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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去66

 まさに鬼神の如く活躍。寺嶋を葬ったと勘違いした道明学園がさらなる猛攻を拓哉に仕掛けたが、あえて拓哉を攻撃の軸から外しこれから残されるレギュラー陣が己の力だけでピッチを前進する。

 

 拓哉も寺嶋もいないピッチ内、数週間前までなら泣き言を漏らし満足な試合運びも出来なかったチームが、今は拓哉を守るために死力を尽くしてピッチを駆けまわっている。


 その中から、キャプテンが吐出してボールをキープして敵陣に切り込む。敵の目標が拓哉と分かり、ガラ空きとなったサイドを持ち前の高速ドリブルで駆け上がりゴール前でもう一人のフォワードにキラーパス。トラップなしでそのまま半身の態勢でシュートが放たれゴールネットが揺れた。


 5対0。伝統の一戦もこれにて勝負あり。


 残り五分でダメ出しの追加点。もはや伝統の一戦もここまでくると弱い者いじめである。観客からの歓声にも興ざめ感が否めなくなってきた。どうも、道明学園の選手からも覇気が無くなってきた様に見えた。闘志、集中力を悉く欠いたのである。あらぬ方向に蹴られたボールがピッチの外へと転がっていく。こちらのスローイングに代わる。


 主審が腕時計を確認した。これが最後のプレイになる。アッキーから山なりの弾道でボールが投げられ、その着地地点はもちろん拓哉だ。胸でトラップしてそのまま接近してきた敵選手の頭上にボールを通し追い抜く。ここからは拓哉を狙うラフプレイが三段階で待ち構えている。


 既存のディフェンスをフェイントで簡単に置き去りにして、小手調べに一人目の刺客と一体一で対峙。本来は三軍の選手、経験した場数が違い過ぎた。後方からのスライディングだけしか的確に拓哉を攻撃するすべを持っていないのだ。何もできないまま股抜きをされ、力なく芝に膝を折る。この後、彼にどんな仕打ちがまっているのだろうか。蚊帳の外である、ベンチにいる僕はそれが心配でならなかった。


 残りの二人がダメ元で後方からスライディンをするが当然交わされ、これで道明学園の策はなくなる。最後は拓哉の独擅場だ。軽やかなドリブル、切れのいいフェイント、どれをとっても拓哉がケガをしているとは思えないほど。ましてや、これが最後になるなんて観客は誰も想像していない。クラブの関係者だってこの試合が終われば、拓哉の元に殺到するに違いないだろう。


 けど、こんなにも大勢のサッカーファンを魅了する拓哉は、今日をもってサッカーを引退するんだ。普通科二年F組の一般生徒に戻って、普遍的な普通科生徒である僕達のムードメーカになってくれるんだ。こちらとしては、どうにかしてあげたい、だって拓哉のいるべき場所はここなのだから……。


 桜ノ宮学園のベンチは静まり返っていた。拓哉の最後の雄姿を網膜に焼き付ける為に呼吸をするのも忘れてしまっている。これで見納め、まだ信じられてない部員だっているに違いない。本当はとどまってもらいたい部員がいるはずなんだ。


 でも、そうも言っていられない。これからは真田拓哉抜きで死闘を勝ち抜ぬかなければイケないんだ。その覚悟だろうか、ベンチの部員も、スタンドの部員も、優香さんを始めとするマネージャー達も全員がただっぴろいピッチの、たった一人の男子高校生を見つめ続けた。


 結局、拓哉一人で最後もゴール前まで駆け上がり、狼狽するディフェンスを抜き去り伝家の宝刀である無回転シュートをもって、往生際の悪い道明学園へ引導を渡した。


 有言実行のハットトリックがここに完成。フォイッスルという名のファンファーレが鳴り響き、観客からはスタンディングオベーションで拍手の雨あられ。伝統の一戦は桜ノ宮学園の圧勝で幕を閉じたのであった――。


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