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初めての恋  作者: 神寺雅文
第五章--告白の先に見えたあの日の約束
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告白の先に見えたあの日の約束23

 奈緒&春香解散問題がにわかに学園で囁かれる様になってから早二週間。六月も中頃、僕は今日も春香と中庭でお弁当を食べていた。梅雨の中休み、良く晴れた六月の空を眺め、吹き抜ける風は心地よい。


「なんだか眠くなってきちゃうね? はるか――」


 今日の弁当な春香特製デミグラスハンバーグと春野菜のサラダであった。十分もしないで完食してしまい、今は眠気に襲われあくびをしながら春香の様子を伺おうとしているところで、春香側に面する肩から肘へとかかる二の腕部分に程よい重みを感じた。


「すうすう……」


 ドキドキしながら横目で春香を見たら天使の寝顔を披露しているではないか。まだ食べかけのハンバーグとご飯が春香に食べてもらいたそうにしているのに、当の春香は健やかな寝顔で麗らかな陽ざしに寝かしつけられてしまった様だ。


 よく電車で美少女女子高生が隣の席の中年男性の方にもたれ掛かり、そのもたれ掛かられた方のおじさんがとてもうれしそうにしているのを目撃したことがある分、今僕も絶対にニヤニヤとしているだろう。


 いや、絶対にしている。春香からほのかに香ってくるシャンプーの香りが鼻孔を優しくなでる度、僕の伝家の宝刀――とは名ばかりの新品未使用の男子高校生の分身が暴れ出しそうだ。


「可愛い……、ホントなんでこんなに可愛いんだろ」


 思わず口に出てしまった本音。小鳥の囀りしか聞こえない閑静な中庭で、僕は思わずそう言葉を漏らし、事の重大さに気が付きハッとして息を呑んだ。


「……」


 良かった深い眠りについている様だ。徐々にこちらに掛かっている重みが増してきているのが良い証拠である。体を預けるくらい信頼されているって考えても良いのか、例にもれず疲労が溢れる夕暮れの電車内で繰り広げられる男のただの妄想で終わらせるべきか。


 僕が対象者の女性とまったく接点もなく、年も二十以上離れ、禿ちゃびんで太っていたら潔くこの“ひと時だけ”を堪能するだろう。しかし、僕らは幼馴染で他の級友と比べて段違いで仲が良いはず。変な妄想をしてしまったも仕方ないと情状酌量の余地がある。


 少しくらいは――。


 職権乱用、幼馴染の立場を利用してこのまま、このキスする為に天より授かったとも断言できる、ぷっくりとして唇に吸い付きたい。僕だけしか受け入れられない様にしたい。僕だけが堪能できる関係になりたい。


 女子の寝顔をまじまじと見つめるだけでも失礼だと言うのに、春香の唯一無二の唇を我が物にしようとも企ててしまった。この世に一つしかないからこそ、競争倍率が高いからこそ、どんな手を使ってでも手に入れたい。そう、このままキスしてしまうのもいいのかも知れない――。


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