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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束71

「どんな些細なセリフでも一切の妥協がない、どころか句読点の付け方から感嘆符まで、どれをとってもまるで生きてるかのよう。あたしなんかと違って、感情表現のレパートリーが豊富。ため息だけのシーンでも、喜怒哀楽を表現出来るなんて天才だよほんと。憧れちゃう」


 いくらお人好しで誰とでもすぐに仲良くなれる奈緒でも、ここまで短期間で人を褒めちぎる事はいまだかつてない。しかも、相手は男だ。前代未聞と言っても良い。前のめりになりながら興奮気味に木村竜人を賞賛するその姿に、僕は言いようもない感情を抱いてしまっている。


「端的に言うと、かっこいい! 惚れちゃう! あんなのずるいよ! ね、優香ちゃん?」


「え、は、はい!」


「やっぱり優香ちゃんもそう思うよね!」


 反射的に返事してしまった感が否めない優香さんのその返答にご満悦になる奈緒。尊敬がLOVEに変わったとでも言いたげな一連の言動に、この場にいる僕、拓哉、優香さんは少しだけ言葉を失った。


 僕はこの胸の奥に湧き上がるなんとも言えない感情にそれどころではないってのが一番の原因だ。奈緒がここまで男のことを評価するなんて変だ。いくら自分も演劇の道を進みだしたとは言え、相手は自分よりはるか高みにいる雲の上の人間。ファンの言動としてはいささが行き過ぎていると思う。


「ほんとさ、みやびもあれくらい素敵な言動出来たらよかったのにね! 今後の為にも!」


 ああ、なんかイライラする。理由が分からないが今の発言はすげームカつく。なぜ、ここまでイライラするんだろうか。頭を掻き毟りたい衝動が半端ない。


「おい、どうした?」


 それは無意識な行動であった。


 何気なしに頬杖をして奈緒の話を聞いていた僕は、持て余している逆手の指で小刻みにテーブルを連打していた。隣に座る拓哉に声を掛けられるまで指先が痛いことにも気がついていなかったのだから、相当にイライラしていたのだろう。


「あ、優香ちゃん! おばさんがモツ煮の仕込み見せてくれるって! いこ!」


「え、ぜひそれは見てみたいです――」


 一方的に話をしていた奈緒のスマホが鳴ると二人は足早に一階へと降りていった。


「で、どうした? 珍しくイライラしてたみたいだけど?」


「わかんない。奈緒があいつの話をするとすげームカつく。普段、あそこまで男を褒めることないのに、なんだよ、くそ!」


 女子がいなくなったことで大びろげに苛立ちを表に出す。乱暴にレモンティーの入ったカップをテーブルに戻し、唇を尖らせる。典型的な拗ねてますってポーズだ。

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