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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去58

「ぐぬぬ、じゃが、そうじゃ! 服を脱いでみなさい。もし、仮にもこれが君の望み通りであっても、体にこんな痣が出来るまでボールを蹴り込むなぞ正気ではない」

「……、ひどい。やっぱり普通じゃないわ」


 普通じゃないのは人前でパンツ一丁になるこの状況である。であるが、ここまでくればもうフィニッシュも近い。結局、敵側もこの痣しか証拠がないのである。この痣が出来た理由さえしっかりと準備できれば反論の余地がない。


「顔にだってあるんだ。サッカーの申子が揃う桜ノ宮学園のエースストライカーが顔に当てるなんてありえない。悪意があったとしか説明がつかないんだよ」


 ここがこの問題の核心である。発言した本人はここまで言われてもまだ反論するのかって顔をしている。が、一歩下がった場所で静かにしていた一人の女の子が王手を掛けるべく、挙手をして僕の隣に並んだ。


「顔に痣が出来る理由ですか? ありますよみやびにならその理由。だって、彼は佐藤熊吉の一番弟子ですもの。ね、校長先生」

「そうなんじゃよ、わしも聞いたときはそれはそれは驚いたもんじゃよ」


 はあ、それは僕が一番の驚きですが? え、僕がおじさんの一番弟子だと? そんなことあり得るか? 僕自身も信じられなくてポカンとしてしまった。


「いやいや、いささか無理はあるまいか? 菅野雅の身辺調査はすでに済んでおり、格闘技を習っている様子はなかったはず。な、明日香?」――、心中穏やかじゃない僕の代わりに的確な突っ込みがさく裂。

「はい、おじい様。彼の中学時代からここ一カ月の生活状況を調査しましたが、格闘技をやっていたという情報はありません。彼の好きな飲み物はライフガード――であり、嫌いな食べ物はタマゴ。特筆することがないくらい平凡な男子生徒で調査するのもバカらしかったです。そうだ、強いて言うのであれば嫌いなのことは人と争う事です」――こちらも的確な人間観察だ。返す言葉もありません。


 道明明日香の眼鏡がキラリと輝いた。割と本格的に調査した様だ。掌サイズのメモ帳をパラパラ捲り、捲った割には当たり障りのない情報しか出てこないのが悲しい。


「それと、好きな女性は深層の令嬢の様に清楚であり、笑顔が素敵で誰にでも優しくお弁当作りが得意で、将来の夢が保育士であるそこの女の子、たか――」

「おおおおおおおいいいいいいいい! まてまて! そのあとはやめてええええええええ」


 可及的速やかに話題の矛先を僕から本題に戻さなくてはならない。大声を上げて不必要な情報を公表しようとする道明明日香に詰め寄る。


「今は熊吉おじさんと僕の関係だよね? しっかり調査しなかったの?」

「わたくしの洞察力、観察力をあなたの様な矮小な人間と一緒にしないでいただけますか?」


 地味な見た目とは裏腹に冷酷な輝きを放つ瞳。こういう子には何を言っても駄目である。他にばらされたくない事を公開されるのも怖いのですぐに元の位置に戻ることにした。


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