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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去54

「お、おう! 見といてくれ! 今日俺はユーの為にハットトリック決めるぜ!」

「え、そんな、サッカー部の為にでしょ……」

「それもそうだけど、俺は今日宣言する。今日の俺はユーのことをずっと思い最高のプレイをするぜ!」

「……うん! わたしもたーくんのことずっと見てるから!」


 ああ、熱い。常夏だここだけ。周囲に友人がいるって言うのに何をご両人はラブラブっぷりをいかんなく披露しているんだ。試合が始まる前に燃え尽きてしまいそうだ。その熱に当てられて頬を上気させる奈緒に、耳打ちをする。


「もしかしてさ、気が付いてたのか? 拓哉の想いに」

「どうだろ、最初は本当にチャラい人なんだと思ってたけど、あたしや春香を大切にしてくれるその行動みてたら、こりゃ他に好きな子がいるんじゃないかなって」

「だから、告白されるのを避けてたのか?」


 勘が鋭いと言っても限度があると思うのだが。


「そんなことはないわよ。ただ、みやびのことが気になってあの日はたまたま尾行しただけ。それに、拓哉君、あたしに告白することがメインじゃなかっと思うわよ?」

「え、どういう意味?」

「それは自ずと今日、分かるんじゃないかな? さて、移動するみたいだよ」


 肝心なところをはぐらかされた。奈緒への告白以外に何が目的だったのか。奈緒は気が付いている様であるが、僕はいまいちピンとこないでいた。


 校長先生を筆頭に競技場の中に入り、最上階の奥まった部屋に入るまで十分くらいは考えたが、拓哉の最終的な目的に見当もつかった。



「遅い! 遅いぞ! 我が永遠の好敵手! 一時間も待たせるとはなにごとじゃ!」

「おお、一時間もとな? はて、九時集合と書いたはずじゃが?」

「毎度毎度、アホなことをぬかしおってこの老いぼれ! ほれ、ここに八時と書いてあるじゃないか!」


 黒塗りスーツを着用し黒いサングラスを掛けた巨漢二人に守られた一室に通されたと思ったら、お地蔵さんくらいの身長で腰の曲がった如何にも“それっぽい”高齢者が校長先生に肉薄した。


 どうも、うちの校長先生が何やら粗相をしでかしたようで面会して早々、眉間は寄りこめかみには血管が浮かべ分かりやすいくらいにご立腹である。どちらかが時間を間違えてしまったようだ。


「はて? ああ、すまんすまん。これわしら向けのやつじゃったわい。誰にでも間違いはあるものじゃよ、そう目くじら立てて怒るとまた血圧上がるぞい?」

「律儀にこちらの就寝時間と起床時間に送ってきておきながら何をぬかすか! またわしをからかったな、喜一郎!」

「源三、忘れっぽいお主の為に親切心でやったまでじゃよ。主が遅刻してわしに小言言われるよりは。わしに言った方が気分いいじゃろ?」


 伝統の一戦を前にした前哨戦とでも言えばいいのであろうか。いや、これはそんなかっこいいものではない。小競り合いがお似合いのじゃれ合いである。


「まあ、確かにそれはそうじゃが――」

「お主が好きな昆布茶と芋羊羹も用意しておいたろ? どうじゃった美味かったろ?」

「うぬ、米屋の羊羹はやはり芋に限る」

「のそうじゃろ? ほれ、遠慮はいらん好きなだけ食べるがいい」


 顎鬚をこれでもかと蓄えた我が校長先生と比較すると毛の量が年相応以下である道明学園の校長先生は、子供の僕からしてもすでに敵側校長の掌で踊らされているのが分かる。戦いはすでに始まっているのだ。


「お、そうじゃった、まずはわしの教え子たちへ“偉大な好敵手”であるお主を紹介してやるぞ!」

「偉大とな? ようやくオレのことを好敵手と認めたか」


 その二人を見ていると時代劇ドラマ・水戸〇門の主人公とその偽物をリアルに再現した様な印象を受ける。もちろん、どちらが本物かは言わなくても分かると思うが。


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