告白の先に見えたあの日の約束63
「ははは、やっぱり奈緒と一緒にいると落ち着く。もう帰り?」
「何よ気持ち悪いわね……? そう、帰る途中で腑抜けた背中が見えたから脅かそうと思ったの」
「そっか」
我が子から戯れ合いを熱烈に求められても、最早そんな年齢ではない親猫が「はいはい」って片手間でするような素っ気ない態度を僕がするものだから、奈緒も興ざめしたのかコブラツイストからの次なるコンボへと技を繋げることはなかった。
どうしても会話が広がらない理由は精神的な問題だった。
奈緒となら他愛もない会話を一時間も二時間もすることは造作もない。過去の思い出話、時事ネタ、将来の話、日常的な他愛もない雑談なんて昼寝をするくらい簡単だ。
だけど、どうしても言葉が続かないんだ。
「で、今日はね、お友達を連れてきました〜」
僕の口から気の利いた言葉が出てこないもんだから、奈緒がわざとらしく手を叩いてそんなことを言い出した。
「はい、じゃあご友人の登場です」
と、結婚式の余興でも始めるかのような口調で背後を振り返り、事の成り行きを傍観していた馴染みのあるカップルを話しの輪に加えた。
「相変わらずお二人のスキンシップは激しいですね? 教頭先生に見つかったら不純異性交友だって叱られそう」
「俺らも見習う?」
「ばか言わないのたっくん」
幸せオーラ全開の二人。もちろん二人とは拓哉&優香さんコンビである。
「どうしたの二人とも? 帰る方向全然違わない?」
「違わないさ、お前んちに遊びにいくんだし」
「え? 聞いてないぞそんなの?」
「言ってないもの。おばさんには許可もらってあるから問題なし。今日の晩御飯はビーフストロガノフらしいわよ?」
びーふすとろふがのふ? なんだその人を殺しそうな料理名は? てか、え、何? 本人を差し置いてその両親から先に訪問する許可をもらう方が優先事項としては大事なの?
「どうせ駄目って言わないでしょ?」
「もちろん」
即答だ。こんなところで立ち話してても体が冷えるだけ。それ以上は何も言わず三人を菅野家へと招き入れることにした。




