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逃殺起《とうさつき》

作者: 水無月 七兎

男は、息を切らせて走っていた。

暗い通路を、無我夢中で得体の知れないナニかから逃げていたのだ。

「ハアハアハア」

という、自分の荒い声を聞きながら、汗が張り付いてもなお、治らない恐怖の対象であるナニかから。

逃げても逃げても、なお忍び寄る足音。

自分のタッタッタッタという足音に紛れて、トタァ、トタァ、と言う足音がついてくる。

いくら走っても、耳に張り付いた様にトタァ、トタァ、という足音がついて来るのだ。

何故、逃げたのか。


それは数分前に遡る。


会社の上司と酒を飲み家に帰って来た時に、自分の部屋だと言うのに、何故か居心地が悪い。

部屋を間違えたか?

とも思ったのだが、自分の持っていた鍵で開けたし、この前友人と撮ったばかりの写真まであるのだ。

だから間違えている筈がない。

だが、違和感が拭えない。

何かが、異様に間違っている。

それが、何かわからない。

そんな、漠然とした疑問感に首をかしげようとしたときだった。


ペタリ


そんな音が、部屋の窓から聞こえた。


ペタリ


男は窓の方へと視線をなげかける。


ペタリ


カーテンが、少しだけ空いていた。


ペタリ


外が見え


ペタリ


そこには闇しか無かった。


ペタリ


いや、そんな筈はない。

暗いといっても街灯がある。


ペタリ


窓の外にある風景が見えない筈がない。


ペタ……ニタァ


不意に、闇が三日月の様に開かれる。

それはまるで真っ赤な真っ赤な

「口……」

そう捉えるしか無かった。


ガタ


開かれた様に開いた部分が口の中のように見えた。


ガタガタガタ


窓が揺れる。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


いや、揺すられている。

割れそうな勢いで、窓がゆれて。

得体の知れないナニかが、部屋に入って来ようとしているのだ。

「ウァァァァァァァア」

気づいた時男は、走り出していた。

部屋を抜け玄関を開け、外に。

ガシャン

と窓が割れる音を聞きながら。


「ハアハアハア。」

男は、未だ逃げていた。

トタァ、トタァ、という音が辺りに響く。

息が切れ、立ち止まりそうになりながらも懸命に足を動かして。

回らない頭で、考える。

何で自分を追って来るのか、何で俺なのか、

何で、

何で……

何で…

何で、こんなに走っているのに、人に合わないのか。

馬鹿な事だとは思うが、何故か人にあわない。

深夜の住宅街だと言うのがあるとは思うが、それでも、深夜にはたまに見かける酔っ払いや、残業帰りのサラリーマンの姿が見えない。

男は、走り続けた。

住宅街を抜け、商店街を抜け気づく。

全ての明かりが消えていた。

飲み屋や、交番、それに24時間営業が売りな筈のコンビニまでもが。

誰一人居ないのだ。

男は、恐怖にかられ走り続ける。

「ハアハアハアハアハア、っウアァ。」

そんな時、不運にも道の凸凹にやられて足がもつれ、転んでしまった。

トタァ、トタァ、

ナニかの足音は序所に近いて来ていた。

男は必死になって辺りを見回す。

すると、赤い鳥居が見えた。

其処は、古い神社だった。

神社ならば、あのナニかは入って来れない。

男はそう思い。

擦り剥けた膝を懸命に動かして、神社に向かう。

トタァ、トタァ。

その間にもナニかが迫る。

男は必死になり、神社へ走る。

鳥居を抜け、ついに社まで着く。

社には鍵がかかって居らず、そのまま入る事が出来た。

男は、中へ入り扉が万が一にも開かないように、抑えながら荒い息を整えながら外の男に耳をそばだてた。

トタァジャリ、トタァジャリ、

境内にナニかの足音が響く。

「神様ぁ」

男はガクガクと震えながら、ナニかの足音が去る事を祈る。

トタァジャリ、トタァジャリ、

トタァジャリ、トタァギシ

もう、あのナニかは社まで来ていた。

トタァギシ

ゆっくりと、社の階段を上がる

トタァギシ

トタァギシ

ガタン

社の戸が揺れる。

「あぁぁぁぁぁぁあ。」

男は無我夢中で、扉を抑えた。

ガタンガタン

「南無阿弥陀、南無阿弥陀、南無阿弥陀」

ガタンガタンガタン

男は、いつの間にか念仏を唱えていた。

ガタンガタンガタンガタン

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガ…………

不意に、扉を揺らす音が止んだ。

「たっ助かった…。」

男は安堵した。


やはり神社に、守られたんだ。

そう思った。

神様ありがとう。

そう思った。




男は安堵してしまった。



フウ

不意に

何処からか

風か吹く

フウ

また、風が髪を撫でる

フウ

また、生臭い風が

フウ

男はゆっくりと震えながら

フウ

後ろを振り向いた。

赤い

赤い

赤い

赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤

目の前にはあの赤い口が開いていた。







「ウァァァァァァァア。」

ガバッ



男は布団から起き上がった。


ハアハアハアハア


と荒い息を吐きながら。

辺りを見回すと其処は自分の部屋だった。

何の変哲もない自分の部屋。

あれは何だったのか、男は考える。

酒を飲んで帰って来たので変な夢でも見てしまったのだろうかと。

フウ

風が吹いた、後ろから。

男はゆっくり後ろを見る。






其処は何の変哲もない、自分の部屋の壁だった。

気のせいかと、ため息を吐く………が、

フウ

またも風が吹いた。

正面を見ると、

ナニかが居た。

そう、あいつが。

男は恐怖の余り固まってしまい動けなかった。

すると、次の瞬間あのナニかに布団ごと下半身が、喰われていた。

バキ

ゴリゴリゴリゴリ

という音が部屋に響く。

「あっあっあっあっ」

口からはもはや叫び声すらでてこなかった。

バキ

ゴリゴリゴリゴリ

体が喰われいく。

部屋が赤く染め上げられる。

バキ

ゴリゴリゴリゴリ

もはや頭を残して何もない。

男の意識は朦朧としだし、次第に暗くなる。

ああ、何て、そう男は思った。

そして男の意識が消える前に

闇の中声が聞こえる。

そう、声が。




男が目を開けると、其処は自分の部屋のベランダだった。

トタン、トタン、

階段を上る音が聞こえる。

ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ

部屋の鍵を開ける音が聞こえる。

ガチャン、キィィィイ

そんな音がして部屋の玄関が開けらる。

其処で男は思い出す。

あの最後の言葉の意味を…………



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