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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去44

「叩いてごめんね。でも、これ以上雅君が苦しむ姿を見たくないの。だから、拓哉君に全部伝えたから」


 その文面が真実なんだと確信できたのは拓哉からのラインがタイミグ良く来たからである。


「俺の問題でこれ以上誰かを悲しませるのは嫌だ。明日、学校にいくから雅はどっかに隠れてろ」


 どう返信しようか考えている間に寝落ちしてしまった。翌日、晴れ上がった顔にシップをした僕を見た春香が泣きだしてしまったのは言うまでもない。


 五月二十六日木曜日、曇天、職員室


 逃げも隠れもしない。とまでは言いきらないが、翌日も普通に登校し泣き出す春香に弁論していると担任の福田先生から職員室へ来るように呼び出された。どうも、昨日途中から姿を消したことの事情聴取をするための様だ。


「新学期早々、拓哉が長期入院して雅が授業をバックレる。教頭先生がお怒りでなんだわ。どう説明するんだ昨日のこと?」

「お腹痛くて空いてた教室で寝てただけですよ。で、放課後体調もだいぶ良くなったんで部活に顔出したら悪化して倒れてしまいました」

「その顔は?」

「これは、その、昨日の夜ベッドから落ちた時にぶつけたみたいで」


 ふむ、と唸る福田先生が嫌な目をした。疑っている時の目だ。


「他のクラスの子がね、ある運動部に在籍する四人組と雅が歩いているのを見たって言うんだよ。時間が重なるんだよ、授業をバックレた時間と」

「他のクラスの子? 普通科だけでもただでさえ人数多いのに、特定の運動部に在籍する男達って判別できるもんすか?」

「それは、目撃者自身がその部のマネージャーをしているから真実だ。どうなんだ、本当にそいつらと一緒だったのか?」


 普通科二年でサッカー部のマネージャーか。そう多くない条件だ。その目撃者を探すのはそう難しくはないだろう。福田先生ならまだ騙せても、その目撃者をこちらに引き込まない限り疑惑が晴れることはないだろう。


「見間違いじゃないですか? 奈緒や春香と違い、僕には花がない。その目撃者も見間違えたんじゃないですか僕と誰かを? 僕は一日一人で放課後までサボってました」

「いや、でもな」

「まさか、全校生徒の顔と名前を憶えているんですか先生? こんな顔探せば二年にだけでも二、三人いると思いますよ?」


 君はいつまでも他人のことばかり考えているんだ。おじさんに言われた言葉が心中で反復されるが、僕が我慢すればいいだけの問題だ。確かに好きな子を泣かされるのは、男として我慢できない部分もある。けど、僕は自分の気持ちを優先することが出来ない人間だ。


 だから、こうするしかないんだ。僕の意地悪な質問に言葉を飲み込む福田先生を畳みかける。


「教え子がサボってたって自分から言うんですから、それ以上に何を信じるんですか? 反省文を後で書きます。あと、今日も体調悪いんでもしかしたら早退するかも知れません」

「分かった、今回はお前を信じる。頼むから、早退する前には俺に連絡くれよな。また現国の堀越先生の授業でいなかったらいよいよやばいから」


 確かに何かと口うるさい現国の女性教諭がいた様な。赤い口紅に赤縁眼鏡がトレードマーク、居眠りしただけでも「職員会議に掛ける」と宣うほどの心の狭さ。二回もサボったらどんなことを言い出すか分かったものではない。


「三限目か」

「なんか言ったか?」

「いえ、早退するときは事前に言います」


 件の現国の授業は三時限目だ。それまでに目撃者を見つけ、早退する準備をするか。となると、早速めぼしい人間から当たっていくか。


 福田先生に一礼してから職員室の扉を開ける。ドキッとしたのは、眼前に赤渕眼鏡が輝いていたからだ。


「ひどい顔ね。体調悪いなら、しっかりと申告するように」

「はい」


 顔面を半分覆うように貼られた湿布のお陰もあり、堀越教諭はそれ以上何も言わず一限目に備えて慌ただしく同僚が行きかう職員室へと消えていった。これなら今日もサボっても問題ないだろう。学園への対策はばっちりだ。

 

 後は、目撃者を見つけて真実を虚偽に塗り替えてもらう。さて、まずは優香さんに声をかけてみよう。


年末年始、更新できなくなります。


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