悠藝seven's
川崎光希は、北九州市内でも名門校と言われる悠藝学園に通う普通の女子である。それは当たり前だ。
けれど、学園内では違う。
それは三年前。入学式直前のこと。
一通の電話が掛かってきた。
「はい、川崎です。」
『おはようございます。悠藝学園です。』
「はい、何のご用でしょうか…」
『そちらのお宅の光希様のご入学についてなんですが…』
「はい、」
『入学手続きで何らかの手違いが起こりまして…』
「?」
『光希様は男として入学して頂くことになりました。』
「えっ?」
あまりの言葉が信じられず、思わず耳を疑った。
「そ、そんなの聞いてませんよ!」
『突然の事で申し訳ありませんが、もう決定してしまったことなので…でも、それならば特別に、学園に在学する6年間は、全額学費を免除させて頂きます。』
悩んだ挙げ句、母親と電話を変わると、母親は話を聞いた。
「あぁ、それならいいですよ(^^)」
「え!?お母さん?ちゃんと話聞いてた?」
「うん。6年間全額学費免除はとってもお得じゃない?」
「そうだけど…」
「という事なので、宜しくお願いします。」
「お母さん!?」
『わかりました。ありがとうございます。』
…という事で私は今まで3年間、男として生きてきました。
最初はビクビクしていましたけど、友だちも出来ましたし、とても楽しく過ごしていました。
今日までは。
今日は、来年高等部になるため、高等部の校舎の自由見学会が行われていました。
「優太、始めて来たけど、なんかレベルが違う気がする」
「そう?毎日来てるから慣れたけど。」
優太がテキトーに相槌を打ってくれた。
優太は入学当初、一番に話し掛けてくれて、今では一番信頼出来る親友にまでなっている。
「優太ー、あっち行こうぜー」
クラスメイトの声。優太は誰にでも人当たりが良く、人気者だ。
「あぁ行く行く。光希じゃーね、迷うなよ(笑)」
「迷う訳無いじゃん(笑)いってらー」
優太もどっか行ってしまったし、私は中等部の校舎へと帰ろうとした。でも…
「あれ?中等部棟って、どこだっけ…」
辺りを見回しても誰も居ない。このゆう
「確かこの道を通って来たはず…」
私は記憶を辿って、来た道を思い出そうとした。
だが、来たときは睡魔に襲われていたため、記憶が朦朧としている。
「どうしよう…」
「あれ?何で中等部の男子が高等部の女子棟にいるの?」
「えっ?」
振り返ると、後ろには、どこかで見たこと有るような顔と腕章。
「生徒会長さんですか?」
「えぇ。私は桃田沙奈英。君は?」
「わたっ…僕は川崎光希と言います。」
「川崎くんね、覚えておくわ。で、何で君はこんなとこにいるの?」
「あ、あの、今日は高等部棟の自由見学会で、回り終わったので、中等部棟に戻ろうとしたら、迷っちゃって…」
「ほうほう、じゃあ案内してあげるから、ついておいで。」
「あ、ありがとうございます。」
会長さんは、丁寧に道を教えてくれた。
「ありがとうございました。」
「どう致しまして。」
「また何かあったら聞いてね。」
「はい、ありがとうございました。」
「…××××××な子」
「え?」
会長さんは、何か呟いたようだけど、はっきりとは聞こえなかった。
私は気にせずちょっと歩くと、優太を見つけた。
「お前どーせ迷っただろ(笑)」
「…迷った」
「よく帰って来れたな?」
「いや、途中で生徒会長に会ってさ、送ってもらったんだよ(笑)」
すると優太の表情が変わった。少し黙ってこう言った。
「…生徒会長には関わるな」
「え?何で?」
「あいつはヤバいから」
「ヤバいって何が?」
「とにかく会長には関わるな、分かったか?」
「え…うん…」
優太の目が本気だった為、私は何も言い返せなかった。
私はいつものように優太と昼ご飯を食べた後、図書室に本を返しに行った。クーラーがガンガンに効いているだだっ広い部屋。市立図書館に負けず劣らずの広さだ。それにしても人が居ない。
いつもだとただのガリ勉達が五月蝿くシャーペンの音を立てながら参考書相手に頑張ってるのに、今日はそいつららしいやつどころか、図書委員すら居ない。
不思議に思いながらも、本を返却する。
「あれ?これどこあったっけ…」
「おぉ光希じゃん、手伝おうか?」
「え?」
後ろを振り返ると、本棚の上に、人が腰掛けていた。
「あ、るなるなか、びっくりしたぁ…」
四谷瑠美。一年後輩だけど仲のいい友達。通称るみるみ。
「いつから居たんだよ…」
「えー?川崎先輩がくる前からずっとここにいましたけど?」
「えっ?マジ?」
「うん。」
するとるみるみは本棚から飛び降りて、華麗に私の前に着地した。「で?何?返却ですか?」
「あ、うんそうだけど、どこあったか忘れたんだよ。」
「へー、じゃあこのるみるみ様に任せなさーい(笑)」
するとるみるみは一冊ずつ丁寧に本棚に返した。
「ありがと。るみるみ助かったよ」
「どーいたしまして(笑)」
「あ、そうだ、何かお勧めの本無い?」
「ん、じゃあこれとか?」
るみるみは本棚から一冊本を取り出した。
「これ?」
「うん。太宰治の『人間失格』」「へー…どんな話?」
「んー、簡単に言うと、いい生まれ育ちの美青年が、「恥の多い生涯」を送ってきた事を書いてるの。太宰治がある人からもらった日記と、自分の生涯を重ね合わせて書いたものだから、太宰治の自伝であり、遺書でもあるね。この主人公が誰かさんにそっくりなのよね…笑」
「ふーん、分かんないけど、読んでみよっかな…」
「どーぞ」
私は『人間失格』を借りて、教室に戻ろうとした。すると誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい!川崎先輩!」
「あ、うん、大丈夫…」
私がそう言った時には、もうその子はいなかった。
「どーした?光希」
優太が声をかけてきた。
「あぁ優太、ちょっと誰かとぶつかっちゃって…」
「誰だそいつ?」
「さぁ…覚えてる事と言えば、生徒会の腕章と、「川崎先輩」って呼んでた事ぐらいかな」
「…ちっ」
優太が小さく舌打ちをした。
「どうかした?」
「いや、別に。じゃあ教室帰ろうぜ。」
「うん…」
私は優太と一緒に教室に帰った。
「あ、あれ?」
「光希どーした?」
「いや…るなるなにオススメされて借りた本が無いんだよ」
「タイトルは?」
「太宰治の『人間失格』」
「ふーん、他は探したん?」
「うん、一応ね。けどどこ探しても無いんだよね」
「まぁいいや、今日は諦めて帰ろう」
「だな。」
私は下足箱の扉を開けた。
「ん?何だこれ?」
「おっ、ラブレターじゃね!?(笑)」
「優太お前は黙っとけ」
「はい」
よく見ると、そこには探していた人間失格の本と、手紙があった。
「あぁ、あって良かった…なくしたらるみるみに何されるか分かんないしなぁ」
「何て書いてある?」
「えっと…」
手紙にはこう書いていた。
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川崎先輩へ
先ほど廊下でぶつかった者です
ごめんなさい、お怪我はごいませんか?
そして、何故か突発的に本を取っていってしまいました
お返し致します
機会があれば、直接会ってお詫びしたいです
それでは、また
中等部一年 入口八恵
ーーーーーーーーーーーー
「入口八恵…か」
「結花、そいつにも関わるな」
「へ?」
「生徒会には関わるな。違う、まだ生徒会はいい。くれぐれも会長と副会長にはあんまり深く関わるな」
「何で?」
「いいから関わるな」
「…うん」
優太がいつもと違い怖く感じてしまった。
帰り道。
私は優太に気になる事を思い切って聞いてみた。
「優太ってさ、どーして生徒会嫌ってんの?」
「…」
「何か恨みでもあんの?」
「…」
「答えてよ」
「…今は言えん。家帰ったら、lineの個チャおいで」
「…分かった」
「じゃーな」
「夜な」
早速家に帰ってlineの個チャで優太に問い掛けた。
「じゃ、教えて」
「うん、全て話そうか。2年前の話だけど。」
俺は当時小6。
隣の家に、優しくて仲の良いお姉ちゃんが居たんだ。
そしてその人は、俺の初恋の人でもあった。
いつも家に帰らないでそっちの姉ちゃん家に通ってたんだよな。
姉ちゃんは俺らの学園に通う生徒会の中3だった。
「もうすぐ高校生になるんだ、生徒会長になれるんだ」ってわいわい騒いでたな。
その後姉ちゃんが高等部に上がり、俺もこの学園に入学した。
姉ちゃんは勿論生徒会長になった。
けど姉ちゃんは変わってしまった。あの日を境にな。
その後、生徒会に変化が訪れた。新しい副会長が入って来たんだ。
副会長は、仕事を良くこなして、良い人だったらしい。
そして、副会長が現れたと同時に、姉ちゃんは変わり始めた。
姉ちゃんは、目に隈ができ、手首には無数のリスカ痕、最終的には不登校になった。
そしてある日、姉ちゃんは変わり果てた姿で校舎下で見つかった。
何で?何で姉ちゃんが?
俺は涙が止まらなかった。
それと、葬儀の時、俺は見たんだ。
副会長がニヤッと笑ったのを。
そして数日後、副会長が生徒会長になった。
俺は仏壇の前で誓った。
姉ちゃんの仇をとってやるって。
そして俺が生徒会長になって、こんな事を全部無くしてやるって。
姉ちゃんを自殺に追いやった副会長、いや、現会長、桃田沙奈英を
ぶち殺してやるって。
「…って事だよ」
私は優太の話を聞いて、驚きを隠せなかった。
「優太」
「ん?」
「お疲れ様」
「え?」
「優太、お疲れ様。ずっとこんな苦しい思いしてたんだね。全部話してくれてありがとう。」
「…うん」
「だからさ、僕も優太の仇とり、手伝うよ」
「ありがとう、光希」
優太は普通に返事してたけど、多分泣いてると思う(笑)
数分経って、優太がまたお題を振ってきた。
「なぁ、入口八恵ってさ、」
「うん、」
「何で光希の下駄箱知ってんだ?俺らの下駄箱、番号しか書いて無いじゃん。」
「え…?」
「だから気を付けろ、あいつ、お前をストーカーしてるみたいだわ」
「え?うん」
「だからさ、あんまり一人でうろつくな。俺かるみるみと一緒に居ろ。」
「…うん分かった」
次の日、私が教室に入ろうとすると、廊下で声を掛けられた。
「さ、川崎先輩…」
「ん?」
「おはようございます、あの、昨日手紙を書いた、入口八恵です。」
「あ…あぁ君か」
思い出した。この子だ。一年生なのに私より背が高くて、生徒会の腕章付けてた子。
「昨日は、色々とごめんなさい!」
入口さんは深々と頭を下げてくれた。
「いいよ、別に、怪我も無かったし、そっちは大丈夫?」
「は、はい…」
入口さんは黙って、俯いてしまった。
「じゃあ、また今度…」
「うん、じゃあね(^^)」
「かーわさーき先輩、ほんとに何もされてないんですかぁ?」
「あ、あぁるみるみ?うん、大丈夫だよ(笑)あの子、何もしなかったし、意外にシャイだったし。」
「気を付けてくださいよ?
もーこっちがドキドキしてるんだからさ…(笑)」
「ごめんごめん(笑)」
「ねえ、るみるみ!」
「あぁ、実依と久美子ちゃんじゃん、どーした?」
穂高実依。るみるみと同じくらいの頭脳明晰らしい。生徒会庶務。
春本久美子。そういや同じクラスの子だ。笑顔でスッゴい毒を吐く子だけどね。生徒会書記。
「重大な話があるの」
「え?」
「あたしたち、生徒会やめようと思う」
「川崎くんも、一緒に聞いて欲しいの」
久美子ちゃんは強い眼差しで私を見た。
「え?僕?」私はテンパる。
「光希、いい?」
「うん、僕も聞くよ。」
私は返事をした。
図書室に移動し、みんなで椅子に座る。
「じゃあ、まず、何でやめようと思ったの?」るなるなが優しく問い掛ける。
「…まず、雑用ばっかりなんです。」
「ほうほう。」
「あと、会長がスッゴい怖くて、命令は絶対なんです。」
「どんなことを命令されたの?」
「誰かの机にイタズラしてこいとか、誰かの上靴に落書きしろとか酷いことばっかりです。」
「イジメじゃねーかよ…。」
「はい、でも最近はターゲットが絞られて来て…川崎くん、あなたのケータイに、最近知らないメールとか来てない?」
「いや、別に…あっ、不在着信なら何件か…」
今もケータイを開くと、四件ほど不在着信が来ている。
「…それ、会長なの。」
「え?」
「川崎くんの電話番号聞いて来いって言われたから、会長に流してしまったの…本当にごめんなさい」
2人は頭を深々と下げた。
「ダメだってわかってたの、けれど、会長が本当に怖かったの…ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
「大丈夫だよ、君たちは悪くないよ?だから、もう謝らないで。」
「…うん、ありがとう…」
2人は泣きながら、図書室を去って行った。
「ねぇ、光希、」
「ん?」
「優太の身の上話、聞いた?」
「…うん」
「大変そうよね、」
「うん」
「あの人ヘタレだから何かあったら支えてあげないとね(笑)」
「うん(笑)」
「光希、」
「ん?」
「帰り道、気を付けてね」
「うん…?」
「良かったね…、話せて。」
「ねー、すっきりしたー(^ー^)」
「あの、2人とも、」
「はい?」
「話は聞いてます。だから…」
「?」
「死ね」
「ギャァァァァーッ!!!!!!!!」
「…ハァッ…ハァ…ハァハァ…」
俺は逃げてきた。自分が何をしたのかも分からずに。
手と、その手が握っている凶器が、真っ赤に染まっていたというだけ。
それだけしか知らない。
これが、夢の実現に繋がるんだ。
だから、だから…しょうがない事なんだ。
と、自分に言い聞かせながら。
どれだけ走っただろう。
それすら分からなかった。
とにかく人目の付かないところに逃げてきた。
俺は落ち着いて記憶のピースを一つ一つ繋げて行った。
「あ…あ、あぁあぁあぁあぁぁぁぁぁ…」
俺は崩れ落ちた。
死にたい死にたい死にたい!!!!
その気持ちが身体中を支配する。
「もう、いっそ…死んじゃおうか」
俺は赤い凶器を腹に当てた。
「今から行くね、姉ちゃん。」
鋭い痛みと共に、意識が朦朧としていく。
「…優太、優太…」
「姉ちゃん?」
「優太…」
「姉ちゃん、また会えたね…これからはずっと…」
俺は姉ちゃんに寄り添おうとした。
バシッ!!!!…
「…え?」
「優太のバカ!!!!!」
「姉ちゃん…」
「あんたうちの仇取るって言ったでしょ?何でこんなことしたの?」
「これも仇取りの一つだよ?」
「違う!!!!優太はそんなことする子じゃ無かった!!もっと素直でいい子だった!!本当に可愛くて、うちはそんな優太が大好きやったと!!」
「…ごめん」
「だから!しっかり正々堂々とやり返して来い!!しっかり復讐するまでこっちに来るのは許さんよ!!」
「姉ちゃん…ごめん!!」
「謝りなさんな!早よ行ってうちの恨み晴らして来い!!」
「…うん。じゃあ行ってくる」
「…優太、優太ぁ!!」
「え?」
俺は目を覚ました。全体的に白い部屋。目の前には泣いている光希。
「…光希?」
「良かった、生きとって…」
「光希…ありがとう」
「心配したんやけんね?また今度俺泣かしたら絶対許さんけ!!!!」
「…ごめんな、光希、…実依たちは?」
「え?だれかに刺されたけど、一命は取り留めたみたい。今は隣で寝てるけど…何で優太知ってんの?」
「…刺したのは、俺だから」
ポロリと出た、その言葉に、耳を疑った。
「えっ、嘘だろ?優太が?違うよね?」
「…俺が全部やった。」
「何で…?」
「俺の夢を実現するため…じゃないね、間違ってた。気付かされた。」
「馬鹿!!」
「ごめんなさいで許されるとは思って無い。けど、今はそれしか言えない。」
「優太…うん」
「ごめんな…?光希が泣くとは思って無かった。」
「バカァ…」
「…もう学校の時間だろ?行ってこいよ」
「うん…」
私は学園に行って、授業を受けた。何にも頭に入らなかったけど。
昼休み。私は何をすることも出来ず、フラフラとさまよっていた。
「川崎先輩、どうしたんですか?」
「あ、入口さんか…別に…」
「小宮が自殺未遂したからですか?(笑)」
「え?何で」
「川崎先輩のことなら何でも知ってますよ?えへへへへ、じゃあ聞きたいことあるんで、生徒会室行きましょ?」
「…っ!!!」
「まぁ、いいや、GPS付けてるし、どこ逃げたってバレバレだしね」
ヤバイ。
本能がそう言っている。
私は一心不乱に床を蹴り込み、廊下を走り抜け、図書室まで逃げてきた。
「るみるみっ!!!窓もドアも鍵は全部閉めて!!」
「八恵に追われてんの?」
「うん…」
「逃げても無駄だよ、あいつ、光希にGPS付けてるよ?」
「えっ…?」
「GPSも外すし、できる限り保護はする。けど、あいつはヤバい。病んでるよ」
「うん…」
「早退届出しとくから、優太のとこ、行ってやり?」
「…うん」
「聞きたいことあるでしょ?」
「うん、話したいこともある。」
「じゃ、バレないうちに行っておいで?」
私は、聞きたいことを、一つだけ聞いた。
「優太、自分で実依と久美子ちゃんを刺したのは分かった。けど、誰に指図されたの?」
「え?」
「誰に命令されたの?」
「…俺は自分の意志で刺した」
「嘘」
「…」
「誰かに指図されたでしょ?優太、あんたみたいなやつが、人殺そうとするとは思えない。」
「…で?」
「だから、全部話して。」
「はぁ…お前にはお手上げだよ」
優太は溜め息を付いた。
「言ってくれるの?」
「あぁ。」
「じゃあ…誰?」
「るみるみだよ」
「…え?あいつが?」
思わず声に出た。
「俺はるみるみに指図されて2人を刺した。」
「何で?」
「俺の身の上話をしたんだ。お前より先に。そしたら、協力してくれるって言ったんだ。何でも言うこと聞くことを条件に。」
「…で?」
「るみるみの言うことは的確だった。だからそれに従った。」
「…で?」
「俺は復讐に夢中で、あいつの意図が分かってなかったんだよ。」
「…ごめんな」
「俺はただ、るみるみの作戦のための道具だった。ただの操り人形だった。…本当に、本当に、ごめんな」
「…うん。分かった。優太は何にも悪くないよ?」
「ありがとう…」
優太は静かに泣いた。
「ねぇ、“私”も、言わなくちゃいけないことがあるんだ。」
「え…」
私は、制服のボタンを一つ一つ外して行く。
「私…女なんだ。」
サラシを巻いているのを、優太に見せた。
「今まで黙ってて、ゴメンね?」
優太はまた、一つ溜め息を付いた。
「…うん、知ってたっつの。最初から全部。」
「え?」
「…分かってたっつの。てか、いい加減ボタン閉じろよ。俺だって…この歳だし…」
「ご、ごめん…」
急いでボタンを全部閉じた。
「…入学当時から知ってた。校長に言われたんだよ。女の子が入って来るから、よろしく頼んだって。」
「何だ…良かった…」
「えっ?」
「いや、女だって知ったら、嫌われるんじゃ無いかって心配してたんだ…でも良かった(笑)」
「バーカ、俺がそれだけでお前を嫌うと思う?俺はどんな光希でも、大好きだって(笑)」
「え?今、何て…」
私は耳を疑った。
すると優太の顔が耳までみるみると赤くなっていく。
「あ、あ…もうっ!!!!俺は、女としてのお前が、ずっと前から好きでした!!!何か文句でも?」
「…別に。でも、気持ちだけ貰っとくね(笑)」
「う…ん」
聞きたいことは聞けたし、
言いたいことも言えた。
「じゃあ帰るね(^ー^)」
「…俺のことは」
「好きだよ?」
「えっ…」
「友達としてね(笑)」
「ん…俺は本気だからな!」
「フフ、じゃーね(笑)」
私はやっとスッキリして帰れると思った。
でも、違った。
「かーわさーき先輩っ♡」
「あ、あんた…」
「GPSもなしに何で来られたの?って顔してますねー(笑)」
「…チッ」
「小宮みたいなあんなヘタレのどこが良いんだか…もう付いてきて貰いますよ」
「え?」
私はいつの間にか入口さんに後ろに回られ、口を塞がれた。
「うぐっ…」
意識が朦朧としていく。
「大好きですよ、川崎先輩。ずっと一緒にいてくださいね」
「…ん?ここどこ?」
「あ、起きたんだ、川崎くん。いいや、“光希”だったね」
「生徒会長…?何でこんなこと」
私が目を覚ますと、そこは生徒会室だった。
「何で?」
「結花が可愛いからいけないんだよ?」
「…てかこれ外してくださいよ!!」
「ダメ♡」
「…」
私は抵抗せず、黙った。
「あれ?やけに素直だね(笑)」
「どうせ抵抗しても無駄でしょ?俺の身体、好きにしてくださいよ…」
「へぇ…まだ男の子のフリしてるんだー(笑)」
「え?」
「知ってるよ?君見るからに女の子だし。口調とか、仕草とかも、女の子のままだよ?(笑)」
「な、何で…」
「まぁいいや、好きにさせて貰うね…?」
会長はニヤッと笑うと、私の唇に唇を重ねて来た…
「ふぇっ…!?」
でもすぐに顔を離してくれた。
その代わり、次はギューッと抱き締めてきた。
「…ちょ、会長さ…!」
「いや」
生徒会長は笑いながら、抱き締めたまま離してくれない。
「やめてくださいよっ…」
「好きにしていいって言ったのは君でしょ?」
「…うっ…」
「じゃあ次は…」
「えっ?」
会長は抱き締めてた手を解いてくれ、拘束の為の縄も解いてくれた。
けど、床に押し倒され、会長が私に被さる形になった。
「女の子ってこと、身体で証明させて貰おうか」
会長は私の制服のボタンを外していく。
「や、やめてください!」
「…本当に女の子なんだね、サラシ巻いて…」
「そーですよ、女の子です」
「じゃあ次はサラシも取ろっか…?」
「えっ…」
会長がサラシを取ろうと私の胸に手をかけた瞬間、生徒会室の扉が開いた。
助けが来た?
「かいちょー、頼まれた昼飯買ってきましたよ」
入口さんだ。
どう考えても助かるパティーンじゃない。
私は絶望の淵に立たされていることに今更気づいた。
「あぁ八恵、お帰りなさい。昼飯ありがとう」
「離れて」
「?」
「光希から離れろって言ってんの」
「え、あんた…」
「離れろ」
「嫌よ」
「離れろっつってんだろーが!!!!」
入口さんが叫び喚いた声が響き、会長を蹴り飛ばした。それと共に嫌な音も聞こえた。
「うぐっ…」
会長はそこにうずくまる。
「あんたさぁ、いつも上から目線でなんなの?私が中1だからって、そんな単純だと思った?馬鹿らしい…」
「入口さん?」
「八恵って呼んでよね、光希♡」
「あんたこんなことして許されると…」
「思ってる訳無いじゃん、てか許さ無くてもいいですよ?どーせあんた死ぬんだし」
「え?」
八恵の手には、真っ赤に染まったままの凶器が握られていた。
「それ、優太が握ってたやつ…」
私は腰が抜けた。
見覚えのある物に、恐怖した。
「ねぇ、光希ぃ…?この会長が居なくなったらね?2人っきりでデートしようね…」
「えっ?」
「だから、こいつがもがき苦しむ姿、しっかりと、目に焼き付けてね♡」
「イヤァァァァァッ!!!!」
私は咆哮した。
凶器が振り上げられる。
グサッ
床一面が真っ赤に染まった。
そして私は気づいた。
血を吐きながら足掻いて苦しんでるのは、会長ではなく、八恵本人って事に。
「何で…」
「ったく、包丁勝手に持ち出すなっつったのに…」
「…あんた」
「瑠美…?」
「るみるみ…何で?何で八恵を、刺したの?」
「約束破った罰。桃さん、あんたもよ?」
「えっ…?」
「光希を監禁して、自分の好きなようにしていいとは言ったけどさ、縄解いて良いとは言ってないよ?」
「ご、ごめんなさい…」
「じゃ、殺すのはやめてあげる。…その代わり…」
「え?」
「生徒会長の座を譲りなさい」
「…い、嫌よ!!生徒会、いや、この学園は、生徒会長である私の物よ!!!あんたみたいな未熟者には渡すもんですか!!」
「…あんたはさ、生徒会長って肩書きに自己満足してただけでしょ?」
「え…?」
「あんたは、生徒会長ってもてはやされる事に恍惚の表情を浮かべてたじゃない。」
「…そ、それは!」
「あんたは生徒会長になって、この学園を正そうとは思って無かった。ただ、肩書きと権力が欲しかった。それだけでしょ?」
るみるみは冷たいどころじゃない視線を会長に浴びせた。
「…そうよ、私は権力と肩書きが欲しかった。それを使って学園を、支配したかった!ただそれだけのこと…」
会長は泣き崩れた。私はそれを、ただ茫然と見つめることしかできなかった。
「あんたみたいな不届き者は、やっぱり処刑しなくちゃいけんねー(笑)」
「え?」
「死刑だよ、死刑。」
「そんなっ…!!」
「まぁまぁ、そう焦らんでもね、もう死刑執行はしてたんだよね(笑)」
「え?」
「もうすぐ全身に回ってくるよ」
「…うっ、あ、あぁぁぁぁぁっ!!!!」
「会長さん!?どうしたんですか」
私は会長に駆け寄る。脚を痙攣させながら、倒れ込む会長。
「るみるみ…、あんた会長に、何した?」
「あんたのティーカップに毒塗ってたんだ(笑)」
「るみるみ!」
「ざまぁみろだよ…死ね
あーあ、もう本当に使えん奴らばっかり…どこで計画狂ったんやか…」
「るみるみ!あんた何したか分かっとる!?」
私は瑠美の胸ぐらを掴んだ。
「うわー、光希怖ーい(笑)」
瑠美はケタケタと笑ったままだった。
「瑠美が何でこんなことしたか、教えてあげようか?」
「え?…じゃあ、聞かせてくれよ」
「…あれは2年前、かな?」
優汰の初恋の人が死んだ。
この学園が進学校になったのも、これぐらいのときだった。
私は小学5年生。私にも大切な人がいた。いとこのお兄ちゃんだ。
そのお兄ちゃんもこの学園の人だった。
そして、そのお兄ちゃんの彼女が、美幸ちゃん。そう、優太のいう、姉ちゃんだった。
時々その彼女の事を話しているお兄ちゃんは、とっても楽しそうに笑顔を浮かべていた。
そんなにお兄ちゃんの心を奪っている美幸ちゃんに嫉妬してしまった。
その嫉妬心は日に日に募って行く。
ある日、良いことを聞いた。
その美幸ちゃんが、生徒会長をしているとのこと。
私は良いことを思い付いた。
生徒会長の仕事が上手く行かず、気が滅入っている美幸ちゃんに、お兄ちゃんが幻滅して、見向きしなくなれば、私の事だけ見てくれば良いじゃないか、と。
私はそれを実行にうつした。
その学園の友達を使い、頑張って美幸ちゃんの評判を落とした。その時に知り合ったのが、桃さんだった。
桃さんは生徒会長に憧れてた。まだその時は純粋に、生徒会長になりたかったらしい。
ある日、お兄ちゃんが、美幸ちゃんをフった。
普通なら、それで終わりのはずだ。
けれど、私の嫉妬心と、桃さんの野望は、それだけじゃ収まらなかった。
ある日の夜、美幸ちゃんを屋上に呼び出して、訳を聞いた。泣きながら、理由を話す美幸ちゃん。
私にはひとこと、言うしか無かった。
「大丈夫だよ、心配しないで」
私は美幸ちゃんの背中を押してあげた。
そのあと、桃さんが生徒会長になった。
でも、桃さんは変わってしまった。
生徒会長と言う肩書きと、その権力だけが欲しかったなんて。
桃さんにはイラついた。
それと同時に、私には新しい計画が思い付いた。
いや、野望だ。
1つ前も、今も、生徒会長はダメだった。
だから、私が生徒会長になって、この学園を正してやるってね。
で、今まで行動してたって訳。
優太だって、桃さんだって、八恵だって。
自分の野望に溺れて、利用されてること分かってなかった。
そして、私はその野望を踏みにじって、自分の野望を叶えていこうとした。
まず生徒会をぶっ潰す為に、桃さんと八恵を利用して、実依と久美子ちゃんに嫌がらせをし、優太に刺させた。
そしたら、丁度自殺未遂してくれたし、良かったんだよね(笑)
「でもどこで狂ったんだろーねー(笑)」
「…」
「全部完璧だったはずなのにねー(笑)」
「…怖い」
「誰に狂わされたんだろー?(笑)あー、分かったー!光希だー(笑)」
「…え」
「あんたのせいで全部台無しになったんじゃん。だからさ…あんたも死んでもらわなきゃ」
私は全てを悟った。
るなるながすべての元凶だ。
るみるみの歪んだ何かが、全てを狂わせたんだと。
それが、みんなを狂わせたんだと。
「どう死ぬのが、お好み?桃さんみたいに毒殺もいいけどー、やっぱりみんなと一緒に刺されて死のうか?(笑)」
瑠美の笑顔で、ある一文を思い出した。
神に問う。無抵抗は罪なりや?
人間失格で、主人公が病院に入れられる時の言葉だ。
「…いいよそれで」
「じゃーまたね、光希!」
瑠美はそう言うと、真っ赤になった凶器を、振りかざした。
自分の胸に。
「…え?
嘘…でしょ?嘘、嘘!!嘘だよ!」
私は泣き続けた。
真っ赤な生徒会室に、1人閉じ込められて、泣き続けていた。
嗚咽が止まらない。
誰か助けて、としか、言えなかった。
「優太ぁ…助けてよぉ…」
その時だった。
「光希!そこにいるのか!?」
「優汰…?」
「あぁ、俺だよ!今助ける!」
「ありがとう…」
ドンッ!!!!ドンドンドン!!!!
ばんっ、と音を立てて倒れるドア。
その先には、優太が。
「優太、遅いよ…」
「ごめん、分からなかった。本当遅くなった、ごめんなさい…」
「遅くても、ちゃんと助けてくれたじゃん…優太、ありがと…」