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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束83

「朋希、本当に頼んで良いのか? 確かに近所ではあるし、俺も仕事あるから朋希が届けてくれると有り難いけど……」


 終業式の日、つまり12月25日、つまりクリスマスのその日も、春香は登校しなかった。担任教師は体調不良と言っていたがもう二週間も休んでいた。「春香を笑顔にしよう」作戦はまだ始動したばかり、朋希は居ても立ってもいられないず、帰りの会が終わると同時に担任教師を捕まえ春香の家の場所を聞いていた。


「でもな、いいのかな」


 にわかに個人情報がどうのこうのと言われだした時代。担任の男性教師は倫理観と友人を思う朋希の思いやりの心、どっちを優先すべきか天秤にかけて苦心した。自分的には頼みたかったが、春香の父親があの大企業の社員であることを知っており、もし堅物で個人情報漏洩がどうとか言いだすめんどくさい親御さんだったらどうしよう。ってその短いやり取りの間で考えていた。


「近所、提出物、前の席、暮れの忙しい時期、春香と友達になりたいって俺が思っている。それだけじゃ、だめなんですか? もっと具体的な理由あったほうがいいですか?」

「いや、朋希は優秀だし人気者だし、体育の授業の時だって率先して春香を仲間に入れてやった男気あふれる人間だってのは俺が一番してるよ。でもな、なんかこうもっと俺の心を熱くする意思があればな」


 結露した窓ごしで外の雪景色を見つめる男子教師。こんな寒空の下、朋希が春香の家を訪れても変に思われない理由。個人情報漏洩、子供を寄り道させた、自分の仕事を押し付けた。それをも押しのけ朋希が春香の家を訪れても良い理由。男子教師がもう一度、朋希を見た時、男・寺嶋朋希は言い放った。


「俺があいつを守る! 笑顔にしたい! 絶対に幸せにしてみせる! だから、行かせてほしいです先生!」


 無論これは小学校生活でのことを言っているわけであるが、なにを勘違いしたのか、男性教師は目を爛々と輝かせ、今の僕と朋希が大好きな曲の歌詞を引用して教えるのを渋っていた春香ん家の住所が書かれたメモと提出物を手渡した。


「惚れた女だ、最後まで守れ! 童貞だっていい、女を守れるなら本望だ! 行って来い朋希、お前にすべて任せた」


 すでにギターを習い始めていた朋希。まさに最近、その曲を完コピすることが出来て興奮もまだ冷めていない時、担任教師がまさか自分の一番好きな曲である銀色BOYZの童貞総ヤングを引用して応援してくれたことに、いままで感じたことのない活力が漲ってくるのを感じた。


「じゃ、行ってくる!」


 急いで春香の家に向かうぞって踵を返すと担任教師にランドセルを掴まれた。


「あ、朋希、これ返す。今度はバレんなよ」

 

  いっちょ前に大人用のアコスティックギターを校庭で弾いていたのはいつ頃だったろうか。教頭に見つかり没収されていた愛用のアコギが、悪戯な笑みを浮かべる担当教師の手からギター小僧の手に戻った。水を得た魚とはこのことを言う、朋希は別れの挨拶もそこそこに妙案が思いつき、上着を教室に置き忘れてことにも気が付かないまま、雪化粧で真っ白となる校庭へと飛び出しのであった。


 まだ、この感情が恋心だとは思ってもいなかった朋希であったが、間違いなくそれは恋心であり、高校生になった今でも朋希は春香を笑顔にするためにギターを弾いている。そのギター小僧が今まさに、春香を迎えに行くために積雪で歩きにくい通学路を爆走していく。もう会えない、みやちゃんの代わりに、寺嶋朋希が春香を迎えに行くのだ。


 誰がそうしたんじゃない、みやちゃんがそうしたんじゃない。寺嶋朋希がそうしたんだ。小鳥遊春香を全力で守る。笑顔にする。幸せにする。そう決めたんだ。自分で。自分の意思で、幼心で一生懸命悩んでたどり着いたんだ。それが寺嶋朋希の初めての恋なのだ。


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