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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束31

「あんた、菜穂子(なほこ)ちゃんが保育士だったこと覚えてないの? 奈緒ちゃんも昔からなりたいって言ってたわ。むしろ、役者志望って方が驚きよ。あ、そうかあんた覚えてないんだっけ? 小さい頃のこと」

「そうだっけ? ああそういえば昔奈緒からちょろっと聞いたことあるかも」


 菜穂子さんとは奈緒のお母さんのことである。奈緒と同じで活発でエキサイティングな人だから元保育士だってことを失念していた。菜穂子さんもうちの母さんと同じで今は退職して専業主婦をしている。あれ、そういえばうちの母さんも――。


「母さん、過去の話しは好きじゃなくてね。辛気臭いこともたくさんなるしね。菜穂子ちゃんとは短大が一緒でねそこからの付き合いよ。初めての保育園もあそこだったは」

「僕らが通っていた桜ノ宮第一保育園でしょ」

「そう」


 母さんはそう短く返事をするとダイニングキッチンへと戻り冷めた味噌汁を温め直しにかかる。


「いつ辞めたんだっけ?」

「あんたが小学三年生に上がる前だったかな。詳しいことは忘れた」

「その頃も第一だったの?」

「三人とも一緒よ」


 ん? 三人とも? 


「あ、何でもないわ。言い間違いよ、料理中に話しかけないでっていつも言ってるでしょ。包丁使ってるんだからケガするでしょ」


 そうは言っても今は鍋に火をかけてるだけじゃないか。普段冷静沈着で簡単なことでは動揺しない母さんだが、今は身振り手振りが大げさでなんだか怪しい。自分の母親だからだろうか、母さんが嘘をついているんじゃないかと思えてならない。


「それより、今日奈緒ちゃんが第一から出てくるの見たわよ?」

「奈緒が? どうして体験学習一緒じゃない奈緒が第一から? まだ、一緒に行く春香ならあり得るけど――」

「アッチ! ミズミズ!」


 今日は“らしく”ない母さんがまたいつも以上にらしくない行動をしている。自分で熱した鍋の蓋を掴むのに失敗したのか、はたまた温めているのを忘れていたのか。高熱の鍋を素手で触ってしまったようで蛇口から豪快に水を出して右手を冷やしている。


「なんだよ、今日の母さん変じゃないか? やっぱりなんか隠してるだろ?」

「別に、何も隠し事なんてしてないわ。弘法にも筆の誤り、猿も木から落ちるよ。さあ、ご飯出来たから食べましょう」


 僕の目を見ず斜め四十五度を見つめ苦しい言い訳をする母さん。何かの本で読んだが対話相手を見ないのと、鼻先を触る人も嘘をついている可能性が高いと書いてあった気がする。今、母さんはどちらも時間を置かずに行った。だから、何か隠していることは確かだと思う。


 でも、この人は父さんを尻に敷く我が家の閻魔大王様兼大蔵大臣。かかあ天下を地で行く気の強い女性だ。貧弱な息子の追及なんて許すわけもなく。適当に受け流されて話題を学業へとシフトされてしまい、大人しく黙って食卓に着くしかなかったのであった。


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