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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去59

「調査が甘かったんじゃないですかね? ね? 校長先生?」

「源三、佐藤熊吉を知っているじゃろ?」

「今より二十年前、齢十五歳で世界の頂点にその拳だけで上り詰めた男の名。わしら武術を嗜むものであれな誰もが知っている男だ。その男の一番弟子がこんな青瓢箪だと誰が信じる? あの硬派で有名な男のましてや一番弟子がこんな軟派な男などありえない」 


 そこまで否定されるとへこむけど、僕自身がそのいい証拠だ。一度も稽古なんてつけてもらったことないし、道場に行ったのだって――。


「疑うのなら、この映像を見たまえ。我が校に師匠自ら弟子を迎えに来る一幕だ。それに、ほれ、言質も取ってきたぞ」


 懐からタブレット端末を取り出した校長先生がいつぞやの下校風景を録画した映像を再生してから、仏頂面の熊吉おじさんが胴着姿のままカメラに向かってお辞儀するところを再生させた。


 防犯カメラか。なるほど、これなら誤魔化せるかもしれない。


「押忍! お久しぶりです。このたびは娘とその幼馴染がご迷惑を掛けたようで」

「昔から何も変わらんの~そんなんじゃから娘ともその幼馴染からも距離を置かれるんじゃぞ」


 どうやらカメラマンは校長先生らしい。撮影場所は道場らしいがいつものおじさんとは少し様子が違うようだ。二人は知り合いなのか?


「まあよい、本題はさっき話した通りじゃ。道明源三を知っておるじゃろ」

「押忍! 師匠の好敵手である方です。そして、常にどの大会でも準優勝と好成績を残す私が二番目に尊敬するお方でもあります!」

「そうそう、その源三に、佐藤熊吉と菅野雅の関係を教えてあげてほしいのじゃ」


 いくばくか緊張しているのだろう。いつもにまして言葉も表情も固い。しかも、そんな人間が言うのだ“常に準優勝しかできない男”と。皮肉すぎる言い回しだ。発言者はそれに気が付いていないようだし言われた方も――。


「なに、あの男がわしを尊敬しているじゃと? こんな男のとこよりわしのところに来ればよかったものを」


 気にしてない様だ。


「我が人生において、初めて弟子となった男の名前が菅野雅。ご存知の通り、我が愛娘の幼馴染であり、我が師匠、木村喜一郎先生が校長を務めます桜ノ宮学園二年F組の生徒です」


 カメラが菅野雅と書かれた木札をパンニングを用いて効果的に映す。


「昨日も来ておるよの?」

「はい。そこで指導員と真剣な顔して何やら“やって”ました」――本当は立ち話していただけ。


 言葉足らずなのだおじさんは。大事なところはボカシて、でも大事なことを聞き出したので映像はそそくさと暗転する。


 確かに道場に行ったし指導員と立ち話をした。見方によっては一番弟子が道場に顔を出して何やら指導員としていたと表現しても何も問題はないのだ。ただ、言葉足らずななのだ。仕方ない、言葉よりも拳で語らう人種なのだからね。


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