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初めての恋  作者: 神寺雅文
第二章--友達
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友達06

「いえ~い、雅君最高!」


 ノリノリであった。控えめに腕をあげ「のってるぜ~」って言っている。


「マジか。マジなのか? こっち系もイケる口なの春香ちゃんは?」


 呆れているともとれる拓哉をそっちのけで僕の雄たけびに共鳴する春香さん。


「ジーザス!」――、これ春香さんのです。


 間違いない。彼女は最高の女の子である。僕のこの叫びを聞いて受け入れてくれるなんて、奈緒以外初めてだった。中学の卒業式の後、みんなで集まった時なんて、女子から大ヒンシュクを買いぼろくそ言われた記憶はまだ生々しく心の隅に残っているからこそ、深層の令嬢と評される春香さんが髪の毛を揺らし、肩を揺らし、腕を振り上げ一緒に叫んでくれるのがとても嬉しかった。


「あ、ありがとう……」

「すご~い! 雅君もrock ‘n’ rollなんだね! カッコ良かったよ」

「くは……」


 歌い終わりマイクを置くと、春香さんが大絶賛してくれた。長いまつ毛がキュートな瞳を輝かせ男子が喜ぶ褒め言葉を僕にプレゼントしてくれたのだ。もう、この際死んでもよかった。なぜ、春香さんがここまでノリノリなのか聞くことも忘れるほど、僕は嬉しくて心地よい心臓の鼓動に酔いしれてしまった。


「なるほどね~。春香も知らないところでいろんな経験してるんだね」

「そんなことないけど、私も一人じゃなかったから彼のお陰で」


 拓哉が次の曲を探す合間、二人は肩を寄せ合い耳元でささやき合う。


「そっかそうだよね。そのうち会えるかなその子にも?」

「……、どうだろ? 分からない。避けられてるから……私はまたお話ししたいのに」

「そうなの? ん~、せっかくまた一緒のクラスになれたんだから、――ころの様にまた――人で遊べたらいいのになぁ。もちろん、その子も一緒にさ」

「……うん、だから今日私本当に楽しい。また――」


 次の曲が流れ二人の会話はそこで終わってしまった。

 僕には二人が何を話しているのかさっぱり理解できなかった。理解できたのは、春香さんにはもう一度会いたい人がいる事だけであり、僕には真意も意図もわからない二人だけの会話である。これが何を意味していたのかは、この時の僕にはまだ知る由もない。

でも、このまま僕が春香さんを思い続ければ、身をもってその意味を知り苦悩することになるのであった。


「拓哉歌いま~す」

「いえ~い! さすが拓哉くんナイスチョイス!」


 春香さんに褒められて浮かれた僕は、拓哉が歌ういま渋谷のギャルの間で大人気と歌われる女性ダンスグループの曲をぼーっと聞いていた。奈緒と春香さんは二人とも本当に楽しそうに拓哉の歌声にタンバリンやマラカスで味付けをしている。その二人の表情を見比べて僕は思った。

 なんだろう。懐かしい気がする。薄暗い部屋で青白い光で照らされる幼馴染の奈緒の横顔と出会って間もない春香さんの横顔が並ぶこの光景。どこか懐かしい気がしてならない。

 そう思った矢先、僕は目まいと頭痛に襲われその場で頭を抱えてしまった。

 どうしてそう思ったのか理解できないし、体の異常も原因不明である。楽しそうにキャッキャと笑い合う彼女たちを見ていると、涙が出てきそうだ。

 結局、僕はそのあと一回も歌うことはなかった。歌える状態ではないのを隠し「声の出し過ぎで喉が痛い」と言い傍観者へと転身しずっと二人を観察していたのだ。カラオケボックスを後にしてからゲームセンタ―でプリクラを撮っている最中も、どうして二人から目を離せなくなってしまったのか考えたけど答えはでず、今は拓哉に肩をつかまれ耳元で男らしい企みを囁かれているところだ。


「俺が奈緒ちゃんを送るから、雅は春香ちゃんを家まで送るんだ」

「え、いや、僕の家奈緒の隣だぜ?」

「言いたいことは分かるよな雅? お前も春香ちゃんと帰った方がいいだろ?」


 首に巻きつく拓哉の腕に必要以上の力が入り、ゲームセンターの入口で出来立てホヤホヤのプリクラを見てまさしく女子高生らいく笑顔を咲かせている女子二人を見る。

 なるほどなるほど。拓哉は奈緒を狙っているわけで、僕は春香さんともっと仲良くなりたいわけだ。拓哉の言っていることは至極まっとうであった。


「その話し乗った!」

「よし、じゃあ作戦開始だ!」


 肩を組み合ったまま不敵に笑い合った僕らは、各々目当ての女の子の前に歩みを進めて立ち止まる。


「あの、春香さん、うちまで送るよ」

「奈緒ちゃん! ぜひ家まで送らせてくれない?」

 

 なんとも見え透いた誘いであろうか。ほら見ろ、二人が顔を見合わせて小首をかしぐ。


「みやび、あんたのうちは私の隣でしょ? 何を言ってるのよ? 無駄過ぎないその帰り方?」

「あれ、拓哉くん家は私ん家の方だって言ってたよね? 二人とも逆だよね?」


 ガッテーム! 分かってはいたがそうなのである。気が付かない二人ではない。彼女たちが言うように、僕と拓哉が声をかけるべき女の子は逆である。だから、僕らの好意を知らない二人は至極真っ当で合理的な意見を言う。


「ち、違う! 学校に忘れ物したんだよ! だから、そのついでに春香さんを送ろうと思って」

「なら、私も一緒に行くわよ」

「待って待って奈緒ちゃん! 俺は俺で奈緒ちゃん家の方に用事があるんだよ。それを雅に言ったら、雅は雅で学校に忘れもあるって話になってさ」

「ふ~ん、忘れ物のね~」


 見るからに僕を怪しむ奈緒。そりゃ、さっきまで少し離れたところで内緒話していた男二人が突然意味不明なことを言ったら怪しむだろうな。


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