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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去53

 五月二十八日土曜日、晴天、国立競技場



 午前九時、学園から複数の大型バスで連れてこられた場所は、まさかとは思ったが選手権と同じ会場であった。しかも、どこから湧いて来たのか分からない程、観戦客が大勢整理券を求めて長蛇の列を作っている。


「ふぉふぉふぉふぉ、目には目を、歯には歯をじゃよ。こちらも後手に回るわけにはいかないからの。わしも一肌脱ぐことにした」


 部員どころか田中監督以外の指導員すら何も聞いていなかったこともあり、サッカー部の関係者が全員目を点にしてしまっている。その中で、仙人あらため現サッカー部監督である校長先生が得意げに胸を張る。


「大変だったんですよ、いくら私でも現役選手を二日間で集めるのは。しかも1stステージ真っ只中ですし」

「試合はさすがに無理でも、ファンサービスの一環で顔出すくらいは大丈夫じゃろ? それにクラブにはしっかりとスポンサーになることを条件に。と伝えてあるのじゃから」

「まあ、紛れもない監督のお願いですからね。まあ、でも、上手くいくと良いんですが」


 部員たちにロッカールームへ向かう様に指示を出した田中監督が、余裕の笑みを浮かべる校長に苦笑いにも近い微笑を向ける。


「やるなら徹底的にやるものじゃ。教育も事業の展開も。吉と出るか凶とでるか。そんなもんは神のみぞ知るもんじゃ。でもの、ここで吉を出せば何もかも解決じゃ。拓哉君も寺嶋君の問題も、サッカー部が抱える問題もオールクリアで万々歳」

「そうですね、それなら私も全力で彼らを鼓舞します。今の若い子に足りないのは自信と一歩踏み出す勇気ですからね」


 数人の指導員を連れ田中監督が遠のいてく。


「さて、わしらも行くかの」


 そう言われてここに残っているのは僕、拓哉、奈緒、春香、優香さん、そして寺嶋と三バカである。前もって残らされているのは例にもれることなく、道明学園へ例の問題の返答を直接伝えるためだ。


「拓哉、大丈夫なのか? 寺嶋の膝だって万全ではないんだろ?」

「俺は絶好調だぜ? 退部はしても毎日こいつには触ってたし、寺坊だってフル出場は無理だけど、後半からは出られる。な、寺坊」

「痛み止めを打ってもらった。ここまでしてもらった以上、道明学園に一泡吹かせてやるつもりだ。見ててくれないか、雅さん、奈緒さん、春香さん、俺達の姿を」


 あれから二日間、安静に過ごしていたのだろう。見るからに元気そうな寺嶋がつむじが見えるほど深々と頭を下げてから口角を吊り上げ笑って見せた。スポーツマンらしい力強い笑みに、僕は軽く頷いた。


「あの、これ、良かったら付けてください」

「え、これって?」


 春香が寺嶋に色とりどりの刺繍糸を何本も合わせ編んだミサンガを手渡した。


「サッカーのことは良く分かりませんが、ミサンガをお守り代わりにすると聞きました。私たちにはこれくらいしか出来ることはありませんけど、気持ちは同じです。どうか、勝ってください」

「俺達にこんな……いいんですか?」

「はい。拓哉君の友達なら私の友達です。ね、奈緒?」

「ふん、どうかなそれは。まあでも、春香とあたしの想いも一緒に連れていけば、百人力よ。勝ってみやびに感謝してよね」


 それぞれに春香と奈緒がミサンガを手渡し、奈緒はそんな憎まれ口を叩いている。素直じゃないんだこの子は。


「あ、拓哉君のは、ほら優香ちゃん早く」

「えっと、その、あの」

「も~、ほら、昨日私たちに覚悟決めたって言ったのは誰? ほら、拓哉君のこっちきて!」


 そして、お節介焼きなのだ。自分だけ二人から貰えず挙動不審になっていた拓哉の前に、優香さんが押し出され顔が真っ赤になっている。


「たーくん、わたし、どんな結果になっても、たーくんの一番のファンだからね! どんなことがあってもずっとたーくんの傍にいるから!」 


 これはなんとも恥ずかしい。蒼がどこまでも透ける晴天の空の下、心地よい風が前髪を揺らし、僕の心を拓哉と優香さんの絶妙なやり取りが擽る。こちらもこちらで死亡フラグであるが、拓哉も一昨日立派な死亡フラグを建てたのだ、お相子だろう。


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