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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去52

「そうだね、僕自身は拓哉と四人が仲直り出来れば別にいいかな。それと、二人にはちゃんと謝ってほしい。特に、春香のお弁当を台無しにしたこと、忘れたわけじゃないよね?」

「すみませんでした。言い訳も出来ないっす。でも、本当に反省しています。どんなことでもしますから、どうか俺達に力を貸してください」


 寺嶋が代表して頭を下げる。優香さんが心配そうな表情を奈緒と春香に向けた。


「本当は、許したくないです。雅君をこんなにした人たちなんて大っ嫌いです。顔も見たくないです」


 最初に口を開いたのは春香であった。


「私のお弁当のことはどうでもいいです。拓哉君の温かい気持ちちゃんと私に伝わりましたから。でも、なんの関係もないサッカー部の為に自分のことを犠牲にしてここまでした雅君にこんなひどいことするなんて、私は許せない。……、許せないけど――」


 春香の瞳からポタポタと涙が溢れる。


「雅君が決めたことだからもう何も言いません。だから、この後はみなさんのやるべきことをしっかりやって雅君へ恩返ししてください」

「私もそれでいいわ。でも、もし、またみやびにひどいことするようだった私がみなさんをどんな手を使ってでもボッコボコにします」


 ボッコボコかよ女の子がなんてはしたない――。僕意外の男子の顔が引きつるのがハッキリと分かった時、奈緒が手を叩いた。


「そうよ! 校長先生、みやびのこの痣どうにかごまかせるかも」

「ほんとかね?」

「あたしのお父さんの名前を出せばなんとかなるんじゃないかな?」

「え、おじさんの名前?」

佐藤熊吉(さとうくまきち)の愛娘の幼馴染だって言えば、ごまかせるでしょ」


 無い胸を「エッヘン!」と張り誇らしげにする奈緒。僕はともかく、そこら中から?が沸き起こる。代表して拓哉が奈緒にその真意を問う。


「どういうことなの奈緒ちゃん? 熊吉ってだれ?」

「あたしのお父さん、少し名の知れた空手家なんだ」

「なるほど」


 一同が納得したのは奈緒の案にではなく、奈緒自身の腕っぷしの強さだった。


「ほな、そこはわしに任せてくれんかの? 悪いようにはせんから、わしから奈緒パパにラブコールしとくわい」

「おじさんが協力してくれるとは思えませんけど?」

 あの堅物が子供の問題に協力するとは思えなかった。でも、校長先生は飄然とした態度を崩さない。

「名前くらい出しても罰は当たらんじゃろ。それに、万が一のことを考えて事情を説明しておいた方が問題が起きた時に呼吸を合わせやすいしの」

「あたしは別に説明しなくてもいいと思うけどね」


 どう言う意味だと奈緒に問い返す前に、春香が言葉を発した。


「大丈夫だよ、きっとうまくいく! 奈緒だって痣だらけになってたことあるんだし、大丈夫だよ雅君」

「そ、そうだね大丈夫だ」

「じゃあ、こちらの意見は纏まったがサッカー部はどうじゃ」

「俺達が全面的に悪いのに、雅さんには大変ひどいことをしてしまいました。春香さんや奈緒さんにも大変ご迷惑かけました――」


 でも、と寺嶋が続けた。


「もう一度だけ、拓哉とサッカーをやらせてください! 我儘だってわかってます。俺達がこんな都合のいいこと言うの変だけど、拓哉ともう一度だけ同じピッチに立ちたいんです」

「ごめんな、雅、奈緒ちゃん、春香ちゃん、もう少しだけ付き合ってくれるかな。そして、ユー、辛い想いさせちまったな、すまん」


 頭を垂れる四人の前に立ち、踵を返し拓哉も僕達に頭を下げた。そして、頭を上げるといままで聞いたこともないような優しい声色で一番の功労者にそう声を掛けたのだ。


「ううん、ううん、わたし、たーくんは絶対戻ってくるって信じてたから……。――“お帰りたーくん”」


 遠くで何かが落ちる音がしたのは、偶然だろうか。拓哉の顔がみるみるうちに赤くなり、今にでも青春的な一幕が開幕してしまいそうな雰囲気だ。


「ほほほ、じゃあ決まりじゃね。一同、解散。寺嶋君は至急、病院へ行って診察してもらいなさい」

「でも、そんなお金が」

「あ、それなら、うちの親父が今日から融資するってさ。可愛い息子の仲間の為に無料でいろいろサポートしてくれるって」

「……拓哉」


 最初は体育会系の体でぶつかる感じが苦手であったがあれは前言撤回だ。真田家の懐の深さに感動した寺嶋が拓哉に抱き着き涙を流している。それをみて、今では素直な気持ちを体で表現するノリも悪くないと思えてきた。


 と言うことで、僕らは伝統の一戦に大博打を打つことになった。結果なんて分からないけど、ここまできたら全力で任務を全うするまでだ。


「なあ、ユー、この試合が終わったら言いたいことがある」

「え、急に何? 別にいいけど」


 なんて甘酸っぱいやり取り。こちらがこそばゆくなるのは、拓哉の優香さんへの想いを知っているからである。ああ、そうか、これが死亡フラグっていんだろうか。


「あの、みや……、雅君。私も言いたいことあるんだ」


 なんて春香に言われたのは、たぶんマジで死亡フラグだったと思う。要件を聞こうとしたけど、逃げるように奈緒の元へと駆けて行った春香の顔は、なぜだか思い人である優香さんと対峙する拓哉の表情と少しだけ似ていた。


 いやいや、ここは僕が約束を取り付ける側だと思うのだが――。


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