解き明かされる過去64
「雅君、やつら拓哉君と寺嶋君をここで葬るつもりじゃ」
「そ、それってまさか……?」
「事故を装ってケガをさせるつもりじゃろ。本来なら不名誉なことじゃが、三軍の選手に甘い言葉をかけてかどわかしたのじゃろうの」
そんなこと信じられるか。そんなことを聖職者がしていいのかよ。怒りで手が震えてしまう。
「言ったじゃろ、あいつはそういう男なのじゃ。ほしいものは力ずくでも奪い取る。それが、道明家の家訓じゃってからに、あいつはいつまでたっても二番手どまりなんじゃ」
「止めなくて良いんですか! こっちだって二人を引っ込めれば――」
そこまで言って言葉を飲み込んだ。あの二人が仲間を身代わりに自分を守るわけがない。ベンチの異変に気が付いた拓哉と寺嶋が自身の胸を拳で二度トントンと叩いて見せた。
「任せろってか」
「じゃろうね。ここまで来たら二人に賭けてみよう。拓哉君は優香ちゃんとの約束もあるし例え足がもげても交代せんじゃろし」
恐ろしいことを言わないでいただきたいが、たぶんそうだろうと僕も思った。その意中の優香さんと言えば、どこぞのシスターの様に胸の前で手を組み祈っている。拓哉、勝利の女神がお前には三人も付いているんだぞ? こんなところで負けるんじゃねーぞ!
残り十分。桜ノ宮学園の陣地から始まるスローイング。アッキーの投球から始まり、ノッチ、ハッシーへと繋がる。ここまでの試合を見ていれば次のパスを受ける人間が誰なのか想像がつく。そう、拓哉か寺嶋である。拓哉の代わりにトップ下のポジションに入ったハッシーが最善の相手へとパスを放つ。
寺嶋が三人の繋いだボールを受けて敵陣へと切り込む。ノーマックだったのだ。ディフェンスの全員が拓哉をマークしていたんだ。見るからに罠だと思った。でも、試合に集中する選手がそこまで考えをめぐらすわけもなく、悠々とゴール前まで進む、寺嶋の斜め後方から先ほど交代したばかりの選手が猛烈な勢いで接近してスライディングをした。
昔サッカーゲームをやっていたから知っている。あれは確実にファールだ。それも、明確な悪意を持ち回避不能の殺人プレイ。される側は気が付いていないのだから、避けようもない。寺嶋の膝をもろに狙うスライディングが標的を捉え――。
「てらじまああああああああああああああああああああああ!」
自分でも驚いた。手元にあった監督用のメガホンを握り締め寺嶋の名前を叫んでいた。
一瞬、時が止まった様に思えた。寺嶋の体が不格好な形で宙を舞い地面に叩きつけられる。僕の声は届かなかったのだ。
一旦プレイが中断となる。主審がフォイッスルを鳴らし赤いカードを天に掲げ、ブーイングが起こる。寺嶋を後方から襲った選手が一発退場となり観客がその蛮行に激怒しているのだ。




