告白の先に見えたあの日の約束30
そうやって何度目かの秘密の特訓を終えたあくる日の夜、母さんが怪訝な表情全開で玄関先で僕の帰りを待っていた。
開口一番で罵るあたり、どうも虫の居所が悪い様だ。
「あんた毎日毎日こんな遅い時間までどこでなにしてんのよ? バイトもしてないくせに良いご身分だこと。何のためにお小遣いあげてると思ってんの? バイトする時間を勉強に当てさせるためでしょ? 甘ったるい臭いさせながら遊んで無断な時間過ごすなら自分でバイトしてその遊ぶ金稼ぎなさい。おっと、その分勉強する時間を少なくするなんて母さん許さないから」
こちとらまだ靴も脱いでいないと言うのに長々と説教を垂れる。その分だけ僕の帰りを待っていたと言えなくもないが、こっちにだって都合があるのだ。一方的な説法はご免被るってもんよ。
そもそもだ。遅い時間と言ってもまだ八時前だ。それ以前に門限なんて言い渡されてないし、別にゲームセンターやカラオケに行って寄り道をしていたわけじゃない。この匂いは春香ん家の高い芳香剤の匂いであり、如何わしい香料じゃない。頭ごなしに説法を叩きつけられる謂れはないので体験学習の事をそのままの勢いで説明してやった。
「はあ? あんたが保育士? 子供好きって初めて知ったけど?」
「別に子供が頗る好きって訳じゃないけど、別段やりたいこともまだないしいいだろ別に。僕の進路は僕が決めることだ、母さんにとやかく言われる筋合いはない」
「なにを偉そうに彼女もいない愚息の分際で。どうせ、奈緒ちゃんが行くから一緒に行くだけでしょ? あの子がいれば大抵のことは楽しいだろうし、面倒なことも率先してやってくれるから、あんたは楽なことをすればいいだけだもんね」
エプロン姿のままお玉を手に、仁王立ちする母に対して、僕も負けずに上から見下ろす形を取る。けど、内心は図星を突かれた感が否めず、果敢にも反論した言葉の頭が呂律の回らない不明瞭な発言になってしまった。
「じゃあ、残念でした! 今回は奈緒とは別で~す! 奈緒は演劇に興味があるみたいで今回は別行動で~す」
「ふん、どうせ別の女の子が行くからでしょ? あんたが自分から行動する時は女の子がらみだってお母さん知ってるんだから。でも、そう、奈緒ちゃん……諦めたちゃったのか保育士」
こっちは必死に虚勢を張っていると言うのに、聞き出したいことを聞けたのか母さんは簡単に踵を返すと気になることをぼそりと囁いてさっさと歩き出す。
「いまなんて言った? 奈緒が保育士やりたいって言ってた?」
母さんが零した些細な独り言を丁寧に床から拾い上げて、急いでリビングへと消えていった母さんの後を追う。




