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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束29

「僕誰かと何を約束したの?」

「それを思い出してもらうために、みやちゃんをどうしてもあの保育園に連れて行きたかったんだ。本当は奈緒と一緒の方がもっと簡単に思い出せると思ったんだけど、奈緒はあまり乗り気じゃないみたい」

「僕ら三人の約束ってこと?」

「もちろんそれもある。だけど、もっと大事な約束をみやちゃんは忘れちゃってる。私はどうしてもそれを思い出してほしいんだ。だから、こうしてみやちゃんに幼馴染であることを明かしたの」


 本当は私たち幼馴染なの。その言葉の裏にはそんな意味が隠れていたのか。そこまでして思い出させたい約束とは何なのか。どうして僕はそんな大切な約束を忘れてしまって今まで生きてきたのか。


 いろいろ聞いて頭が重くなってきた。無意識に額を抑えていた様で、春香が心配そうに顔を覗き込んできた。


「頭痛いの? あんまり深く考えちゃダメだよ。きっかけがあれば私のことと同じようにすぐに思い出すよ」

「なんでか分からないけど、春香のことや保育園のころの事を思い出そうとすると頭が痛くなるんだ。無意識に思い出している時はそうでもないけど、春香の事を思い出してからは時たま頭痛がするんだ」

「急にたくさんのことを思い出すから頭が疲れちゃってるんだよきっと。今日はもう遅いし時間が経てばまたいろいろ思い出すよ」


 そう言い春香は僕を玄関へと誘う。時刻は七時を回った。それでも、春香の家には両親はどちらもいない。小鳥遊家と同じく三人家族である菅野家では、母が専業主婦で家を空けることがほとんどないため、時計の秒針や家が軋む音が虚しく響く寂しい雰囲気はない。どこかその雰囲気に胸騒ぎを覚えたが、僕が帰ることで独りになる春香自身は別段気にもしていないようだ。


「雨は降らないって予報ではなってるけど、まだまだ夜は寒いから早く帰ってよく休んでね。寄り道はバツだよ」


 顔の前で両手の人差し指をクロスさせ微笑む。この笑顔を見たら家で寝るより疲れが癒えるってもんよ。これなら帰らないでずっと春香の顔を見ている方が元気百倍、明日を生きる活力を得るってもんだ。


「じゃあ、春香も戸締りしっかりしてお留守番するんだよ」

「も~子供扱いしないでよ。私ももう立派な女子高生だもん」


 だからこそ気をつけてほしい。その豊満な胸と端正な顔立ち、そして世の男から絶大な人気を誇る“女子高生”という名の絶対的なブランド。僕が空き巣でたまたま春香と出くわしたら間違いなく金品なんて下劣な物より、春香のその心と体を奪いにいくことだろう。


「春香、本当に変わったね。知らない間に成長してたんだ」

「急にどうしたの?」

「うんん、何でもないよ。昔の春香ならそんな小悪魔的な表情しないで絵本の陰に隠れてたと思うから」

「小悪魔的って、それ褒めてるの?」


 唇を尖らせ腕を組む春香。もちろん褒めているんだとも。こちとら春香のそんな仕草に心臓が爆発しそうなんだよ。このまま君を抱きしめてその尖らせた唇を奪いたい。


「そんな春香も良いと思う。じゃあ、また明日ね」

「なんかみやちゃんのもパワーアップしたよねその恥ずかしげもなく素直に人を褒めるところ。いつか女たらしって肩書が付かないと良いけど」


 そんな冗談を言い合いながら僕らは別れを告げた。奈緒とのことも気になるけど、順調に春香との関係を発展させられて満足だ。このまま職業体験なんて来なければずっと春香と二人っきりで過ごせるのにな。


 そんな叶う事のない思惑を抱きつつ、薄雲に光をさえぎられる三日月を帰路の目印に、僕は母が待つ騒がしい自宅へと帰るのであった。

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