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死神  作者: 空暗
2/2

過去

「―――見たか?もうちょっとで世界一つぶっ壊しそうになったって化け物」


「見た見た、ありゃ地獄行き決定だな」


「だよな、スゲーぜ千年ぶりだってよ?地獄行きは」


「マジかよ?!そんな化け物よく捕まえられたな」


「まぁな、捕まえたのは、あのジェイドさんだって」




【始まり】





高橋拓也、中学二年生、部活は帰宅部で成績は上の上、運動能力も上の上


異様なまでの才能を持ったこの少年は、現在は不登校だ


顔は悪くは無く、どちらかといえば良い方、それでこの才能となれば女子は寄って集る


それを妬む男子と学校に来ずとも成績の良いことを妬む教師十数名


目の前には大勢の人が歩く、そしてジッとそれを眺める俺


道行く人々はまるで俺が存在しないかのように全く速度をゆるめず機械的に歩く


時折チラりと俺を見る者も居るが、それも数秒、結局は他の者と変わらない



時々、俺は自分が何のために生まれたのか疑問に思う



ただ簡単な授業を聞くため?


それとも馬鹿な女子に騒がれる為?



答えは見つからず、ゆっくりとそして確実に月日は流れる



俺が死んでも良いか?と聞くと、決まって相手はこう答える


「駄目だよ、君はもっと生きなきゃ」


そして最後にこう付け加える


「親御さんも悲しむよ?」


よくこんな説得で自殺を本気で考えている人間を止められると思っているなと逆に関心する


この質問に俺はこう答える


「親は、俺が小学二年生の時に死にました」


そういうと、相手は同情するかのように言う


「辛いのはわかるけど、親御さんも天国できっと君のことをみているよ」


まるで幼稚園生に言うかのような台詞だ


「俺の親は、俺を虐待してました、死んだのはそれぞれの不倫相手に殺されたからです」


そう言うと、焦ったような素振りを見せる


「でも、君だって本当は生きたいでしょう?」


「全然」


はっきり即答してやると、今度は怒る


「君、私をおちょくって楽しい?嘘くさいことばっかり言って、人の優しさをなんだと思っているんだ?」


嘘臭い、決まってそう言って俺は追い出される


優しさなんて知らない、どうせ情けでやっているだけだから


どうせ自分に余裕があって、自分がすごいと思っているからこんなカウンセリング何て仕事をするんだ


みんな自分では対応しきれない重荷があったら、捨ててしまいたいと思うでしょ?


俺はただの重荷だ




学校へ行くと、まず冷たい視線が飛んでくる


そして小さな憧れの眼差し


まだ破棄されていない自分の席


それが今ではただ一つの居場所だと思う


鞄を置いて、イスに座り机に頬杖をつく


周りかはチラチラと色々な視線を感じる


妬み、憧れ、そして異質者を見る様な目


そこで俺は改めて自分が此処に居るべき存在じゃないんだと認識する


授業が始まり、つまらな担任の説明が耳に入る


時々ギロッと睨む様な嫌な目つきで俺を見ては、授業を続ける


まるで居てはいけない者のようだ


難しいらしいまぁまぁ簡単な問題を指され、暗算で答えを出す


答えをいうと舌打ちをするように正解だと言われた


それから授業は続き、そしていつの間にか下校の時間になる


部活へと慌ただしく走る生徒、生徒


自分と同じ年代の人間だとは思えない生き物たちだ


一人ゆっくり廊下を歩き、電車に乗り、アパートに着く


そして読書を始め、風呂に入り寝た


毎日毎日が退屈だ


つまらない、人と会いたくない




気がつくと、俺は真夜中の廃墟のビルに居た



冷たい風が俺の髪を揺らす



フェンスはもうボロボロで、所々穴があって入るのは簡単だった



足をかけてちょっと身を屈める


そして高いビルの縁に着く




後は、後一歩踏み出せば良い




そして衝突時の一瞬の痛みに堪えれば、もう終わりだ



感情なんて元々なかったロボットのように




俺はその一歩、踏み出した







気がつくと真っ暗な世界に居た



感情が勝手に動き、そして俺は風を纏う




冷たい風は興奮した体を冷やしてくれた



俺は腕を力強く振り、大きな竜巻を起こした





自分の感情を乗せて







俺は廃墟のビルに居た



そこがいつも俺の休み場だから



汚い屋上と錆びてボロボロのフェンス



その世界が、気に入っていた




「おいそこの」



のんびりした声



まさか自分にでは無いだろうと思いつつも、振り返る



見えたのは美しい男



動きやすそうな黒を象徴とした服に、大きな鎌



「そーそーお前だよ、つーかもうこの世界にはお前以外殆ど居ないしな」


陽気に喋り出す男



正直戸惑った




話しかけられた事なんて、一回も無かったから




「お前、自分のしたことわかるよなぁ?」




ドスのきいた声、低くて、さっきまでの喋り方とは全然違う、別人だ



すごい寒気が襲う



いつの間にか近くにいる男




動かない体





「わかるよな、お前はこの世界を壊したんだ」





睨まれ、思わず怯む



怖い




「これは大罪なんだよ」






「自殺、そして世界への干渉、つーかこれは世界を破壊してっけど」




変わらない声の冷たさ




「お前は、罪を償わなきゃいけない」






「着いてこい」






嫌だ





直感的にそう思った





いやだ嫌だイヤだ




俺は激しく暴れた





竜巻、大風、炎、水




激しく抵抗するが、その攻撃は全てかわされる




グラッ




体が揺れ、景色が歪む





何だ……?





「力の使いすぎだ」





薄れゆく意識の中、最後に見たのは男の悲しそうな顔だった









―――――――ブチッ




目を開けるとぼやけた灰色の空が見えた





体を起こそうとすると激しい頭痛が襲う




「っ………」




「起きたか」




背後から声をかけられた




そして視界にあの男の顔が写る



逃げようと起きあがろうとするが、手が動かない



「悪いな、ちょっと縛らせてもらった、暴れられるのは困るんでな」



男は苦笑しながらそう言い、自分の隣に腰を下ろす




「まぁ何だ?ゆっくり話そうじゃないか」



お前も、理由が分からないまま辛い目に遭うのは嫌だろう




そう呟き、そうだろう?とでも言うようにこちらを見る




少しその動言に戸惑ったが、知らんぷりをして落ち着く



こういう風に話しかけられるのは初めてだったから




男は俺が大人しくなったのを確認して満足そうに微笑む




「まずお前についての説明をしようか」




訪ねる文だろうがこの言い方とこの男の性格を考えると「結構だ」と断っても気にせず続けるだろうから俺は軽くうなずくだけにした




予想通り男は俺に目もくれず勝手に喋り出した





「これから俺が話す話はお前の知識じゃあ到底かなわないものだ、あまり深く考えずにただ変なオッサンの空想話を聞くようにして聞け」





どうせ今度も反応してもしなくても変わらないだろうと思っていたが驚いたことに男は俺を見つめていた




慌てて頷くと少し苦笑された




男は側に置いていた大鎌の刃に軽く自分の指を滑らせる



すると指は切れ、血が流れた



男はそれを確認させ、立ち上がり大鎌で俺を切った





「目、開けても大丈夫だ」





咄嗟に堅く閉じた瞼のことを指摘され、パニック状態から戻る





目を開けてまず感じた違和感は痛みが無い事





「わ」





鎌が振り下ろされた首を見ると、思わず上げてしまった間抜けた声





鎌は確かに俺の首を通っている




だが、切れてはいない




今も俺の首に刺さっている




鎌が実際に触っている部分はまるで水のようにタプタプと揺れていた





「お前昔から怪我の治り早かっただろ」




そういきなり指摘され、確かにそうだと思い出す





「ちなみに言うと怪我自体変だったろ、想像したくもない様な大きな怪我を負う筈なのに何故か軽傷だったり、怪我している筈なのに何故かしていなかったり」




確かに、そうだった





「想像出来ないだろ、自分の首が大鎌で切られる何て所は」




実際には想像したくないんだけど……、と小声で付け足すし鎌を俺の首から引く





「怪我をする、と言うことはその世界に干渉していることでもあるんだよ、だからこの世界に干渉できない俺達には本物の怪我が出来ない」




「じゃあ俺のする怪我って何だ?」




「実はその答えは今のお前とさっきの俺の言葉にある……、めんどー何で教えるが『想像』だ」



頬杖をつき男は面倒臭そうに言う




「お前の今までの怪我は全て大雑把に言えば“幻”、お前が想像した怪我だったんだ」





「ついでに言うとお前も大雑把に言うと“幻”だ」






「感じなかったか?生きている時、自分が“あまりにこの世界で浮いている”と」






「周りに、世界に“適応”できない自分、存在しているのに存在していないと同じ」





「幻じゃなく、存在したいと思っただろ、お前」






「体はいわば幻をかける術者」





「その術者を殺せば存在できる」






「自殺は唯一術者だけを殺せる方法なんだ」





「幻は解け、お前は存在した」





「だが幻でなければいけない言うことは、俺達がこの世界に存在してはいけないということなんだ」






「だから大罪なんだ、自殺という行為は、存在してはいけないものが存在してしまうから」





悲しい目



それは今まで見てきた同情の目じゃない



自分が悲しい時の目だ




本当に初めてだ



こんなに『優しく』されるのは




こんなに自分が『辛かった』って思い知らされるのは





「俺は、どうして“幻”なんだよ?」




情けない



子供の様な小さくて弱々しい声だ




「この世界に居るべきではない魂、いわば異形の魂を持った者だから」







ああ、だから





だから、俺が異形のモノだから、この世界は優しくなかったんだ





居てはいけないものだから





みんな冷たかった、みんなと打ち解けられなかったんだ






でも――――





「別に好きで異形のモノになった訳じゃない、よな」




言いたかった言葉を、先に言われた




勿論言ったのは目の前の男だった




「好きでこの魂持ってる訳でもない、好きで此処に生まれた訳でもない」




「好きでなった訳じゃないんだから、優しくしてくれてもいいじゃないか、って」





「そう、思っちまうよなぁ……」



ヘラっと、綺麗に咲いた困ったような笑顔



笑っているけど悲しそうな、見ている方が悲しくなる様な笑顔




目尻が焼けるように熱くなった





多分初めての涙




生きている内には流せられなかった涙





ああ、辛い






この人も辛かったんだろうなぁ、きっと






すごく辛くて悲しくて惨めでしょうがなくて





我慢できない位辛くて





それで死んじゃったんだろうなぁ





何となく、この人も俺と同じなんだと思った





良かった






「あなたには失礼かもしれないけど……良かった………」




止めなく溢れる涙




その涙は、全然止まりそうにない





「一人じゃなくて……良かった…………、他にも……遠くても……俺と同じ思いしてる人が居てよかった…………」




ほんとっ、良かった





いつも思ってた




もしかして、この世界の中でこんなに辛い思いをしているのは俺だけじゃないかって





そう思う自分が、辛くて、嫌いだった





子供の頃見てた教育番組のアニメ、そこには色んな辛い思いをしている子達が居た





それでもその子達は、ちゃんと胸を張って、みんなで生きていくんだ




そのアニメの子達が羨ましかった



ちゃんと同じ思いをしている子がいるから、その子達とちゃんと巡り会って、そして生きていたから




すごく幸せそうで、羨ましかった




俺にもいつか、そんな仲間ができるって信じてた




そんな仲間に会うために、頑張って生きようって思ってた



でも、頑張って生きても、誰も気付いてくれない



何故か、どんなに頑張っても、もっと深い闇の中へ落ちていくって気がした



頑張って頑張って、生きて生きて、落ちて落ちて



限界が来るまで、生きてきた



限界がくる前に、仲間と会えるって信じてた



そしてきっと、仲間が俺を闇から救ってくれるって信じてた




でも、仲間と会う前に、限界が来た





ああ




「生きている間に、あなたに会いたかった」





ブゥオン――――――――――







大きな風が吹く




さっきと同じように、急に眩暈がした




「お前っ……何で……!!」





ぼやけた視界に、黒い死神が見えた





◇◇◇◇





体が重い




頭が痛い




此処は何処だ?






「起きろ」





言われなくても起きてるよ




そう言い返したかったが、声が出なかった




はやくしろ、大声で怒鳴られた挙げ句頭を蹴られた




痛い




無理矢理体を立たせられ、グラリと全身が傾く





やっと見えてきた映像が、逆に頭を混乱させた





「……此処、何処だ……!!」




手足に重い鎖




両側には知らない大人の男性




まるで裁判をするような部屋に居た





「此処で、お前は裁かれる、まぁ多分地獄行きだけどな」




小さに嘲笑う様な口調で言う左側の男



右側の男は、深くマントを被っているので顔が見えない




引きずられるように前に歩き出す




着いた先には何千人もの人々が居た





その中の中心に居る人物達が、俺に話しかける





「貴方は昨日、死神ナンバー27ジェイド・ウィンクスによって捕獲されました」




ちなみにジェイドってのは俺ね、と左側の男が言う



「自殺、そして世界への干渉、この二つが貴方の罪です」




ああ、言ってたなあの人も



そう思っていると、またジェイドという男が話しかけてくる



「あれはもう破壊だったけどなぁ、ギリギリでシドの奴が止めたから干渉ってだけになったんだぜ?良かったなぁ」



シド?止めた?



あの人シグって言うのか……



「シグって人、どうして「五月蠅い、少しは黙ってろ」



俺の質問を遮ったのは右側の男だった



「五月蠅いだって、相変わらず堅いねぇもうちょっと気楽に「お前もだ、場所くらいわきまえろよ、馬鹿」



なんだよ連れねぇなぁと、小さく呟き、左側の男は黙る



右側の男はその声を無視して変わらず前を見ている



この人、あの人に似てる……



「ちゃんと話位聞け」



また右側の人の注意が入る



心の中ではーいと返事をして、改めて正面に向き直る




「結論として、この者を『地獄』へ連れて行くと決まりました」




随分話し飛んだな……



呆れたように言ったジェイドの言葉に同意しながらも、内心かなれ焦った




「すみません、もう一度検討してもらえませんか」



言いたかった言葉を言ったのは右側の男の人、やっぱり似てる



少しざわついた人達を全く気にせず、右側の男の人は続ける



「だが、この者は大罪を犯した、今までにないくらい大きな」



そう言われそうか、俺はそんなに酷いことをしたのかと、今更ながら後悔した



「俺は一億の魂を刈りました、確か朝廷の決まりで一億の魂を再生させた者には一つだけ願いを聞くという決まりがありましたよね?」



「確かにあったな、よく知ってる」



不思議な空気だった、誰一人、口を利かない



「どーも、じゃあ俺の願いを聞いてください、此奴を無罪放免にしてください、俺がこいつを監視します、期間は、こいつが死滅する瞬間まで」



「おまえ何言ってんだッッ!!」



「何って、俺がこいつ死ぬまでずっと見ててやるから地獄に行かせるなって言ってるんだよ」



「それは分かってる!!どうしてお前がそんな事するんだよッ!!」



「こいつ気に入ったから」



猛烈な勢いで喧嘩し始めた二人、騒がしくなる人々






「……まぁ、あなたの頼みでしたら良いでしょう、ではその子、よろしくお願いします」





ええーーっっ!!!



俺の右側に居た人以外、みんなそう言った



勿論おれもだ





こんなに簡単に地獄行き訂正されるのかよ……?




◇◇◇◇◇◇







「来い」




終わった途端に手を引っ張られ、その部屋から出された



勿論ひっぱったのは右側にいた人だ



後ろでジェインの騒ぎ声が聞こえたが、あえて無視した




「まぁ、つー訳でお前は俺の部下になった」



唐突な切り出しだなと呆れるが、不思議と笑いが込み上げてくる



「あんた誰ですか?」




「は?」




「だから誰ですか?」




前語撤回、俺も唐突だ




「あー俺だよ」




さっきまでとは打って変わって優しいと言うか気楽な口調になった




そして深く被っていたマントを脱ぐ




「覚えてるよな」



「勿論」



現れたのは青灰色に似た髪の毛と赤い目



あの人だ







「はい、じゃあこれからよろしく、俺はシグ・ウィンだ」







自然と零れた笑みに、また笑う









「よろしくお願いします」










◇◇◇オマケ◇◇◇






「あーこれでやっと心置きなく殴れる、テメェよくも俺のことオッサンって言ったなっ!!!」


「いっで!!ってあれはアンタが自分で変なオッサンって言ったんじゃないかッ!!」


「あれはジョークだジョークっ!!それくらい分かれ馬鹿!!」


「わかんねぇよ、普通にあのタイミングで冗談とかないから!!つーかあんた性格変わりすぎ!!!」


「ケッ!!これが本性だ、何だ優しいとでも思ったか!!!!」


「うっわー最悪だこいつ!!!!」






すみません、最後ぶっ飛んでしまって


ほんとすみません!!本当はもっと感動だったんです!!

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