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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去45

「どこにいくの雅君? ダメだよ?」


 抑揚の無い声色で呼び止められ振り返ると、そこに立っていたのは春香であった。


 昨日の今日である。一限目が終わり教室から出ようとしたら、春香が春香らしからぬ冷たい視線を注いできている。また僕が居なくなると思っているのかも知れない。


「私もついてく」

「え、トイレだよ?」

「トイレでもついてく」


 僕が一歩廊下へ踏み込めば春香も一歩踏み込む。目が本気である。このままだと本当にトイレに付いてきそうな勢いだ。


「分かった、ここじゃあれだから歩きながら話すよ」


 このままでは二時限目の準備をする奈緒にまで気が付かれてしまう。三人で連ションになるよりはここは春香だけに事情を説明して二人で行動したほうがいいだろう。


「あ、なお――」

「いいから行こう春香」


 予想通り奈緒を呼ぼうとする春香の手を強引に引き廊下へ出る。これが初めて手を繋いだ瞬間だと言うことに気が付いたのはずっと後のことなのは内緒だ。兎に角、奈緒まで一緒にきたら目立つので二人で二年A組へ向かう。


「え、A組に行くの?」

「どうしたの春香?」

「うんん、何でもないよ……」


 何でもないような顔色ではない。お世辞にも今の春香の顔色は綺麗とは言いにくい。青白くて何かに怯えている様な、そんな雰囲気が伝わってくる。春香らしからぬ、微笑みが死滅してしまった無機質な顔だ。


「ああ、どうしよ。そうか、電話してみよう」


 そんな春香を連なり、件のA組に到着したが、いままでの経緯を考えると直接突入するのは気が引けた。だから、優香さんに電話して廊下に出てきてもらうことにした。


「私達以外の二年生と言えば、C組にいますね。道明(どうみょう)明日香(あすか)さんって子が」

「ああ、あの眼鏡かけた地味な子?」

「地味とは言いませんけど、大人しい子ですね。あ、でも、もういないかも」


 そういい優香さんがスマホをいじり出す。


「やっぱりそうだ。昨日最後で転校してる」

「転校?」

「そう、先週くらいでしょうか。道明学園に転校することになったって言ってました」

「そうなんだ。転校か。しかもライバル校」


 道明学園か。名字も同じってのはさすがに偶然だろうが妙に引っかかる。それに、この時期の転校ってのはどういう事なのだろうか。五月も終わる頃に転校ってのは聞いたことがない。


「そういえばさ、春香はあの場所なんで分かったの?」


 春香は僕の後ろで大人しく成り行きを見守っていた。呼吸音も身動ぎも聞こえないくらい静かである。そんな彼女にふと疑問が湧いた。


「――、えなに?」


 ボーとしていたのか、閉ざされた教室のドアを凝視していた春香が数秒遅れて僕に焦点を合わせてきた。


「ほら、あの場所ってサッカー部でも使う人ほとんどいないし、そもそもあまり近づかないらしいからさ」

「えっとね、眼鏡しててお提髪の女子マネージャーさんから聞いたんだ。名前は分からないけど」

「道明さんだねその子」

「なんか優香さん心当たりある?」


 僕が昨日倒れていたことを優香さんも知っており、倒れていた場所を春香から聞いて想像もつかなかったとマネージャー歴二年目が言うのだ。優香さんが首を傾げる。


「普通なら練習がない場所に私達が行くことはないし、何かを本気で調べてるとか探さない限りはあんな奥まった練習場に道明さんが行くことは考えられないかな~雨で薄暗くて怖いし。それに、彼女春に入部したばかりなんだよね」


 なるほど、そりゃなんともきな臭い。偶然通りかかったと言っても学園の一番奥、それも雨天の中、吹きっ曝しで寒い渡り廊下を進み、人気もなく薄暗い別館に女子が一人で来るなど考えにくい。そもそも、取り壊すか他の部に提供するかでもめている場所だ。


「でも、道明さん? 私がいつもの一軍練習場に走って向かってる途中に呼び止めて教えてくれたんだよわざわざ」

「春香から聞いたんじゃなくて?」

「うん、彼女知ってるような口ぶりだったよ」


 ほうほう、もしかしたらこれは最悪の方向に向かっているのかも。


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