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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去63

 寺嶋はあー言ってくれたけど、僕に拓哉の様な人を魅了する個性があるとは到底思えない。好きな女の子にこんな表情をさせる可能性を計算するよりは、天変地異が起きて人類滅亡が訪れる可能性を計算したほうがはるかに有意義である。春香の横顔を盗み見て、あからさまなため息が出てしまう。


「どうしたの雅君?」


「え、いや、なんでもないよ」


 無論、何でもなくない。深刻だ。拓哉はこうして自分の問題に立ち向かい、確実に解決の方へ進展させているのに、僕は初めてのデートから何も進展させていない。しかも、これから春香を魅了することが出来る自信も秘策もない。


 拓哉の雄姿を目の当たりにしてようやく気が付いた劣等感が、僕の心に影を落とした。


 だけど、今はそんなことどうでもいい。拓哉が頑張っているんだ。この声が枯れるまで応援してやるのが友として最優先事項だ。拓哉頑張れ! お前ならできるぞ――。



 前半戦が終わり2対0で後半戦へ。さすがにライバル校だけあって守りが固い。拓哉への対処方もしっかりと考えられていたようで、あれから拓哉の右足が火を噴くことはなかった。向こうの監督が逃げ帰る時に何やら不穏なことを言っていたが、前半戦は我が校の圧勝であった。


「頑張ってね五人とも」

「おう」


 正規マネージャーである優香さんに鼓舞されて、いよいよ寺嶋もピッチに立つ。歓声が沸き起こったのは拓哉と寺嶋が並んでフォワードのポジションに堂々とたる風体で降臨したからだ。我が校の最終兵器。伝家の宝刀が満を持して抜かれた。


 それを見に来たと言っても過言ではない客席から大量のフラッシュが焚かれた。あそこは新聞や雑誌、報道関係者の席だから明日のトップニュースに使われたりするのかも。その後方にある、クラブ関係者席もにわかに活気づいて見える。


 その期待に応えるべく、否、仲間の為に両翼のストライカーが敵陣に切り込み、手始めにハッシーから寺嶋へロングパスが送られた。ケガの具合を確認するためだろう。


 もちろん、寺嶋もそれは分かっている。恵まれた身体能力に負傷した膝がしっかしと反応するか、まずは襲い掛かる三人の選手を相手にデモンストレーションって訳か。


 的確な角度からのスライディングをいとも簡単に交わし、その隙を突いて肉薄してくるもう一人には負けじと体をぶつけて競り合う。パワーとパワーのぶつかり合いだ。


 本来、ボールだけに気を取られていては、肉薄されたらバランスを崩してボールを奪われてしまう。そうならないためにも下半身、上半身にも確実に力を籠め、パワープレイにはパワープレイで対抗して前へ前へと前進する。拓哉とは違う意味でずば抜けた技術力だ。


 拓哉が寺嶋にパワープレイを勧めたのもうなずけるほどの力強いプレイ。自分だけで得点圏内へと猛進して強烈なミドルシュートを放った。それに対しキーパーも横跳びをしていい反応を見せたが、あのボールの威力を身をもって知る僕からしたら、片手の掌だけであれを止めるのは無理である。ゴールネットが今日一の揺れで追加点を告げた。


 拓哉と寺嶋が抱き合って変な踊りをしている。どうせ、昔から同じことをずっと繰り返してきたのだろう。息の合った社交ダンスとでも言うべきか。三バカもその周りで騒いでいる。


 こりゃ強いわけだ、我が校は。道明学園が卑怯な手を使ってでも選手権出場を阻止したいのも頷ける。規格外すぎるのだ、あの二人は。このままいけば桜ノ宮学園の勝利は明確だ。


 だが、僕は一抹の不安を抱いた。道明学園が選手を一気に三人も入れ替えたからだ。


「ふむ、この大事な一戦で、レギュラー陣を三人も外すとは。源三め、何を企んでいるのじゃ」


 今は監督らしくしている校長先生も何かを感じた様で、その表情から余裕の笑みが消えた。それに奈緒や春香、優香さんからも笑みが消えたのは、みなが道明源三の捨て台詞を思い出したからだろう。ピッチを走り回る五人もきっと気が付いているはずだ。


 しかし、だからと言って立ち止まることは出来ない。選手の交換が完了する前に、拓哉が本日二点目を決めて競技場に歓声の嵐が吹き荒れる。ハットトリックまであと一点。


 僕らの不安を他所に、試合は着実に終わりへと向かう。道明学園の策略に校長先生が気が付いたのは、後半も残り十分を迎えた頃だった。


「なんじゃと? あの選手三人は本来だと三軍? まさか、いかんぞこれは」

「どうしたんですか校長先生?」


 田中監督の耳打ちで何かを伝えられた校長先生が柄にもなく素っ頓狂な声を出すもんだからベンチに不穏な空気が流れる。


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