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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束93

「大げさ、まだ部員でもないのに。でも、実はね、私も入部しようかと思ってる」

「そ、そっか、入部するんだ」


 そんなこと分かり切っていたことなのに、僕はうろたえてしまった。なんだかんだで僕らはずっと一緒にいるもんだと思っていた。いつかは幼馴染離れしないといけないと心のどこかで考えてはいても、結局は大学やそのあともずっと一緒だと思っていたんだ。


 でも、奈緒は違うようだ。声に力がこもっている。


「頑張る。私も雅や春香に負けてられない」

「どうしてさ? 奈緒は奈緒だろ。僕なんかよりよっぽど大人だ」

「ダメなの。雅も春香も新しい道を歩み始めたんだもん、私も変わらなくちゃ。春香だって保育士目指すってこの間泊まりに来た時言ってたもん」

「そうだ、仲直りしたんだ?」

「もちろん。今まで通りよ私たち」


 あれだけ喧嘩していたのに何があったのやら。この一週間でどんな変化が二人にあったのだろうか。言われてみれば奈緒からも嫌な雰囲気が感じられなくなっていた。だから、二人の喧嘩は終焉を迎えたことは分かる。分かるけど、一日で解決する問題とは思えなかった。


 だから、単刀直入に聞いてみた。


「どっちが悪かったんだ今回の件は?」

「……あたしよ。だから、ちゃんと謝罪したわ。いまでもあたしはハルコ先生のことが大好きって伝えた。忘れる訳ないって言った」

「そっか。なあ、ハルコ先生は元気なのか? 本当に春香と会いたがってないの?」

「……。みやび、ハルコ先生のこと何も思い出せないの? 一週間あそこにいたのに?」


 質問に質問で返された。しかも一切の笑いなしだ。まことに真剣そのものだ。


「ああ、さっぱり」

「一ミリも?」

「ああ、本人は研修行ってたみたいだし、結局あえてないからな」

「……。はあ、この一か月、あたしの取り越し苦労だったのね」


 奈緒が深いため息をついた。


「苦労って?」

「気にしないで。みやび鈍感だから春香に変なこと言うんじゃないかと思って梅先生にいろいろ頼んでたのよ。それが全部取り越し苦労だと思ったら疲れが急に出てきた」

 そう言ってほんとにベッドに倒れこむ。いい加減人の枕の臭いをかぐのはやめていただきたいものだ。

「春香とも喧嘩して損した。だったらあたしも一緒に行けばよかった。演劇も悪くなかったけど……」


 さっきと言っていることが真逆だ。どっちが奈緒の本心なのだろうか。まったくわからん。


「結局、あたしがみやび離れできていないだけね。ごめんね、邪魔して」

「何言ってんだ。それはお互い様だろ。僕だって竜人から良い様に思われてないから、もしかしたら奈緒に迷惑掛かるかもしれない。入部してからいじめられるかもよ?」

「みやびのこと馬鹿にしたらボッコボコにするわね。でも、確かにみやびの名前を出したらすごく嫌な顔してたわ。ほんと、みやびは同性から嫌われやすいね」


 誰のせいだと思っているんだ。そこで薄着にも関わらずエッチな姿勢で人のベッドに寝転んでいる君のせいだぞ。ホットパンツのまま足を組むな。太ももがエッチだ。こんな奈緒の格好を僕が独り占めしていると勝手に妄想して嫉妬している男子はたくさんいるはずだ。


 特に木村竜人は奈緒のことがす、す――。くだらないのでやめだやめ。不愉快だ。


「奈緒、折り入って相談がある」


 同性の顔、しかも嫌いな男の顔を思い出すだけでも胸焼けがひどい。ここは奈緒さまにある頼みをして気分を変えよう。


 居ずまいを正し奈緒の目線に合わせ腰を折る。


「な、なによ?」

「朋希がさ、春香の誕生日に告白するらしい。どうしたらいい? 助けてほしい。何もいい案が浮かばないんだ」

「いい案ってどういう意味? 邪魔する案、それとも自分も告白するの?」

「邪魔するなんてありえない。でも、このまま指を咥えてその日を待つのもダメな気がする。朋希が言ってたんだ優しいだけじゃダメだって」

「なるほどね」


 僕のただならぬ気配に奈緒も上体を起こし一考する。


「ライブに一緒に出て告白するんだって」

「マジ? とてもロマンチックね。春香にとって朋希って子は歌の先生でもあるんだし、ともて効果的だわ。あたしだったら泣いて喜ぶ」

「だよな。もう勝ち目ないじゃん」

「そんなことない! みやびにはみやびの良さがある! きっと良いシチュエーションがあるわよ。一緒に考えよ!」

「いいのか? 奈緒も忙しいだろ演劇とかさ」

「みやびの頼みなら寝る時間だってもったいない。徹夜だってするわ」


 本当にこの子ならやりかねない。それだけは丁重にお断りするが、なんとも心強い限りだ。

 こういうところが幼馴染離れできていないと言うことなのに、僕らはそれから時間も忘れてああでもないこうでもないと作戦会議をするのであった。



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