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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去71

「ありがとう……ありがとう……」

「優香ちゃん、お互いバカな男が幼馴染だと大変だけど、これからもよろしくね」

「は、はい」


 声だけでも拓哉が泣いているのは分かるしここからは確認できないが瞼を擦っているってことは優香さんも泣いているのだろう。お似合いのカップルってのは二人にふさわしい言葉だ。奈緒の男勝りな対応と言動に会場から惜しみなく拍手が沸き起こる。


 これで全てが丸く収まる。ホッと胸を撫でおろすと、スクリーンに何かが写った。


「じゃあ、最後に改めて俺の親友! これからもよろしく頼むぜ!」

「え、こっちだってよろしく! って、何だこの映像は!」


 どさくさ紛れもいいところ。拓哉の言葉に気を取られて気が付くのが遅れたが、スクリーンに僕が初めて真田家を訪れた日の映像が監視カメラ視点で映されていた。


「うちの盗撮魔が良いのを撮ってくれてね。いろいろ、俺の為に評価を落としてしまった雅の友達思いの姿を、ぜひ、春香ちゃんにも見てほしくてね」

「え、私ですか?」


 そこでピンポイント爆撃するんじゃない。こんなのやらせに等しいではないか。友達の為に土下座までする俺って友情に熱い男でしょ? って暗に言ってる様なもんだ。こら、勝手にどんどん進めるんじゃないぞ!


 と、一人でうろたえていたが、思いのほか奈緒も春香も大人しくそれを鑑賞して、奈緒なんかはなぜか誇らしげにして「みやびならこのくらい友達の為にできる子だから!」って近場の女子マネージャー達に言いふらして回っている。


 こちとら、一世一代のボケである「ゆきだるまつくろ~~~~」を大勢の人間に生歌付きで見られて穴があったら入りたい状態だ。こんなの柄じゃないっての。


「みやび、あんたもやる時はやる男ね。そうでなくちゃねみやびは!」


 律儀に各席を回ってきた奈緒が最後に僕の肩を両手で叩いて満足げに胸を張った。


「う、勘弁してくれよ……」


 奈緒にだって見られたことの無い渾身のボケだぞ。奈緒に絶賛されても今回ばかりは嬉しくない。椅子の背もたれに力なく寄りかかって現実逃避だ。


「ねえ、雅君? いいかな?」


 そんな精神状態の僕の手を握ったのは隣の席の春香であった。


「え、ええ、どうしたの?」


 不意打ち過ぎて心臓が口から飛び出しそうだ。


「こっち……」


 おもむろに立ち上がった春香にそのまま手を引かれて高砂席の前へ。


 羞恥プレイにもほどがある映像がエンドロールに差し掛かる頃、ようやく一件落着と思いきや、今度は春香が思いつめたような表情をするもんだから、奈緒も黙ってしまうしいろいろやり遂げて緊張の糸が途切れた拓哉の顔からも笑みが一瞬にして消えた。


 この春香の行動の理由、どうやら誰も知らない様だ。僕の心がにわかに騒ぎ出すのを感じた。


「私も言いたいことがあるの」


 奈緒と拓哉以外は春香の変化に気が付いていない。またお祭り騒ぎが始まっている。


 おお、なんだこの空気は。会場の祝福モードに感化された女の子がここにもいたのか。


 周りの歓声にかき消されそうな弱弱しい声を出す春香の目は、なんだかいつもと違う。自信がないというか、なんかに怯えているようなそんな目をして僕を見上げている。奈緒もなんだかソワソワしていて落ち着きがない。


 あ! そういえば、春香にも話があると言われていたんだ。まさか、このタイミングでされるとは思わなかった。え、でも、この感じってもしかして? あれ、マジで? これってももしかしても、もしかしなくても、こ、ここここここここここ、告白! そうに違いない! よおおおし、バッチコーイ!


「……」


 深く、どこまでも深い深呼吸をする春香。チラっと僕の背後を見たのは、今まさに幸せの絶頂の二人から勇気をもらうためか? おおいいぞ、どんとこい! 僕の返事は決まっているぞ! 喜ん春香の彼氏になって――。


「”みやちゃん“! 私、“はるちゃん”だよ! 私たちね、本当は“幼馴染”なの!」


 え、なんだって? 僕と春香が幼馴染? え、僕がみやちゃんで君ははるちゃん? いやいや、待ってくれよ我が初恋の子よ。そんなカミングアウト誰が信じるっていんだよ。


「あ、あの、えっとはるか――」  


 え、あれ? おかしいな、怯えるような顔をする春香を元気づけないといけないのに、言葉が出ない。それどころか、視界が霞む。これはやばいやつだって悟のと同時に僕は地面とキスをすることになった。


 世界が暗くなった。いや、正確に言うと、僕は気絶してしまったのであった――。


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