んでいる男子は級友にも大勢いる。


「春香さんまって」

「あ~さんて付けたから待ちませんよ~」

「ごめん、春香待って」

「はい、待ちます」


 教室では見ることのできない春香の意外な一面は、どれも新鮮でどれも可愛くて独り占めしたくなるものばかりだった。敬称をつけられて膨れる春香も、呼び捨てで呼ばれて満足そうに微笑む春香も、今は僕だけのモノ。そう思えた。間違いなく、僕はいま春香を取り巻く人間関係の中で優位な位置にいることは断言できた。


「あ、僕からも提案があります」


 だから、僕しか味わえないであろう喜びを今度は僕から提案をすることにした。


「敬語やめない? 僕らもう友達だよね?」

「え、……うん。雅君がいいなら」

「僕は奈緒と同じように春香と話せるようになりたい」


 自然と奈緒の名前が出てしまい、口をつぐむが春香は逆に満面の笑みを咲かせた。


「うん! 私もその方がいい! だから、これからは敬語なしで話そうね」

「もちろん、ラインも交換したし僕らはもう立派な友達だ」


 街灯の優しい光の中で笑い合う高校生。はたから見てカップルに見えたらいいな。僕はそんなことを思っていた。奈緒以外でこんなにも表情豊かに僕と会話してくれる女の子がこの世界に存在するとは思ってもいなかった。

 僕が微笑めば、倍で返してくれる春香。さすがにそれが照れくさくてそっぽを向いてしまっても春香は小さくクスクスと笑って「なんか変な感じだね」ってもっと微笑んでくれるんだ。


 菅野雅、人生に一片の悔いなし。至福の時を過ごし、もうこの際死んでもいいです。ありがとうございました。


 ある程度その場の至福を堪能して僕は、小鳥遊春香を自宅まで送り届ける任務を思い出し軽快なリズムで歩き出したが、当然の如く呼び止められた。


「あ、雅君! 学校学校!」


 ガッテーム! そうだった! なんてこった! 真の目的を達成して適当に画策した計画がまだ生きていることを、純真無垢な春香の声で思いだすことになってしまった。


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