01- ログアウト不能?
「おお、ついにやった!」
古そうな遺跡。その一角に佇む、大理石っぽい石でできた祠。
その前に、一人のプレイヤーが立っていた。
手にはいかにも貴重そうな、それでいて凄まじい力が眠っている、一本の―――聖剣が握られていた。
「まさか、三大聖剣のうちの一本を、誰よりも早く入手できるなんてな!」
俺は嬉しそうに、手に持っている聖剣を見た。
―――勇者と聖剣のファンタジア。今、俺が夢中になってるVRMMORPGの名前だ。
このゲームが登場して一年が経つが、このゲームはずっと人気ランキングトップを独走してる程、人気の高いゲームであった。
そして、このゲームの特徴の一つに、全プレイヤーに課せられたクエストがある。
それは、どこかに眠っている聖剣を探せという物だ。
世界に眠る聖剣は三本あり、それぞれにゲームバランスの崩壊すら囁かれる程の凄まじいチート性能が秘められている。
そして、俺はオープンβテストから参加している最古参プレイヤーの一人。そして、その頃からずっと、ほぼソロプレイで聖剣を探す努力をしてきた。
そして、今この瞬間、その努力は報われたのだ!
ゲーム内アバターの、俺が掲げる聖剣―――確か、名前は『スフィア・エレメンタル』と言い、ほぼ全ての精霊の力が込められている、という設定だった筈だ。
そして、俺はアイテムウィンドウにその聖剣を収め、その聖剣の説明を見て愕然とした。
《聖剣 スフィア・エレメンタル》(武器・片手剣)
三大聖剣の一つ。精霊の力を宿し、ありとあらゆる精霊と契約する事ができる。
ATK+355
INT+150
特殊能力
・精霊、大精霊と自動契約+最大召喚制限の解除
・精霊召喚によるMP消費量が1/10。
攻撃力と知力の伸びもめちゃくちゃ高いが、俺がびっくりしたのは特殊能力の項目だ。
精霊というのは、まあどこにでもある属性を象徴する生命体みたいなもの。
精霊使いというジョブのプレイヤーが、精霊を召喚して使役できるそうだ。
だがこの剣を所有する事によって、精霊使いにならなくとも、精霊を使役できる能力を持つ。
めちゃくちゃじゃねーの・・・。
「まあ、ずっと誰にも頼らずに俺一人でたどり着いたんだから、これくらいの性能は当然か!」
聖剣の所有者は、当然一本につき一人だ。
ネットにも、このゲームもwikiは存在するが、聖剣の情報はほぼ皆無に等しい。
ほぼ全てのプレイヤーが狙っている聖剣を、わざわざ情報として載せるバカはいない。
「さて、聖剣も無事手に入れたし、一旦ログアウトして夕食の準備をしよう。」
と、俺は意気揚々とシステムウィンドウを開き、ログアウトを選択する。
いつも通り、景色が歪んだかと思うと次の瞬間にはいつも見慣れている・・・俺の部屋の天井が・・・あれ?
「あれ?」
おかしい。
いつもなら、ログアウトを選択したら景色が歪んで、仮想世界へのログイン状態が解除される。そしてベッドで寝てる状態の俺は、いつもの見慣れた部屋の天井を最初に見る筈・・・なのだが。
何でマップが移動してんだ?
さっきまでは、石でできた建物の中にいた。
あちこちに開けられた窓からは光が差し込んでいて、その光がちょうど祠に当たり幻想的な雰囲気を出していた。
だが、今目の前に広がる景色は違った。
祠はある。だが、さっきまでの祠の影はなく、あちこちがひび割れて崩れている。
建物自体も劣化が進んでおり、窓も瓦礫か何かで塞がっているらしく、光が差し込んでくる事もなかった。
少なくとも、俺はこんな場所を知らない。
慌ててシステムウィンドウをもう一度開き、ログアウトを選択しようとした。
だが、ログアウトの部分が灰色になっており、選択する事が出来ない。
「選択不能・・・って事はあれか。現在処理中ですってか?」
現在ログアウト処理中ですっていうメッセージすら出てないから、それも違うか。
じゃあ、俺に身に何が起きた?
キャラクターウィンドウを開く。
装備品に間違いはない。キャラクターは・・・見慣れたアバターがある。
シュヴァルト Level-125(クラス...双剣士/聖剣の守り手)
武器...双剣 アインス&ツヴァイ
防具...頭 旅人の帽子+10
鎧 熟練者の服+10
足 熟練者のズボン+10
靴 風の靴+10
うーん。目立たないように、ワンランクダウンの装備品になってるし、間違いはないよな。
聖剣捜索中の俺は、目立たないようにいつもよりもランクの低い装備をして、見た目を誤魔化している。
このゲームでの最高レベルは150だ。Lv100を超え始めると、必要経験値が莫大になり、Lv120を超えたプレイヤーは廃人と認定される。
自分も廃人なんだけどね。
シュヴァルト、というのは俺のキャラクターの名前だ。
VRギアからの情報で、俺は男として登録されている。性別詐称はできないのがVRゲームの特徴だからしょうがない。名前は、ドイツ語でツバメのシュワルベから、少し文字変えて採用させてもらった。
(俺自身に変わりはない、か。)
俺自身に変わりはないとなると、俺を取り巻く環境が変わったのか―――?
この部屋だって、見た事は無いが雰囲気はなんとなく・・・。
ログアウトもできず、この先どうしようか、と思った。無事ログアウトできるようになったら、運営に一つ文句でも言ってやる、と心に誓った。