告白の先に見えたあの日の約束05
「じゃあ、今日はこれで帰るわ。さすがに疲れた」
「久しぶりに張り切りすぎたな~」
「家帰って寝るだけか」
「スパイク手入れしないと」
あれだけ険悪だった四人と最後は拳をぶつけ合って別れを告げる拓哉の横顔は、とても清々しくいつにもまして輝いている。出会って一カ月、今まで見るどの表情よりも一段と明るい。これが心の闇を晴らした人間のする顔なんだと思ってしまう。
「ちなみに、雅にも内緒だぜ? お楽しみは取っておかないと」
「なんだよ、同じクラスなのにそれはないだろ」
四人が完全に玄関を出ると拓哉が振り向きざま、そういいまたリビングへと戻り出す。
「それより、春香ちゃんとの距離、明らかに縮まったな? 良かったじゃんか」
「正直、まだ現実味がないけど、なんだろ、この心にある得体の知れない感情」
「あれじゃね、昔も春香ちゃんの事好きで、それを思い出したから心臓が爆発する手前とか?」
なるほど、これが恋の波動ってやつか。その恋を実らせた拓哉が言うのだから本当なのだろう。
「まあ、明日から楽しみだな。今度は俺が雅を助ける番だ。期待してくれよ? いろいろデートプラン考えるからさ」
「まずは、自分の彼女を大事にしろっての。その次に僕の事も大事にしてくれ」
「彼女? もう一回言ってくれ! 誰が、誰の彼女なんだ?」
え~い鬱陶しい。自分が勝ち組だと言うことを思い出し、言いたくないことを言わせようとしてくる。恋する人間として一番リア充にされて嫌なのは、のろけ話を聞かされることだ。
「いいじゃんか~、雅だってもう彼女いるようなもんだろ?」
何を言うか。春香はただの幼馴染だ。まだ、彼女になったわけじゃない。誰よりも有利な立ち位置にいるのは確かであるが――。僕には一つだけ懸念事項があった。
それは拓哉も同じことだったのか、周囲を気にして小声で言った。
「あれ、もしかしてさ、初恋の子って雅のことじゃね?」
え、そういえば、初めて会ったときそんなことを春香は言っていた。
「こりゃ、もしかしなくてももしかするかもな」
拓哉がそう言うと僕のスマホが鳴り出し、奈緒の怒鳴り声が僕の鼓膜を刺激した。
「一緒に帰るわよ! 春香も待ってるんだから早くしなさい」
いかんいかん、浮かれるのはまだ早い。急いては事を仕損じると言うではない。ここは一旦深呼吸をして、改めて僕らの関係を見つめなおす方がいいだろう。
自分の荷物をまとめて拓哉と優香さんに声を掛けた。
「あれ、優香さんはまだ帰らないの?」
「え? ……、まだ……帰らないですぅ」
うん? あれ、なんだこの空気。もしかして僕、邪魔者ですか? なんでちょっと恥ずかしそうに語尾伸ばすの? あれ、拓哉なんでお前まで照れてるの?
これからある“行為”を行います。って宣言しているような雰囲気が二人からは放出されていて、それを代表して拓哉が遠回しに口にした。
「まあ、なんていうか、俺達もほら、若いし、ずっとお互いのこと好きだったし、やりたいことあるんだよ、たくさん」
「あ、そ、そうか、じゃあ、帰るよ」
内心心臓が爆発しそうなのに、友人の前だからと平静を装うとするから変に句読点が付く話し方になるんだ。落ち着て言葉を発すればいいだろ。
そう、二人でイチャイチャしたいから、さっさと帰れって言えばいいんだ。
「あ、そういえば、千鶴姉からのプレゼントってなんだった?」
ボン。音がしてもいいくらい、優香さんの顔が赤くなった。それを見て、拓哉が抑えきれなくなったのだろう。足早に近づいてきて何やらギザギザした四角い掌サイズのモノを僕に握らせた。
「分かるよな。思春期の男ならこれなんだか? そういう事だ、さらば友よ。俺は先に大人になるぜ!」
そこまで聞いて僕は全力で玄関まで走ったね。悔しくて悔しくて走ったさ。追い越すべき相手は背後で幸せムード全開で「じゃあ、部屋いくか」って言って逆方向へと歩いていく。対照的な僕らの状況、これがリア充とそうでない者の越えられない現実か。
ああ、もう、なんて日だ今日は! こんなもん渡されても使い道ないっての。鞄に放り投げて脱兎のごとく勢いで、二人の愛の巣から離脱だ。
こうして僕のサッカー部マネージャーとしての生活は幕を閉じ、新しく僕の幼馴染が増えた一日となった。この先、どうなるかなんてわからないけど、遅れて玄関を飛び出し、頬を膨らませる幼馴染と肩の荷が下りた様にどこかホッとしているもう一人の幼馴染を見て何か、目には見えない何かが大きく動き出したことを感じたのであった。




