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初めての恋  作者: 神寺雅文
第四章--解き明かされる過去
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解き明かされる過去37

 拉致監禁、寺嶋達に誘拐紛いに連れ出されたのは一限目が終わった休み時間であった。トイレに向かう途中の廊下で誰かに呼ばれたと思い振り返ると、階段から一本の腕が僕を手招きしていたのだ。迂闊であった。いや、迂闊も何も、さすがに想定外である。


「よお、雨で暇だからちょっと付き合ってくれよ」

「マネージャーは授業優先のはずだけど?」

「お前は別だよ、俺達専属のマネージャー、田中監督にも許可もらってる」


 目隠しを外され一瞬眩しくて目が眩んだ。ここはどこだ。見覚えのない室内グランドだ。


「助けはこないぜ? なんせ、ここは今年の選手権の結果次第で取り壊されるサッカー部のグランドだからな」

「おーい、寺嶋、準備できたぞ」

「監督には寺嶋のリハビリに付き合うから学園外に出るって伝えたから、練習に戻られなくても心配ない」

「こいつはまあ、大丈夫だろ。担任になんか聞かれたらなんて答えるか分かってるよな」


 屑四人がニタニタ笑っている。パイプ椅子に紐で縛られた僕から見えるのは、無数のサッカーボールで構成されたモノクロの絨毯である。あれが全部こちらに飛んでくるのか。目まいがする。


「サボってましたって言えばいいんだろ?」

「ご名答! やっぱり普通科は俺らと違い授業が多いから頭がいいな!」

「リハビリは良いのかよ? 月曜日より悪化してるんじゃないのか?」


 寺嶋が上から覗き込む様に僕を見下ろすと、良くなるどころか悪くなる一方の歩き方をして定位置に着いた。


「お前に何が分かるんだ! 明後日には俺らの運命が決まるんだよ!」

「やれやれ! この際だ、スカッとするまで徹底的にやろうぜ」

「人間サンドバックってやつだな」

「顔は狙うなよ~バレるからな。こんなのバレたら即活動停止だ」


 停止どころか解散だってあり得る。いくら誰も見ていないからって派手なことをするものだ。拘束して動きを封じた人間相手に強烈なシュートをお見舞いするなんて、言い訳のしようがない。


「逃げないからこれほどけよ! 善悪の分別も出来ないのか!」


 言ってる傍から顔にもろにくらい口の中が切れた。鉄の味が広がり気持ち悪くなる。


「怖いならそう言えよ? 泣き言はよせ!」


 二発目が顎に当たりその衝撃で吐血した。溜まっていた血が一気に噴き出してしまった。


「こ、これはさすがに辞めよう。紐は解くぜ寺嶋」


 好きにしろ。その返事を待たずに高橋が僕の拘束を解いた。さすがにビビったのだろう。僕の顔を観察している。


「口内がキレただけだ。本当に誰も来ないんだろうな?」

「たぶん。ここの存在を知っているのは一部の人間だけだ。本気で探す気のあるやつしかこないだろうな」

「そんな奴に話しかけんな。仲間を売るような奴はサッカー部にはいねーよ」


 だと良いのだが。どうしても、僕の頭から離れないのはこのことの密告である。もし、このことが学園にバレたらただでは済まないであろう。


 エアバンドをしただけで正座させる教頭がいるのだ。良くて活動停止、悪くて解散。選手権優勝など到底無理な話だ。


「おらおら、どんどんいくぞ!」


 僕のそんな不安など関係なしに、一番被害を受ける当事者たち――そのエースが率先した蛮行を指導しているのだから、どうなっても知らないぞ。拓哉との約束を守るために出来る限りのことはするつもりだけど、このままでは肩を持てなくなる時は必ず来るだろう。


 普通科だから頭がいい、スポーツ特待生科だから頭が悪い。


 そんなことではない。昔から悪戯をしてきたことのある人間と悪戯をしてこなかった人間の悪知恵の差である。


 拓哉の過去を聞いたからこそ分かる。こいつらはいままでこんな悪さをしてきたことがない人種だ。だから詰めが甘い。

 

 顔を狙わないはずだったが気が付いたら普通にどこでもありになっている。そもそも、あんなに一目がつく普通科のフロアに特待生科のウエアを着たまま来るんじゃない。ましてや、僕は本人の意思に反してちょっとした有名人だ。遅かれ早かれ僕が居なくなったこととサッカー部のエース達がそれに関与していることは、学園の知るところになるだろう。


 ここは、いかに早くこいつらの蛮行を辞めさせ僕を開放させるかがカギである。


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