告白の先に見えたあの日の約束06
春香ことはるちゃんと改めて再会した日の明朝、当然の様にあの夢が誰も頼んでないのに上映された。でも、違うことがあるのは一番右の女の子――はるちゃんが泣き止んだことだった。
たしか、前に残りの二人が消えて春香だけが泣いていたことがあったけど、今回は違う他の二人は泣いたままで春香だけが泣き止み、立ち上がってそのまま前へ歩き出したのだ。
「待ってくれ、はるちゃん! 僕らを置いてどこに行くんだよ!」
自然と声が出ていた。まるで残された二人が菅野雅と佐藤奈緒だと知っているような口ぶりで、どこかに歩いて行ってしまう春香を呼び止めようとした。
そうか、春香言っていたっけ、引っ越したって。これはそのことを示しているのか。
そうなるとこの夢は、泣きじゃくる僕らを春香が“見捨てた”ってことを暗に言いたいのだろうか。何らかの理由で泣いている幼馴染を、春香はそのままにして自分だけどこかに行ってしまう。今まで気が付かなかったけどそんな内容の夢なのだ。
春香がそんなことをするとは到底思えないが、このワンシーンだけ見ると何らかの理由で一人だけ泣き止み、清々しい顔色で未来に向け歩み出したと勘ぐってしまう。
三人で泣いていたのに、一人だけ未来に歩き出した。そう思えてしまい、僕はなんだかとてつもなく嫌なものを感じた。春香にではなく、泣いている自分自身に、何があったのか胸騒ぎを感じずにはいられない。
春香が自分が泣いていた問題を解決したのなら、別に問題ない。何らかの事情で引っ越してしまったんだし、こんな形で僕らが取り残されるのも大人の事情ってやつで無理もない。なんせ、春香の父は世界を股に掛ける大企業の社員だ、転勤や出張もざらだったに違いないのだ。
じゃあ、ここからは僕らがなぜ泣いているかが問題である。春香が泣き止んだのだ、僕らもきっと泣き止むことが出来るはず。必ず未来へ歩みだせるに違いないのだ。本来なら。
はるちゃんがポッかりと空いた光の輪の中に消えていくと同時に、僕の視界も徐々に白みどうやら目覚めの時間の様だ。遠くから誰かの僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
生憎だが、今日は日曜日だ。早起きする理由はない。だから、布団を引っぺがそうとする細い腕を引っ掴み強引に自分の元へと引き込んだ。
どうも、まだ寝ぼけているらしい。普通ならこんなことはしない。愚息をわざわざ起こしに来た実の母親相手に、どうしてベッドプレイを強要しないといけないんだ。
これは寝ぼけているからに違いない。そうだ、妙に艶のある髪質、アラフォー間近のくせにモチモチ滑々の頬も、寝ぼけているからそう思えるに違いないんだ。少し、奈緒っぽい臭いがするのも昨日一日中一緒にいたからだろう。
「――び! ちょ――どこさわっ――そこはだめ――」
ムニュムニュっと二つの膨らみを鷲掴み。我が母にしては妙に弾力がある。父方の祖母が遊びに来た時に偶然見てしまった垂れさがるあれとは違い、まるでぴちぴちの女子高生の質感だ。いや、本当は知らないけど女子高生の質感とか。だって年齢=かのじょ――。
「いい加減にしなさい! 変態みやび!」
炸裂音と怒号の後に猛烈な痛みが股間を襲う。
「……つ……お……」
言葉にならない。お目覚め一番に受ける股間の痛みはこれまた別格だ。言葉どころか息すらできなくなってしまい失神寸前だ。
「え、ちょっとみやび、大丈夫! ねええ!」
朦朧とする意識がそうさせた。ってここは言い訳する。
「……す……き……して」
「え? なに? なんて言ったの?」
激痛で半目となり呂律が回らない状態である僕が、何かを呟いたことに気が付いた様だ。金的をかましてきた相手が僕の口元に耳を近づけてきた。
「キスしてくれたら大丈夫」
「わ、分かったわ! キスすればいいのね!」
ズル。なぜか知らんが下半身が寒くなる。
多分だけど、ズボンを脱がされた。いや、間違いなくいま僕はパンツ一枚で女の子――、奈緒の前に寝ころんでいる。
さすがに金的を食らっては寝ぼけてもいられず、自分が抱き寄せた相手が奈緒だと気が付き焦るよりも、僕と春香の関係を黙っていた仕返しをしたくなりこんなことになっている。
「ちょっと! さすがにそれ以上はらめえええええええ」
「え、な、なななななな! あんたしっかり起きてるじゃない!」
「当たり前だろ! どこのバカが大事なところにキスされて起きるんだよ! いや、たしかにお陰で起きたけど――」
僕も愚息も奈緒にご挨拶。
早朝からの珍客に寝ぼけた僕。生理現象ってやつのせいでテントを張るパンツ君。僕の視線を追って再度モーニングマウンテン状態のパンツを見て固まる奈緒。三者三様の理由で固まる僕ら。当然だけど最初に動いたのは奈緒でありその瞬間大絶叫することになったのは僕である。




