告白の先に見えたあの日の約束61
「それじゃ、今日もお疲れ様でした〜。明日も天気悪いし二人共またよろしくね!」
熱唱し過ぎたからなのか。伊藤先生の声は掠れてしまっている。
それでも帰り支度を済ませた僕らを見送る先生は明日もみんなと大合奏したいらしい。さっき朋希に自分の好きな曲を次は弾いてほしいとお願いしていたのを目撃したばかりだ。
「あ〜、なんか疲れたって言うよりはやりきった達成感あるね」
「そうだな〜、流石に一日中演奏してくれってせがまれるとは思わなかったぜ。喉大丈夫か? しっかりケアしないと駄目だからな?」
いくら僕が気持ちを切り替えしたと言っても、大攻勢に出た朋希の勢いを削ぐことを出来るはずもなかった。
向こうは三十人近くのファンを味方に付けているんだ。僕がいくら「手遊びをしよう」や「雨止んできたんじゃないですか? 気分転換に外でも出ませんか?」って言っても取り付く島もない。適当な相槌で片付けられてしまった。
結局、今日は一日中春香の隣には朋希が当然の様に居た。
それを周囲の人間も認めているような雰囲気――と言うよりは、春香の美声には朋希が必要。朋希の妙技には春香が必要って方程式が人間の生活に酸素が必要なのと同等な扱いを受けて成立していた。
「――そうだね! みやちゃんも一緒にどうかな?」
「え、何が?」
今日一日の出来事を振り返り意気消沈していたせいで、春香と朋希が何を話していて春香が何をするから僕を誘って来たのか、話の内容を全く聞いていなかったから検討もつかない。
「なんだよ? 人の話聞いてなかったのか? 興味ないからって聞き流すことはないだろ。春香、音楽に興味ないこんなやつ誘っても意味ないから早く二人であの喫茶店行って練習しようぜ?」
「でも、せっかくみやちゃんもいるんだし……」
上の空だった僕がいけないのだ。元から僕を誘うことに抵抗がある朋希が至極真っ当な意見で春香の腕を掴み駅前方面へと歩き出そうとする。




